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44話 別居2日目 私の覚悟

「尻だ!」


「胸だ!」


「まだやってるのか」


帰社直前まで同僚の二人は話し込んでいた。


いや仕事しろよ!

と言いたかったが今日の私も全然仕事に手をつけられなかったので言う資格はなかった。

それに今の時期は仕事落ち着いているからまだいいか…。



「男の胸も尻もどっちもいいじゃないか…」


「何か言った?小田?」


「いや別に、オツカレサマでーす」



私は仕事仲間と別れて家に帰る。


「ただいま」


真っ暗な家の中。

彼くんの姿は当然、ない。


もしかしたら帰ってくると期待したけれど、いなかった。

ここで自ら帰ってくるような人ではないことを十分に理解しているというのに。


「…」


会社の中では人がたくさんいて麻痺していたが、ここで一人になると寂しい感覚が戻ってくる。

仕事のスーツを脱いで椅子の上にかけた。


「あっ…と」


このままスーツを脱ぎっぱなしにしておくと彼くんに怒られちゃうな…。


でも彼は今いないんだった。


「あ…夜ご飯買ってきてないや」


自炊する気にもならないな…。

自前の非常食用の缶詰などを開けて食事をする。


カチコチと時計の音が響く。



私は普段から1人でいて寂しいと思うことはなかった。

1人でいるときは絵を描いていてそれはそれで充実していたからだ。


今は、今はどうしても…


「さみしい」


私はぽつりと呟いた。


この日は、あえて絵を描かなかった。

そのままお風呂に入って歯磨きをして、一人のベッドで眠って一日を終えた。



ーーーーーーーーーーーーーーー


翌日、金曜日。


いつもと変わらず私は仕事に出勤する。



「昨日は顔色が悪かったけど、今日は大丈夫?」


「あ、はい。大丈夫です」



これで話しかけられたのは7回目。

かなりの人に心配され話しかけられた。

そんなに辛そうな顔してたかな、私…。


昨日よりか仕事は進めることができた。


頭の中では、どうして彼くんの仕事の荷物がなくなっていたのか?だとか彼くんはどこで泊まってどこで寝ているのか?だとか…疑問が尽きなかった。



私はどうすればいいのかもう決まっていた。

だけど、一日だけほかのことをして考えたかった。

自分の決断が正しいのか、否か。



「…」



昨日話した事情を知る仕事の同僚の人たちも、話しかけてはこなかった。

まぁ…あまり顔を合わせるタイミングがなかっただけだ。


そのまま、大切なものを置いていくように仕事をしていった。




ーーーーーーーーー



夕方になり定時の時間になった。


私は家に帰る前にトイレの個室に入って、自分のかばんの中身の封筒を取り出した。

その封筒は、退職届と書いてある。


「…」


元々、今日はこれを出さないつもりだった。

本当に私に覚悟があるか確かめるため、自分の選択に後悔がないようにするために慎重に行動すべきと思ったから。


トイレで退職届をまだ提出していないことを確かめ、それをかばんにしまって自宅に帰った。



ーーーーーー



自宅に帰った。一人だった。


絵を描こうとパソコンに目をやったが、やめた。

私の心は絵を描くのをやめたことをすんなりと受け入れた。そんなにつらくない。



うん、描かなくて大丈夫みたいだ。



もうすぐオタクな私とはお別れだ。

絵も描かないし、BLだとかそういうR18なものも卒業。


だから会社も辞める。オタクなこだわりを持っていないとあの会社ではやっていけないし、役に立てそうもないから。


今、あるのは寂しい気持ち。



彼くんは私のパソコンを見てしまって、私の中の好きなことを知って、幻滅したから出ていったのだ。

部屋も散らかしたし、言われたこともすぐにやれないダメな女で嫌われてしまった。


だから全部捨てて、もう一度やり直せないか、聞いてみよう。

それが私の覚悟だ。



私は、私の好きなものを捨てる以上に、彼くんとは別れたくないんだ。



ずっと一緒にいたい。結婚もしたい。


きっと今までの私は気持ち悪かったよね。

今まで、オタクな私のままでいさせてくれてありがとう。


「私は…」


いいや、後悔なんてない。

決めたんだ、こうするんだって。


私は覚悟を決めて、デジタルペンやタブレット、今まで描いた本、自分のモノを捨てるための準備をした。

ごみを出す日までに、まとめとかないと…。

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