stage:2 黒い手紙
「おい、由美!!」
手紙の事を忘れかけていた頃。
偶然早起きして、新聞を取りな行った父が玄関で叫んだ。
朝食を作っていた私は、火を止めて何事かと玄関へ向かう。
「どうしたの?」
玄関に行くと、父が何かを読みながら険しい顔をしていた。
私の声が耳に入っていないらしく、ジッと手の中の物を見ている。
「お父さん?」
「………。」
もう一度、父を呼んでみた。しかし、反応はない。
「お父さん!」
「……。」
三度目。反応なし。
「……。」
「……。」
「…お父さんっ!!」
「わっ…あぁ、なんだ由美か。」
四度目。とうとう痺れを切らした私は、耳元で叫んでやった。
すると、父は驚いたように目を見開く。
「なんだじゃないわよ。お父さんが呼んだんでしょ?」
「あ…あぁ、そうだったな。」
「で?なに?」
「…あ、いや…。」
私が尋ねると、父は困ったように眉をひそめて口ごもらせた。
「どうしたの?」
もう一度尋ねると、
「……別に、呼んでみただけ。」
と、気恥ずかしそうに父は言った。
しかし、私は気付いていた。父が、何かをパジャマのポケットにしまった事を。
「そう…。」
けれど、私はその事に触れずに台所へ戻った。
なんだか、触れてはいけない気がしたからだ。それから、朝食を食べ、いつものように学校の支度をする。
白いカッターシャツと紺色のブレザー。ブレザーと同じ色の短いスカート。
そして、最後に靴下を履き、学校規定のネクタイをした。(髪や顔などは朝食を終えた後していた。)
すべての準備を終え、鞄バタバタと階段を降りると、直ぐに玄関を降りる。
携帯の時計を見れば、もう8時。
学校が始まるまで、残り50分だ。
私は急いで靴を履いた。
「鍵閉めたか?」
外に出ると、丁度一緒に出た父が尋ねてきた。
「うん、バッチリ。」
私はそう応え、家を後にする。
それから、そんな私の隣を、父が運転する車が通り過ぎた。
「由美!!おはよう!!」
しばらく歩いていると、後ろから声がした。
小学校の時からの親友である崎山加奈だ。
いつも明るく、笑顔が特徴的な女の子である。
「わっ、加奈!!おはよう。」
「な〜に?由美、ビビりすぎぃ。」
「えー、だってー。」
そして、私と加奈はいつものように話ながら学校に向かった。
「なにコレ…。」
学校に着くと、靴を履き替える為に靴箱を開けた。
すると、そこには何を意味するのか黒い封筒の手紙が置かれていた。
もしやと思い表を見てみれば、
『立花 由美様』
やはりそう記されていて、私はすぐにあの時と同じ手紙だと分かった。
「どうしたの?」
なかなか来ない由美を不思議に思ってか、すでに上履きに履き替えた加奈が横から覗き込んでいた。
「"立花 由美様"って…まさかラブレター?」
そして、ニヤニヤと笑いながら私と手紙を交互に見る。
「ちっちがうよー!!」
「えー、でも確かに黒のラブレターはありえないよね。」
「うん。」
「でも気になるー、あけて見なよ。」
「え?」
「内容気になるでしょ?開けてみなよー。」
どうやら加奈は内容が気になるらしく、手紙を開けるようにうながす。
けれど、私は開けたくないと思った。
やけに、嫌な予感がするのだ。
なにか、悪いことが起きるのではないかと思わずにはいられなかった。
だが、隣では早く開けろとでも言わんばかりの形相で、加奈は手紙を直視している。
なので、私は仕方なく手紙の封を切ることにした。
封を開けると、中には
『今夜、お迎えに伺います。』
と記された紙が入っていた。
どういう事?
迎えに来るって…どこに!?
私の頭の中で色々な疑問が飛び交う。
「いっ悪戯じゃない?」
そんな時、隣で覗き見ていた加奈が言った。
私はそうだといいなと思ったが、それはそれで辛いとも思った。
「そ…そうだよね。」
「う、うん。じゃあ…そろそろ行こうよ?」
「うん。」
そして、それを鞄にしまい、上履きに履き替え教室に向かった。