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43話 別居1日目 乱れた心の彼と私

翌日


僕は、小田さんのいる家に帰ることができずにホテルにいた。


「もしもし、突然ですみませんが…」


会社に休みの連絡をした。

昨日は私服で出ていってしまって、スーツや仕事のかばんが自宅にある。

彼女と会いたくない僕は、のこのこと家に戻る気はなかったので会社を休むため有給休暇ゆうきゅうきゅうかをとった。



こんな当日に急な休みの連絡をするのは初めてで、会社の人たちに申し訳なかった。

しかし今の状態のまま仕事をしたらミスばかりしそうで悪い結果になりそうだとわかっていた。



「…そろそろか?」



ホテルで身支度を終えて、チェックアウトをする。

時刻は朝9時過ぎ。明日の仕事のため自宅に戻る。


今なら、小田さんは仕事に行っていて留守だろうと見込んで自宅に戻ってきた。

自宅の鍵を開けて、そろりそろりと家に上がる。


空き巣の人の気持ちのようだ。


ドキドキしながら人がいるか警戒しながら家の中に入るが、どうやら彼女はいない。

やはり彼女もまた仕事に行ったのだろう。


出しっぱなしになった片付けられていない食材たちが視界に入る。


…ここにいても気が滅入る。

僕は仕事と生活に必要なものを持ち出して、再び家を出た。


(行くあては……そうだな、友人の家にでも泊めてもらって……)


いいや、ホテルにしよう。

一人でいたい気分だ…。


行き先も決めていない考えなしの僕は切符を買って駅の改札を通り抜けた。


怒るつもりはなかった。喧嘩するつもりもなかった。自制はできていた。


今、僕がいだいているこの感情は知っている。

何かに見切りをつけた時の感情。冷静、客観的になるときの気分。


昨日の僕は彼女に、見切りをつけて家を出ていったのだ。



だけど僕は、あの彼女が嫌いになったのだろうか…。

そのことを考えれば考えるほど、彼女に対しての自分の気持ちがわからなくなる。


そして自分はこの状況に、とてつもなく寂しい気持ちを持っていた。

寂しいのに誰かと会いたい、というわけじゃない。むしろ一人でいたいと思っていて…。

そういう気持ちが、また余計に混乱して気持ちの整理がつけられなくなる。



電車に揺られて、ふとなんとなく自分のスマートフォンを確認した。

着信やメッセージは特にない。



今日は暇だし、遠くのホテルまで行ってみようか……。




ーーーーーーーーーーーーーーーー



仕事の会議の途中。


「では次は、小田さんどうぞ」


「…」


「……小田さん?」


会社の仲のいい仕事仲間に横から小突かれる。


「小田…小田!」


「…は、はい!!」


私は立ち上がる。

目の前には椅子に座る会社の人たちが私を見ている。


「どうしましたか小田さん?」


「あっ、いえ!なんでもないです!えーと…」


周りに不思議そうに注目された私はプレゼンテーションを始めた。



ーーーーーーーーーーー



会議が終わって私は自分の机の前に座っていた。

今は昼休みで、会社内は昼食をとっている人たちが外に行って人が少ない。



「よっ」


「ひゃっ!」


頬に冷たいものがあたる。


「小田ァ、どうした」


先ほど小突いてきた友人だ。缶コーヒーを私の目の前にコンと音を鳴らして置いた。


「今日おかしいじゃない、体調悪いの?」


「あー…わかる?」


「誰だってわかるわ。会議の人らあんたが心配で会議終了したからね」


「えっえっ?うそ!?」


私は大声を上げる。

確かに…私のプレゼンが終わったら不自然な流れで会議が終了していた。


「ほら気が付いていない。あんた休んだほうがいいよ、迷惑かけるならさ」


「うっ」


はっきり言われてシンプルに傷ついた。


「それに昼休みなのに食べてもないじゃん」


「あはは……」


乾いた笑いが出る。


「…彼氏か?」


「お?恋愛か!?」


「彼氏か!?」


どこからともなく現れる野次馬たちの同僚2人。

乙女ゲームに魂を売った女たち……人の恋愛事情に対しての聞き耳が異常に鋭かった。


「で、どうなの?」


「えーとそのぉー…」


問い詰められた私は素直に白状した。


「…うん、彼氏出ていって帰ってきてない」


「「「え!?」」」


仕事仲間たちは驚いた。


「椅子用意!」


座っている私の周りにころころとキャスター付きの椅子が3つ、素早く準備された。


「では、続きを」


私はかいつまんで説明をした。


「隠してたBL活動がバレた?」


「そりゃ……オタクの宿命だわな。バレたら別れるっしょ」


うんうんと同僚たちが頷く。


「でも小田の彼氏ってあんたがそーゆー…性に野蛮な活動してるって知ってるんじゃなかった?」


「…うん」


「えっうらやましい!」

「その彼氏くれよ」


同僚二人がやんややんや言ってくる。


「だから活動に対しては許されてるって感じなのよ、こいつは…だからね、あんたそれ以外にやらかしたんじゃないの?」


「うーん…やらかした、というより…」


「と、いうより?」


何もやっていないのが、問題…なのだろう。


「私、彼くんにそういったことの話はしてないし…」


「そりゃ彼氏にBLの話されたらなえるわ」


「それは、そう!」


私は大きな声で同意した。


「だけど……」


私は隠してばかりで逃げてばかりだ。今もきっとそうだ。そこに原因があると自分でもわかっていた。

こういう時こそ、喧嘩した相手と話し合うべきなのに…。

その張本人に連絡できていない自分に自己嫌悪した。


でも、何をどうやって連絡すれば解決するのだろうか…。


「何をしてどうすればいいのかわからないの……みんなは、わかる?」


私の恋愛野次馬たち3人は顔をそろえて、


「「「わからん」」」


と言い放った。


「ぜんっぜんダメじゃん…」


私はため息を吐いた。


「当たってぶつかるしかないんじゃない?」


「お金を使って貢ぐとか!ほらガチャに給料と全財産ぶち込むように!」


「男なんて単純なんだから女の武器使っとく?」


3人の意見はばらばらだ。


「女の武器は美人限定だからそれ」


私は真実を言い放った。


「あるいは巨乳」


「いいや尻だね」


「巨乳!」


「尻!」


乳派と尻派の同僚が喧嘩を言い争いをしだす。


「もういいから性癖の話はあっちでやって」


私がやれやれと二人を会話を追い出すと



「もう、捨てるしかないんじゃない?」



一番仲がいい友人が言った。


「何を捨てるの?」


「趣味と、さがを。あるいはその彼氏を」


「だって同棲するのなら結婚が視野に入っているわけでしょ?そうしたら、あんた今までと同じでいいと思ってるわけ?」


その言葉は私の胸を貫いた。


「結婚して、そのままの自分でいるってことは難しいと思うのよ。ずっと一緒に生活やらなんやらやっていくわけだからさぁ……オタクは何かに捧げて生きているわけじゃん。推しだとか、ゲームだとか、あんたの場合は、絵だとか」


「…」


私は黙って聞いていた。


「だから、オタクは恋愛相手に捧げないといけないのよ」


「…何を?」


「そりゃぁ彼氏いない歴=(イコール)年齢のあたしにはわからないわよ」


「…」


「まっ、それができればオタクや腐女子やらやってないんだけどねー」


「…そっか、ありがとう」


「お?元気出た?」


「元気は出てないけど……もう、大丈夫」


私はもらった缶コーヒーをあけて飲んだ。

ブラックコーヒーだ、苦い味が喉を通っていく。



今の話の中で、私は胸にすとんと落ちたものがあった。


それは今まで逃げてきた問題が明白になったから。


私には、覚悟が足りてなかったんだ…。


その問題とは、オタクである絵の活動か、彼くんとの結婚か。

どっちをとるか…いや


どっちを捨てるのか


決める日がきたのだ。


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