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新米魔王、勇者と交流する

 魔王ウェールこと、地球という星の東京という大都市で会社員をしていたハルコはオタクだった。仕事を頑張っていたのも、オタ活の資金を稼ぐためだった。もちろん、オタ活のために身を粉にして働いていたので、恋愛経験はほとんどない。


「異世界転生ものをたくさん読んでいたし、兄の影響でSF系のアニメもたくさん見ていて、少年漫画を読んだりもしたから、まぁ、知らない方ではないかもしれないけど……これは、ちょっと、やりすぎだった感じが否めない」


 それは、デーモンテイルに『ハルコ様の知識で、新しい魔王軍の軍艦を考えてみませんか?』と、提案されたことがきっかけとなる。ハルコの知識で一番、記憶に残っていた軍艦の形を再現したのだが、横須賀で見たことがある某軍の空母を思い出していた。鋼鉄の蒸気船が完成した。

 魔王に転生した時に付与されたギフトか何かわからないのだが、元居た世界の知識や情報をクリアに思い出すことができるようになっている。頭の中で問いかけると、AIがタブレットの画面を見せながら、説明してくれている感じだ。魔法は想像力が大事だというので、元オタクの妄想力や知識力を頼りに、今回の軍艦の設計図を作ってみたが、オリハルコンで鍛えたらしいので、鉄より丈夫だとデーモンテイルは言う。魔族なので、この軍艦で大量に人が死ぬかもしれないという危機感を微塵も感じられない。相手が盾突こうものなら、否応なく、攻撃し、領土を塵に変えてしまいそうだ。相変わらず、冷酷そうな美少年だと思うが、こういうタイプは前の現実世界にはそうそう居なかった。儚そうでいて、腹黒そうでいて、聡明で……かっこかわいい、妖艶な少年だ。魔族特有の魅力なのだろう。自分の右腕として手腕を発揮してもらって、もったいないと思う。


「ハルコ様?」

「あ、いいえ。その、あくまでも、抑止力として行使してね」

「何をおっしゃいますか。魔王様に盾突こうなど、万死に値します。塵になってから後悔すればよいと思います」

 思った通りのことを口にしたので、頬がひきつる。

「まさに動く軍艦島です、すばらしいですよ、鋼の王国へ奇襲をかけるには、まさにふさわしいかと」

 翼竜兵が海原のどこでも飛び立てるように船の甲板を平らにした。そして、その周りに空母を守るための小型の船を置き、空母の守りを固める。それまでこの世界の船は、一昔前のバイキング時代のような帆船型が多く、風魔法の力で動いている。その風魔法の力と火魔法の力をもって、より強靭で速い近代的な軍艦を

造ってしまった魔王軍の軍事力は飛躍的に向上したのだろう。鋼の王国の領海にたどり着いた時、軍船のお披露目にざわめきが起こったのも理解できた。

 ハルコにとっても、穏便に外交したいのだが、その威圧感ときたら『命が惜しければ、金だしな』だろう。しかも、魔族は人間よりも魔力が高く攻撃的でもあるし、歩く火種なのだ。


「私は、鋼の王国の第二王子、スティールと申します。魔王ウェール殿」

「あら? あなたは……あの時の」

「あ!あなた様は!」

「お知り合いなのですか?」

 顔を見合わせた瞬間、驚いたハルコとスティールを怪訝そうにデーモンテイルが覗き込んだ。

「ええ、ほら。こっそり物見遊山に出かけたときに、街を案内してもらったの」

「目を見張るほどの美しい漆黒の髪は、目に焼き付いていますよ。私の心を揺さぶるほどの美貌。まさしく魔王のように妖艶な存在感がありました」

「それは、褒めてもらってるって捉えてもよいのかしら」

(銀髪の髪、分厚い胸板、陽に焼けた肌……かっこいい。剣士か騎士かと思ってはいたけど、まさか鋼の勇者だったなんて……この人が私の天敵?)

「もちろんです……それにしても……魔王殿、瘴気がすごい……ですね。威圧感も……」

「あ、ご、ごめんなさい。勇者を前に、少し緊張してしまって」

「緊張……ですか?」

「私は、勇者に嫌われたくないのです」

「きらっ!」

(な、なんと、愛らしいことをつぶやく魔王か!)

「勇者は魔王を嫌うものでしょう?」

「そ、それはそうですが……魔王だからと虐げていては、勇者とは言えません」

「え?」

「勇者とは信念を貫くもの、私はそう教わりました」

「信念を貫く……」

「魔王もまた信念を貫くもの、だそうです。だからこそ、ぶつかり合うと」

「ぶつかり……それは少しでも和らげることはできないのでしょうか」

「魔王と勇者の関係を、ですか?」

「はい、たとえば、魔王が存在していても瘴気を抑える方法を模索するとか、国際協定や規定を作ってお互いに守るようにするとか、です」

「つまりは、人間の世界と魔界で和平交渉を行いたいってことですか」

「ええ、大まかにいうと、そういうことです」

「うーん、それは、いささか、難しそうですね。セトラウス神教会と魔界がどういう繋がりを持つかにかかわってくるでしょうから。勇者と言うのも、そのセトラウス様からの聖なる加護を受けていると、されていますから」

「セトラウス神教……(それって、ローマ法王みたいなものかしら)教皇様と会わせても会うことは可能なのかしら?あなたを勇者と見込んで依頼したいです。私とセトラウス神教の教皇様との会談をセッティングしていただけませんか?」

「教皇様との会談……ですか」

「はい。勇者はその加護を受けるのでしょう? ならば、身近な存在ではないのですか?」

「私が申し込めば、大抵のことは叶いそうですが、セトラウス神教会の本部は帝国にありまして……」

「帝国?」

「はい。ここより、さらに南西の方角に進んで、ミラルド山脈を越えたところにあります。大きな大陸の中心の街です。鋼の王国は、鉱山や火山が多いので、農業に適した土地が少なく、人口が少なめで、あまり発展してないんですよ」

「ああ、大陸の中心ということは、世界の中心。いわば、大都会ね」

「そうです。大都会です。我々の国も帝国に睨まれたらすぐに干上がってしまうでしょうね。そのため、我が国もセトラウス神教が根強く信仰されています。帝国の首都は、軍事、教育、輸送経路、農作物、人材、水路、あらゆるものすべてが計算されて整備されています」

「やはり、人間の作り出すものには勇者さえ無力に思うことがありますか?」

「……はい、勇者とて、ひとりの人間でありますから。人間社会に帰属して生活しないといけませんし、私の肩書はひとえに、剣の腕と魔法の腕に覚えがある小国の第二王子にしかすぎません」

「清廉潔白で真面目でなんでも出来て器用な分、厄介ごとを押し付けられそうな設定ね」

「え?」

「ごめんなさい、前世の記憶が残っていて」

「前世ですか?」

「ええ、魔王になる前は人間だったの」

「人間!?」

「ええ、こことは全く違う魔法もなければ、魔王も存在しない無機質な世界」

「無機質な……魔法がなくて、どうやって生活をするのですか?」

「科学技術」

「かがく……魔導技術のようなものでしょうか」

「う~ん。魔法しか知らない人が見れば、その現象は魔法に見えるかもしれない……あ、この錆びた銅貨だけど、このお茶に入ってたレモンで磨くと……」

「おおおっ。ピカピカの新しく鋳造された硬貨のようになりました」

「酢酸という化学物質によって銅が変化してこうなるのよ、こういう現象を科学技術として勉強して実社会に取り入れていくの」

「なるほど……これならば、魔力がいらないのですね」

「そう。電気やガスといった別の動力源となる資源がいるのは確かだけど、それは化石燃料や石炭をくべて精製するの」

「……錬金術に近い技術でしょうか、魔力がなくてもエネルギーさえあれば、どうにでもなると? ふむ。鋼の王国の一員としても、ウェール殿の話は興味深いですね」

「……ハルコ」

「え?」

「私の名前です。敬称はいりません殿って呼ばれると、かしこまっているようです」

「ハルコ、ですね。では、私のこともスティールとお呼びください」

「わかりました、スティール……この世界での魔王の地位が少しでも上げられるように、協力をお願いします。私も、魔族たちが人間社会になるべく害を及ぼさないように努めてまいりますので」

 握手よろしく、ハルコがはにかんだ笑顔で差し出した手をウェールは受取り、それは本当に無意識に甲に口づけていた。

「っ! な?」

 驚いたハルコは、手を引っ込めて顔を真っ赤にする。

「あ、す、すみません……白く美しい手でしたので……思わず……。魔王ですのに、異性には不慣れなようだ」

「なにそれ。勇者だから、女遊びもそれなりだから、これぐらい軽いノリだって言いたいの?」

「いえ、昔の文献に魔王の女性遍歴と言う歴史書がありまして……てっきり、貴殿もかと」

「そ、そんなわけないでしょ!」

「お、怒らないでいただきたい。魔王はごつめの男型をしていたと聞きましたが、ハルコ様のようなかわいらしい魔王ならば、勇者はこぞって降伏したでしょう」

「な、なにを?」

(かわいい? わたしが?)

 同じようにスティールが向けた笑顔に、ハルコは魅入ってしまう。明るく爽やかで純粋な笑顔だったからだ。



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