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世界征服してみた  作者: 伊藤源流斎
第1章 黒と桃
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1-5



 場面は放課後の公園に戻る。

目の前の少女はまだ目にハンカチを当て、

同じ姿勢のまま固まっている。


 肩の震えと涙は収まったようだ。

無言の時間は長く感じた。


 ずっとこのまま…

交流の薄かった

あのときの僕たちのように…


 このまま僕たちの時は止まって

しまうのではないかとさえ感じた。


「でね。」

 しかし彼女はついに、続けた。


「ほんとにね、嬉しかったの

私は一人じゃないんだ

みーくんがいてくれてるんだって

安心したの


でもね二学期になって

みーくんの見た目が変わって

騒がれるようにもなっちゃって…


どこかいっちゃうんじゃないかな

って不安になったの


でもね、私はただの幼馴染で

この関係は永遠じゃない。


どこかへ行っちゃったとしても

それを止める権利はないし、

何も言えないの


だからね」


 ここで大きく息を吸い込んでこっちを見た

何かを決意したような目をしていた。


「みーくんさえよければなんだけど…

幼馴染以上の…

友達以上の関係になりたいなって……」


 言いながらまた顔を伏せてしまった。

耳まで赤く染まり、また、小刻みに震えている。



 早く何かを言わなければならない。

そう思いながらも僕の視線は彼女の

斜め上へ向き、

思考を張り巡らせる。


 本能的には小動物のように可愛らしく

小刻みに震えるこの少女を

抱きしめたくてたまらない。


 それと

聞いている途中で思ったことだが、

中学に上がって助けなきゃって

思ったこともそうだし、

いつも僕の心には桃井麗奈がいた。


 人とトラブルなり面倒な関わりを

持ちたがらない僕が、

自ら動こうと思えたのは幼馴染のよしみ、

情のようなものかと思っていたが

果たしてそれだけだろうか。


 僕も彼女が好きだったし

だからこそ守りたかったのだろう。


 さらに、彼女が孤立してそのまま

僕との距離が広がっていくことが

怖かったということもあるかもしれない。


 自分の中で納得はしてしまった。

彼女と付き合えたらどれだけいいことだろう

1学期にこの事に気付けば即答

していただろう。

だが今僕には目標がある。


 大切だからこそ、巻き込むわけにはいかない…


……


 そこまで考えてある案が頭に浮かんだ。

僕はなんて欲張りなのだろうか。


 彼女は優しい。

僕がこんな、

とんでもない計画を暴露したところで

喜んで協力してくれるだろう。


 それは長年の付き合いでわかっていた。

そもそもこんなこと言ってしまえば

もともこもないが


 守るべきものが出来た今

世界征服なんてどうでもいいじゃないか

とさえ思ってしまった。


 まぁでもせっかくだからやるか

危ない目にはあわせないようにすればいい。


 方法はいくらでもあるし、

僕の命1つならどうでもよかったが、

今はもう、そうはいってられなくなった


 ここまでおおよそ二秒

僕は考えることが好きな性分でもあり、

自分の中での問答を高速化することは

最早慣れていた。


 さらに沈黙の時間に

ある程度思考を進めていたということもある。


 だから次の言葉もこの間に用意できた。

そして、麗奈ちゃんの方に向き直ると

こう言った。


「今ね、話聞いてて気付いたんだ

遅くなってごめんね

桃井麗奈さん

好きです。

僕と付き合って下さい」


 そこまで聞くとパッと目を

見開き改めてこちらの方を向いた。


 そして頬を緩ませながら、

またがくんと頭を落とした。

どうやら頷いてくれたつもりらしい。


 僕は彼女と付き合うことになった。

断ることも考えたが、彼女と疎遠になることが怖かったのだ。

 僕は野望と愛……

どちらも手に入れる方法を選んだ。

いばらのみちになるかもしれないが望むところだ。


 煙が立ち上げそうなほど耳まで真っ赤に染まり、

小刻みに震えている

彼女の肩を軽く抱き寄せて言った。


「ねね、僕たち恋人同士になっちゃった?」


 おどけてそういうと彼女は

僕の肩に顔を寄せ、さらには手を握り、

「うん……えへへ

やったー」


「……」

 再び思考停止した。

世界征服なんてどうでもよくなった。

そもそもなんだ世界征服って


 僕の目の前には確実な幸せがある。

普通に暮らしていればそれでいいじゃないか


 目の前の生き物が可愛すぎて

どうしようもなくなってしまった。


……

 いいムードになり、

月明かりの下、僕たちは寄り添った。


 たった今、恋人同士の契りも交わし

いつまでもこうしていたいと思えるような

甘く、幸せな時間が流れていた…


 辺りはすっかり夜になっていた。

そして、

僕は計画を打ち明けることにした。


「…帰る前にね、

話しておきたかったことがあるんだけどさ

二学期になってなんか変わったと思わない?」


どう打ち明けるか少し悩み、

そう尋ねた。


すると、頬を軽く膨らませながらこう答えた


「みーくんがいきいきしはじめた…

あとなんか色気付いた…

おかげでみんなみーくんの良さに

気付きはじめた…いい迷惑……」


 打ち明け方を間違えた。

こんな反応ばかりされてしまっては、

ドキドキしすぎて心臓が

いくつあっても足りない。


「いや、ごめん…

ま、まぁおかげで麗奈ちゃんが

誰かに盗られちゃう~

何とかしなきゃ~

ってなって今こうたれたなら

結果オーライ的な?」


「……」


 睨まれた


 そしてまた耳まで赤くして頬を膨らまし、

涙目でこちらを見上げてきた。


「う~」


 やばいやばい調子が狂う。

そもそもそんなこと言うつもりじゃなかった。

「ごめんごめんちょっと言いたくなっちゃって…」


 気を取り直そう。

深く一呼吸した後、僕は続けた。


「まぁその、なんというか楽しそうなことを

思い付いちゃったっていうか、


そういうので最近毎日楽しくなってきてねー


見た目も変えちゃおうってなって

でね、何を思い付いたかってのがね

一言で言うと世界征服なんだよね~」


「???」

 小首を傾げて正気か?とでも

言いたげな表情でこちらを

覗き込むように伺ってきた。


 それも当然だろう。

いきなり世界征服なんて、

現実離れしたおかしなことを

言い出したのだから……


 でも僕は何事もなかったかのように続ける

「思い付きなんだけどさー、

マインドコントロールってあるじゃん?

あれが出来たら世界も変えられちゃうし


平和な世界になるかなーって思ってさ」


 そこまで聞いて、麗奈ちゃんは言った。

「ふーん、いいんじゃない?」


……まだ懐疑的なようだ


 よし

望むところだ。

リアルで畳み掛けてやろう


「マインドコントロールっていうのは

人の心理に語りかけるテクニックで、

占いとか治療にも使われてる技術でさ

実際ニュースでもやってたりするじゃん?」


「マインドコントロールされて

どうこうみたいなの。

マインドコントロール、

つまり洗脳はまず科学的に可能なの」


「それを大規模に組織的にやりはじめたら、

世界を変えるような影響を与えられる。

カルト教団とかあるじゃん?


ああいうのもマインドコントロール

かけてたりしててさ、


洗脳って悪いイメージがあるんだけど

良いように本当に正しいように洗脳しちゃえば

争いのない平和な世界にだって

なり得るかなって。


簡単ではないけどね。


実際夏休み終盤から既に動いてて


マインドコントロール絡みの本は

毎日読んでるし、

仲間を増やそうと思って

フイッターなんかもはじめた。


まだはじめたばっかりだし全然なんだけどさ。


今までなんとなく息してるだけみたいな

正直やりたいこともないけど、


死ぬ理由もないし、

適当に日々を消化してるだけみたいな

毎日だったんだけど


世界を変えられるような

教科書にのれるような

人になれたら面白いなって


それだけなんだけどさ


ただまぁ…


ここまでガチでやろうってなったらさ

ほんとにある程度できてしまった場合


将来的にそれなりに危険になってくる

恐れもあるんだよね…


やろうとしてることは洗脳だし

国を変えようとしてるわけだからさ…


例えば

こんなこと現時点では絵空事だけどさ


本当に世界を変えられるってなったとき

黙ってられない人たちがいて消されるかもしれないし


他にも、

ある程度信者ができたとして

その一人が変に暴走して

死こそが救済だなんて思い込んで

良かれと思って

殺されるとかいう

とんでもない可能性もあるわけね。


それくらい人の心っていうのは分からなくて

心を操るってこと事態も危険が

ともなうことだからさ…


ニュースとかで聞いたことない?

好きな人を自分のものにするために

殺しちゃうとかさ

実際にあることなんだよね


だから人の心はなんとでもなりうるし

危険もある」


「ここまで心の中にあったからさ

正直に言うと、

今日麗奈ちゃんに話してもらってさ


ああ僕は麗奈ちゃんのことが好きなんだなって

気付いたけどさ…


僕だけなら別に未練とかないし、

最悪死んでもいいとまで思ってたけど


そもそも周りを巻き込むわけには

いかないっていうのはあったし


一人でこそこそやるつもりだったからさ

断ろうとも思ったんだよね……


でもさ、麗奈ちゃんのことみてたらそんなこと

どうでもよくなってね


麗奈ちゃんと付き合えるなら

もういっかーってなっちゃったし


少しでも危害が及ぶようならそのとき

やめちゃえばいいやーってなったんだよね。


まぁでもどんなことにも

リスクはつきものだし、

そのリスクを限りなく低くする手段は

いくらでもあるわけだからさ。


要するに僕は欲張りだから

世界征服の計画をこのまま進める上で、

麗奈ちゃんとも

付き合いたいってなっちゃったのね。


もちろん麗奈ちゃんがちょっとでも

怖いとかあったら

麗奈ちゃんの方が大事だしそれでいいよ


後はまぁどちみち彼氏だし麗奈ちゃんは僕が守るんだけどさ


計画を進める上で麗奈ちゃんに危険とか

不都合は及ばないようにはするよ


ってことでどうかな?」


 僕は笑いながら尋ねた。


 意識したわけではないが、

悪巧みをする子供のような笑みに

なっていたかもしれない。



「ん……私はみーくんの彼女たまから

みーくんがやりたいことがあるなら

支える……」


 彼女の部分が相当はずかしかったのだろう

すごく恥ずかしそうにしている。


 彼氏といったから彼女で答えたのだろうが

無理してしなくてもいいのに…


 僕はそんな彼女に改めて愛しさを感じながら、


 頬を赤らめ目を泳がせまくってる

その少女をもう一度抱きしめてこう言った。


「ありがとう……………

帰ろっか

ごめんね遅くなっちゃったね」


ありがとうの後は麗奈ちゃんにだけ

聞こえるように耳元で呟いた

……


煙を上げてフリーズしそうな彼女の手を引き

すっかり暗くなってしまっていた

夜の公園を後にした。


明日からまた楽しくなりそうだ。


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