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2話 同棲三日目 彼

「ん~?」



同棲するために彼女が引っ越しと同時に持ってきた大量の段ボール。

僕は彼女である小田さんの荷物整理を空き時間の間に手伝っていた。

手伝うというよりかは積み上げられた段ボールを動かす力仕事だが…。


「時間があったらでいいからこの段ボールあけておいて。量が多くて多くて」


数時間前にそう言われて、小物類と書かれた段ボールを開けると妙な本が一冊出てきた。



「漫画本?」


表紙には2人の男性のキャラクターが描かれている。

1人はエプロンを着て、頬が赤くなっている。

小田さんの持ち物かな?



「…」



特に何も考えずページをめくる。


男性の裸が出てきた。頬を染めている。


「…」


無言で本を閉じた。



落ち着け?

これは?小田さんの持ち物か?



でもこの絵…小田さんの絵に酷似している。

僕は小田さんが時々落書きした紙をよく見たし、彼女もよく見せてくれた。

そんな彼女の絵はとても好きだ…が、



「これはいかがなものか…?」


なんというか…パンドラの箱を開けているような気分だ。

禁忌に触れているような…おぞましいものを感じる。



落ち着け。まだこの絵が小田さんの絵でこの本が小田さんが描いたものかわからないじゃないか。

僕は表紙にペンネームが書いてあることに気が付く。


そうだ、このペンネームをインターネットで調べれば何かわかるかも…。


なんて読むんだこのペンネーム…えーとこうか。

未だにスマートフォンやパソコンなど機械類は苦手だ。

なんとか検索をかけることができた。



…何か本のショッピングサイトに繋がった。



「BLサイト?」



絵がたくさんのっていて、ほとんどの絵が男性が抱き合っている…。



これもまた見てはいけないような気がして、薄目でサイトをみていると、ランキングのところに目の前にある本と同じ表紙のものを発見した。



「これか…」



玄関からガチャガチャと音がする。

あ、小田さんが帰ってきた。


「…」


僕は調べるのを後にして、なんとなくさっき見つけたBL本を隠した。

なぜかそうしたほうがいい気がしたからだ。



「たーだーいま゛ー」



彼女の声色から察するに疲れているか何かトラブルがあった様子だ。



「おかえりー」


「聞いてよーさっき買い物に行ったらさぁー」



彼女は何も知らず話し始めた。


「うん」


僕は相槌あいづちをうつ。

よくある僕たちのやりとりだ。



さっきの本のこと聞いてみようかな?



「あのさ」


「ん?」



彼女は目を丸くして返事をする。



「……先に手を洗っておいでよ」


「ん、そだね」



話を切り出すつもりだったが、言えなかった。

きっと彼女は僕に何かを隠している。その不信感がぬぐえない。



僕は知りたくて聞きたかったが、もうちょっと時間を置いてからにしよう。

同棲してから3日目。付き合ってから数年だけど、まだお互いに知らないことも多い。

一緒に暮らしてみて、幻滅する場面もあるだろう。

それは彼女にとっても同じだ。僕は彼女が好きだから彼女にとって『いい人』でありたい。


僕は彼女の新たな一面を知って、その一面を好きになれるのだろうか?

知ってなお、彼女を好きでいられるのだろうか?




「手洗ったよ~」



彼女の気の抜けた声を聞いて思った。



「はいはい」



優しさをこめて返事をした。

願わくば、好きでいたい。

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