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魔王ディザスター、小学生を満喫する

新米魔王ハルコ改めウェールと、初めての人間生活を体験する魔王ディザスターの話を交互に書いていきます。

私が人間の世界に来て、十年が経った。小学校四年生である。四年前六歳になる年に小学校という学び舎に入ることになった。家から歩いて十分ほどの公立の小学校だ。


「じゃあ、この問題わかる人!」

 黒板に書かれた問題に対し、理解している者は手を上げ、答えを口頭により伝えたり、板書することで正解を伝える。

「342枚の折り紙を6人に同じ数だけ配ると、一人分は何枚になるか?」

「57枚ですね。ちなみに、次の問題の308個の飴をひとり6個ずつ配ると、51個ずつで2個あまります」

「おおおお、すげぇ。摩緒くん!」

「算数は最強だね」

 勉強の成績に関しては、ほぼオール5を獲得している。やや、国語が苦手である。漢字の書き取りや文章問題は問題ないのだが、人間の勘定を読み解くのは苦手だ。


「おい、お前たち四年だろ? 今日もサッカーゴールは俺たちのだからな!」

「どうするよ? 五年生の暴れん坊に絡まれたぞ?」

「ど、どうするって……今日は俺たちの方が早く来たのに」

「五年生の方々、本日のお昼休み、先にサッカーを始めたのは、僕たちだ。お引き取り願おう」

「なんだ、お前、下級生のくせに生意気だぞ」

「摩、摩緒くん。五年生に盾突いたら、危ないよ」

「ふん、任せておけ」

「やるのか?」

 たった一年生まれが早いというだけで、粋がられても、小学生のお昼休みで運動場争奪戦は早い者勝ちだということを知らないのだろうか? 一昨日は、五年生が勝っていた時、あっさり引き下がったではないか。

「いいだろう。かかって来なさい」

「来なさいだと? 生意気な……うらぁっ!」

 乱暴者と恐れられている小五の男子がこぶしを振り上げて来た。が、私は、ヒラリと交わし、足をひっかける。かまいたちという鎌を持った動きを読み取れる魔物を一蹴したことがある私からすれば、小学生男児の動きなど、カメの動きにも等しい。スピードがあれば、体格差など造作もなく、攻撃力は何倍にもなる。

 案の定、ズザッッ!と派な音を立てて盛大に、先輩男児はこけた。

「う、うううっ」

「だ、大ちゃん、大丈夫か!?」

「派手に転んだようだな、保健室に行った方がいいんじゃないか?」

「ち、ちっくしょー、覚えてろ」

「ふん、小物の言い分など、いちいち覚えていられるか。さあ、サッカーとやらを楽しもうではないか」

「おう!」

 十歳になって、体はやや小柄である。クラスでも背の高さは低めであるが、以前の身体よりも身軽であるので、動きが機敏である。パパの話によれば、パパも中学生ぐらいから成長期に入ったと言っていたので、大人の身体になるにはもうしばらくかかるようだ。

 それにしても、人間の子どもというのは、なんというか、元気だな。生命にあふれている。良くも悪くも。今の私もそれに近いのだが、深層心理は、子どもらしくない子どもになろう。なにせ、前世の記憶を持っているし、何百年以上生きている元魔王の魂なのだから。小学生として生活した経験がない私にとって、学び舎で学友と過ごす日々は楽しくもある。学校でもそれなりにうまくやっているように思う。


「あ、あのう、冴島くん」

「ん?」

「す、好きです!」

 グイッと、恋文を手渡される。

「ど、どうも」

「うぉおお、すっげぇ、摩央くん!今の、隣のクラスの速水さんじゃん。かわいいよなぁ」

「そうだな。だが、今はまだ保護者に養われている身。身を固めるには早かろう」

戸惑いながらも、十歳でも女性は女性だ。紳士的に扱えというパパの教えを忠実に守っている。後で、達筆な筆と半紙に『ながらへば またこのごろや しのばれむ うしと見し世ぞ 今は恋しき』と和歌を添えて返そう。

「摩央くんって、ときどき、おじいちゃんみたいなこと言うんだね」

「それに、小学生の時に抱く恋慕など、まやかしにすぎない」

「大人みたいなことも言うんだな」

「今は、君らとサッカーしたり、虫取りに行ったりしている方が楽しい」

「そ、そっか。そうだよな」

「小遣いでデートなんでできねぇもんな」

「よーし、男の友情に乾杯しようぜ!」

「いや、俺たちお酒飲めないだろ」

「水道水でいいんだよ」

 昼休みの後、手で水をすくい、盃と見立てて、手を合わせて乾杯する。

 その瞬間、私の心の中にある池に一粒の雫が落ちた気がした。美しくも甘い『感情』というの雫が。

次はまた、ハルコのターンです。


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