新米魔王、人間の街を散策する
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「魔王ウェールだと? 例の女魔王か」
「はい。これまで男型と言われた魔王が、突然変異で女になったとか」
「どういうつもりだ。鋼の王国から滅ぼそうというのか」
「父上。俺がそんなことさせません!」
「スティール。そこに控えていたか」
群青色の鉱石を彩ったような輝きを持つ瞳を、正義で揺らせた。生まれたときから、魔王を倒す勇者としての修行を受けた。それは生易しいものではなかった。
「はい。これまで鍛錬してきた自分を発揮するときかと」
「よし、それでは、北西の街にあるフレデリクス城で魔王を迎えよう」
北西の街、フレデリクス。品質の良い椿が咲き誇る地として有名だ。フレデリクス・カメリアという椿油をベースにした香油は、王国内の女性たちに大人気の代物だ。
「うわー、可愛い。いい匂い」
フレデリクスでも有名なマーケットで、奇妙な女を見かけた。スティールは、本国の土産を頼まれ、立ち寄ったのだ。国内では見たこともない織り方のショールでほっかむりをしている。そこからはみ出ている髪は、漆黒の髪をしていた。瞳もこげ茶色で珍しい。魔族かもしれない。スティールは疑いを持って、彼女に近づく。
「お嬢ちゃん、なかなかお目が高いね。それは、特別な染料で香油を染めたんだ」
「キレイね。まるで私の故郷の海を思い出すわ」
椿香油が入ったガラス瓶越しに、こちらを見た。
マリンブルーのオイルが入った瓶越しに見た彼女の瞳に、スティールはくぎ付けになった。
「ドクンっ」と、強い鼓動で胸の奥が振動で揺れた。
(美しい……なんと、美しい瞳か)
「海ですか。いいですね」
「ええ。魚が美味しくて、オリーブが採れて、芸術や船も行き交う……とんだ田舎町ですが」
(そんな港町があっただろうか?)と、疑問を抱きながらも、スティールは、彼女の柔らかな笑顔につられて、自分も笑顔になった。
店で別れた後も、彼女のことが気になって、後を追う。すると、彼女はひとつひとつ丁寧に手帳に街の様子をメモしている。
「ええっと、鋼の王国の銀貨一枚が、隣の国では銀貨五枚ってことは、物価が高いのね。つまり、この国が経済の中心ってこと」
そう呟いている声に、スティールは息を呑む。まるで、異国のスパイのような発言だったからだ。
「そういえば、この手鏡。ものすごく細工がされていてキレイだわ。ガラスを磨く技術はその国の経済力を表すって聞いたことがある」
この国の物価を調査しているようだった。この街は、産業の街であって、観光の街ではない。だから、観光メインの街よりも、市場価格がやや安めだ。歴史的文献は、西にあるし、リゾートなら南。ここは隣国との国境近くでもある。
「お嬢様。そのようなこと、おっしゃって下されば、私がやりますよ」
「いいの。自分の目で見ないと分からないこともあるの。この椿の香油。精製技術が素晴らしいわ。匂いもそうだけど、成分も」
この香油、一滴肌に垂らすだけで、しっとりスベスベなのだ。そんな製品は前に居た世界にもなかった。これを大量仕入れしたい。この国の銀貨三枚で六千円ぐらいの金銭感覚で、この椿油は、量があり、銀貨二枚だった。以前、隣の国で勝った時は、銀貨二枚と銅貨三枚だったので、コスパがすごくいい。
身なりの良い従者が一緒に行動しているようだ。護衛かもしれない。
スティールは、その護衛の強さを計ろうと、気配を読もうとするも、うまく読み込めなかった。
魔王に転生して判明したことがある。
魔物の世界には、流通という概念が無い。欲しい物は、なんとしても、強引に奪ってくるからだ。そう、文字どり強奪である。奪う技術はあっても、それを作る技術が無ければ、量産できない。魔物一人ひとりは、正直言ってあまり頭が良くない。だが、体力があり、腕力だけはひとしおだ。そして、魔王の命令は絶対である。狼の群れのボスのように、遠吠えすれば、いっぱつでひれ伏す。魔物たちがこの国の繊細さの欠けらでも持ち合わせてくれたら、きっと狂暴さも減るはずなのだ。
ハルコは魔王として、どうすれば平和に生きれるかを模索していた。
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