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ハープルシール ~浮遊大地を統べる意思~  作者: 仁藤世音
第2章 Part 3 それは粗雑な
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49 荒ぶる前大公

 城に目が引き付けられていたが、突如小熊亭の扉が開けられたので三人は即座に動けるような姿勢に居直った。この状況でブレイカーズに接触を図る者を警戒しないわけにはいかない。

 どかどか上がり込んできた数名の兵士の中に、アキヒサの知ってる顔があった。ルーの片腕、バウルズはアキヒサと合った目を逸らすと、はっきりとした口調で告げた。


「魔族殲滅部隊のみなさん、これより君たちは帝都警備隊の指揮下に収まります。こ、このまま城へ来ていただく。これは我らが隊長と君たちの隊長ドナテラ・トロプの命であります」

「随分と指揮系統の調整が早いのね。ドナテラがそう言うなんて、私には信じられないわ」


 敵意を隠さないオーロラに、バウルズは一枚の書状を強引に手渡した。読むように促され渋々それを開く。ドナテラからだ。


『みんな、言いたいことは山ほどあるだろうけど一旦城に来て。身の安全は保障するから。それと、ごめんなさい』

「……」

「ご理解いただけたならよろしいですね?」


 向こう側にドナテラがいる以上様子を見るしかないと古参の二人が思ったところだった。ギドが眼鏡に手をかけたのだ。魔術を、使った。

 いきなり若返っていくギドを前に、バウルズ率いる兵士は目を丸くして口が半開きになっている。年齢の皺が消えたギドには、怒りで皺が寄っていた。ギドはバウルズの前につかつかと歩み出ると、睨み下ろした。


「まっったくよろしくないね! 兵士共、この僕をギド・デュモン大公と知ってそんな口を聞いているのか? 僕は世界の危機を前に仕方なぁくこうして力を貸しているに過ぎない。ドナテラ・トロプの部下でもないしましてや! 魔術さえ使えない軍人の指揮下だぁ?」

「し、しかし」

「聞く耳もたぬわ」


 ギドはどこに隠し持っていたのか、針金のように反射する糸でバウルズの両手両足が大の字になるように壁に拘束した。その場の全員が驚いた顔をしていた。アキヒサもオーロラも彼が何をしたのかはわからなかった。


「答えろ。ドナテラは今どこにいる?」

「お、王女自身の部屋だ! すぐに会えるのだから」

「だ、そうだ。アキヒサ。僕と彼女を抱えてそこまで駆けなさい。出来るな?」

「え? あ、あぁ……」


 彼も勢いに押されて承諾してしまった。筋力を強化すればそれも可能ではある。ギドはその返事に満足すると、拘束したバウルズの懐からペンダントを奪い取った。するすると糸を伝ってギドの手に収まる。バウルズの目の色が変わった。


「ドナテラがいた場所にこれを置かせてもらおう。もしお前が言った場所にいなければこれは空の藻屑だ」

「待て、待ってくれ! それだけは……! 大事な物なんだ! ち、地下牢のはずだ! 場所は知らないが、確かに昨夜運ばれていくのを見た!」

「ふん、僕に嘘を吐いたな? そこで棒立ちしている無能な部下に免じてこれは置いて行ってやる。その代わり、その糸は自分たちで剥がすんだな!」


 ペンダントがベットの上に放り投げられた。バウルズの目はそれに釘付けになっている。よほど大切なものと見え、ギドは情報が正しくなくとも嘘はないと確信しほくそ笑んだ。


「さぁ行くぞ、アキヒサ」

「あーもう! 何だってんだ!」


 ギドがことを荒立てたせいで選択の余地は無くなってしまった。アキヒサは二人を小脇に抱えて窓を飛び出し、ぴょんぴょん屋根伝いに移動しだした。日常ならこんな目立つ行為は出来ない。しかし、喧騒の注意は上に向かない。焦る気持ちをコントロールしながら、さすがの身のこなしで人の少ない裏手からこっそり城に潜入した。その部屋は給仕たちの控室らしく、質素な服がたくさん置かれていた。少しだけ散らかっているのを確認したギドの目が光る。扉一枚隔てた向こうは中々に騒がしい。


「よし、これを着ていれば十分誤魔化せるだろう! 僕には似合わんが仕方ない。こっちは先にクルト号を抑えるから二人はさっさとドナテラを掴まえてきてくれ」

「それはいいけどよ! 大丈夫なのかこれ!?」


 パニックになりかけているアキヒサを見てポンと手を叩く。音の方を向けばオーロラがニコニコと笑みを浮かべていた。しかし目尻に皺はなく、アキヒサを本能的に委縮させた。


「アキヒサ、急ぐの」


 無言でうなづくとテキパキと着替えを始めた。オーロラとしてはただ落ち着かせようとしただけだったのだが、彼女も大概落ち着いていなかった。

 着替え終えると互いに目配せして二手に分かれた。ギドは停泊所へ、アキヒサとオーロラは地下牢へ。

 城内は混乱していて兵士と大臣たちが怒鳴りあう様子は動物小屋さながらだ。もはや誰とも知れぬ二人に気を留める余裕がある者はなく、あっさり地下牢への階段が見える位置にたどり着いた。入り口には二人の歩哨が立っていたが、巧みな体術で手早く気絶させて見せた。階段を降りた影に歩哨を隠すアキヒサにオーロラは少し複雑そうな顔になった。


「やたら手馴れていない?」

「んなことない。いいから行こう、どのくらい時間に猶予があるのかわからないんだし」

「あ……そうね」


 どうも一周回って冷静になったらしい。淡々としていた。二人は暗く静かな地下牢へと姿を消した。

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