表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界征服してみた  作者: 伊藤源流斎
第1章 黒と桃
3/12

1-3

――――――――――――――――――――



中学一年生の頃

桃井麗奈はクラスに馴染めないでいた。



僕たちが通っていた小学校は

1学年2クラス程で、


中学でとなりの大きな小学校と合流するため、


こちらにとってはクラスの半数以上が、

知らない人ということになる。


要するに我々にとっては、

アウェイのような状況なのだ。


その上内向的な性格であり、

仲のいい友達が、学年に数人いるくらいの

僕たちでは、クラスに馴染むことは難しかった。


僕は別に一人でも問題ないし、

それだけならまだよかったのだが、


運の悪いことに入学早々、

向こうの小学校から上がってきた男子が

桃井麗奈のことが好きなのではないか

という噂が流れてしまったのだ。


何故運が悪いのかというと、

この男子というのが

女子に人気のある生徒であった。


それに嫉妬した同級生に目をつけられて

しまったのだ。



その同級生というのが同じクラスの

中心人物だった。


ただでさえ引っ込み思案なのに、

さらに孤立してしまい、

あわやいじめにまで発展しそうな空気があった。


仮に僕がそのような状況だとしたら

孤立してようが、一人でいるのも

嫌いじゃないし、大した問題ではない。


しかし、

女の子は集団で行動することが多く、

周りに味方がいない状況は

かなり息苦しいものだっただろう。


さらに女子という生き物は

陰湿なところがあった。

桃井麗奈と仲良くすることは許さない。


そんな雰囲気が作り上げられて

しまっていたのだ。


幼馴染のよしみもあったし、

今にもいじめられそうな状況で

さすがにほっとけなかったので、

本人に声をかけたりはしていた。



でも僕にはクラスの状況を

根本的に変える力はなかった…


もちろん何かあったら守るつもりだったし、

その意思は僕なりに伝えていた。

僕にできることはその程度だった。



そんな中現れたのが桜ヶ丘詩音だ。


親の都合でアメリカで暮らし、

中学から繰り上がりではなく、

転校してくる形で入学してきた。


持ち前の人懐っこさで、

瞬く間に周りを味方につけていき、

あっという間に新たな中心人物に

なりつつあった。



そしてクラスの異常に

いち早く気付いたのか、

麗奈ちゃんに声をかけたのだ。


さらにすでにできていた友達の輪に

彼女を加え、孤立から救った。


彼女からすればグループなんてものは

関係なく誰とでも仲良くしていたし、

ただ人と仲良くなって

仲良くなった人同士も仲良くなって欲しい

そんな純粋な思いだったのかもしれない。


だが結果的には、

同じ輪の中に麗奈ちゃんを入れる形となった。


それによって彼女は孤立することなく、

また大きな問題も起こることなく

ひとまず収まったのであった。


ついでに麗奈ちゃんと仲良くしていた僕も

詩音ちゃんに頻繁に話しかけられるようになり仲良くなった。


さらに入学当初から馬鹿な話で盛り上がり、

緑川とはそのときすでに

仲良くなってはいたので、


詩音ちゃんは僕がよく話していた

緑川と話すことも多くなった。


彼女にとって知らない人は話しかけて当然

仲良くなって当然なのだろう。


そうやってどんどん彼女のまわりには

人が増えていった。

当時から僕には考えられないほど前向きで外向的な性格であった。


中心人物にとってかわられて面白くないのか

あの手この手で詩音ちゃんは

その座から引きづり降ろされようとする。


しかしそんなことはどこふく風

どんな嫌がらせも彼女はものともせず

明るく受け流してしまうのだ。


もはや周りはみんな詩音派で誰も手は出せなくなってしまっていた。


明るい性格も彼女の人気の理由の

一つであるが、ハーフである彼女には

他の女子にはない異質な魅力もあった。


誰が見ても美人と思われるような

整った顔立ちで、当たり前のように

男子からの人気も瞬く間に上がった。



そんな中、桜ヶ丘紫音と桃井麗奈は

ピンクシスターズなるあだ名で呼ばれてしまうこととなる。


名字をもじった上で、

人気が気にくわなかったのであろう

前中心人物であった、かの女子を中心として


男漁りが大好きであるといったような

根も葉もない噂をあげられて、だ。


ある日、四人がいる場で

何の話がきっかけかは覚えていないが

たまたまそういう話題になった。


僕たちが言うとは考えにくいから多分

詩音ちゃんが自分から言い出したのだろう。


そんなことは気にもとめずむしろ

「ピンク可愛いじゃん」とでも

思ってそうな彼女は、


全く気にしてない様子で

「じゃあ私達今日から花園秘密倶楽部ね」

などとのたまった。


二人は桃と桜緑川ははっぱ

僕はみいやの『み』が『実』

ということらしい。


とくに僕の部分が強引この上ないが、

彼女の明るさで僕らは今のようなポジションに

落ち着くことができた。


緑川は元々明るい性格であり、

大して変わってないだろうし


僕はクラスの立ち位置なんて

どうでもよかったが、


自分ではなんともでできなかった

幼馴染の状況を救ってくれた

紫音ちゃんには今でも感謝している。

――――――――――――――――――――――――――


これが僕たちにとって最も重大な事件の顛末だ。



「あのときのお礼もまだちゃんと言えてないから…」


そう言うと顔をあげ

はにかんで、こういった。

「ありがとう」


その姿をみて僕は衝撃した。

意識が飛んでしまうのではないか

心がなにかを急激に告げている。


「う、うん」

なんとか絞り出した。


そして動揺を悟られないように

笑みを浮かべながら続けた。


「でも結局は詩音ちゃんに

持ってかれちゃったからねー

僕は実際何もできなかった…」


そこまで言うと、


勢い良く顔を上げて彼女は言った。


「そんなことないよ!」


そしてまた恥ずかしそうに、

段々頭を下げながら続けた。


「たしかに、詩音ちゃんにはわたしも

感謝してるけど…


私には

みーくんがいなきゃ駄目だった…


ほんとの意味で

近くにいてくれてるんだって


気にかけてくれてるんだなって思えて…

それがほんとに嬉しくて…」


そこまで

彼女が絞り出すように告げると、


すかさず僕はありのままを伝えた。

「当たり前だよ」

「大事な幼馴染だもん」


じっと見つめる僕の目と、

驚いたように見上げた彼女の目が

一瞬合ったが、


彼女はまたそれまでの体制に戻り

言葉を続けた。


「あう…ありがとう…

ほんとにほんとにね、嬉しかったの

私は一人じゃないんだ

みーくんがいてくれてるんだって

安心したの」

肩の震えが激しくなってきた。


「でもね二学期になってね

みーくんの見た目が変わって、

騒がれるようにもなっちゃって、


どこかにいっちゃうんじゃないかなって

不安になったの…」


そのときついに、堪えきれず

目に溜まっていた涙が一滴こぼれ、

彼女のスカートを濡らした。


彼女は声と肩を震わせおり、

必死で涙を堪えているようだった。


「大丈夫?無理しないでね?」

「話くらい、いつでも聞くから…」


ポケットからハンカチを取り出し

そっと差し出すと、そう言った。


彼女はハンカチを受けとると

「ぐすん…」

「ありがとう」

「大丈夫最後まで言うから…」

涙を軽く拭い、そこまで言うと、

体をピクピクさせながらすすり泣く声だけが

誰もいない暗く寂れた公園に響いた。

僕はそっと彼女の背中を撫でた。


…沈黙が続いた。


その沈黙の中僕は考えた


中学に上がって助けなきゃって

思ったこともそうだし

いつも僕の心には桃井麗奈がいた。


人とトラブルなり関わりを持ちたがらない僕が

何とかしなきゃと思ったのは幼馴染のよしみ、

単なる情のようなものかと思っていたが果たしてそれだけだろうか。


今にして思えば僕は彼女が

好きだったのであろう

好きだからこそ守りたかったし、

孤立した彼女を放っておくことで

僕との距離が広がっていくことが怖かったのだ。


自分の中で納得はしてしまった。


話を聞いているなかで、

この話の内容については、

自分の中で3つから2つにまで

絞れていた。


無くなった選択肢というのが、

既に出たあのときのお礼や今後について

もしくは何らかの相談といったような

軽めの議題だ。


残った選択肢は

この関係が終わってしまうことか、

関係をより進めたいか、

どちらかであろう。


後者だとして

僕は彼女が好きだと気付いた。

彼女と付き合えたらどれだけいいことだろう


1学期にこの事に気付けば即答していただろう。

だが、今僕には目標がある。


大切だからこそ、

巻き込むわけにはいかないのだ…


話は今から三週間ほど前

夏休みの終盤に遡る…


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ