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42話 同棲数か月後 喧嘩

あー…今日も疲れたな。


なんとか日が落ちる直前に帰ることができた。


「ただいまー」


おぉ、なんだか家が綺麗になっている。掃除してくれたのかな?

私は玄関で靴を脱いでリビングへ向かう。


「おかえり」


「うん」


…気のせいか?両肘を机の上に立てて座っている彼くんの声がいつもより低く、味気ない。


疑問を浮かべながら自分の部屋に入る。


散らかっていた部屋が片付いていた。


「ちょっと、部屋に入らないでって…!」


ちょっとムッとした。


「うん……ごめん」


彼くんはまた低い声で言った。

沈んだ声。まるで失意の中にいるような…。

これほど落ち込んでいるような姿を見るのは初めてだった。


「う、うん…散らかした私も悪かったから……それで、どうしたの?」


「え?あぁ…うん」


返事もどこかぬけている。

なんだか心配になってきた。


「何か、困ってることでもあるの?私でよかった聞くよ、彼くん」


「…じゃあいうよ小田さん、いいかい?」


いつになく真剣な表情。


「う、うん…」


「…」


「…」


「……やっぱり、いいかな」


何かを言いかけた彼は無茶をしているかのように笑って席を立った。

明らかな作り笑い。


「ご飯作るね」


「…言わなくていいの?」


「…小田さんは、言うことがあるんじゃないか?」


「わ、私?」


ドキっとして、隠し事がすぐに頭に浮かぶ。


そんな私をよそに彼くんはキッチンへ向かった。

彼くんは冷蔵庫を開けた。同時に小さなため息をついていたのを私は見逃さなかったが、触れなかった。


なんだか、おかしい。

一度、着替えるためドアを開けたまま私の部屋に戻ると、パソコンの電源がスリープモードのままつけっぱなしなことに気がついた。


ハッとして私はリビングへ戻る。


「…見たの?」


彼くんに問う。


「…見たよ」


「どうして…」


覗かれたことに対する怒りがわいてくる。



「君こそどうして、言ってくれないんだ!」



えっ…え?

彼くんの大きな声にビクッとした。


驚いていてかたまっていると


「…ごめん小田さん、ちょっと冷静になってくるね」


そう言った彼君は私のほうを一切見ることなく、家から出ていった。



ーーーーーーーーー



もうすぐ日が落ちる――。


彼くんを待っていたけれど帰って来なかった。


私は部屋の電気もつけず、パソコンの前で絵を描いていて、まだ夜ご飯は食べていない。


彼くんのあんな真剣な顔も、怒った声も初めてだった。

そして喧嘩も――。



家の中がとても静かで、それぞれの家具たちが寂しそうに黙っているように感じた。


時々、トイレに行くためにリビングを通ると、キッチンには料理の途中だった食材が並べられていて、今日の夜ご飯は野菜炒めかなと予想ができる。

その料理は、作られるのだろうか?


トイレから出ると、もしかしたら彼くんが戻ってきてるんじゃないかと思って期待して家の中をうろうろするが、私一人で誰もいない。


再び、絵を描き始める。

現実から逃避したくて、ひたすらに描く。

理想をのせてひたすらに描く。


夜ご飯は食べなかった。

スマートフォンで連絡しようと思ったけどしなかった。

帰ってきてくれると信じてたから。



そうして彼くんは今日、戻ってこなかった。

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