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42 挑発

 賑やかな大通り。人々は笑顔を振りまき、燦燦と降り注ぐ太陽のもと日々の営みに余念がない。懐かしい景色だった。本質は何も変わらないはずなのに恨めしく、憎しみを抱かずにはいられない。そこら中を闊歩する彼らは何も知らない。あの裏切り者の言った通り記録はないのだろう。ロバートは入り組んだ路地裏に歩を進めた。

 スパーカーもこの景色を見た。殺しのターゲットを変え、今も現役だった。三十四の亡骸に誓って許しはしないが、心のどこかで(よくぞ()()を殺してくれた)と思っている自分がいる。


「いけない。何しにここへ来たと思っているんだ」


 通りすがりの猫が足を止め、声の主を探して首を回した。しかし猫は声の出所を見つけられず、スタスタ歩き去った。惜しかったな、と心の中で呟き、ルーから受け取った帝都の地図に目を向けた。事件場所と日時、被害人数が書き込まれたそれにロクな手掛かりはない。強いて言えば事件現場が都市の中心からは離れていることくらいで、当たりはつけられそうもなかった。


 その時、物陰でマンホールがこっそりと浮き上がり、ハシゴを登って二人の男が出てきた。一人はワトキンス医師、パンパンに詰まったカバンを小脇に抱えている。


「助かったよ。おかげで恩を売る事が出来そうだ」

「気にするなって。久しぶりにシドと仕事できて楽しかったよ。服作りには気分転換も大事なことさ」

「カンポス……。つくづく天職だな、さすがペテルセン先生だ」


 二人の男が抱擁を交わすのを、ロバートは影に融けながらじっと観察していた。二人がそれに気付く様子はない。


「お前だって医師の誇りみたいのがにじみ出てんぞ。それより、それをどうする? ただ渡すのか?」

「あぁ。この中和薬は僕の善意によって提供される。それでいいそうだ」

「そうか……。ドキドキするな。なんかこう、いよいよって気がするよ」

「僕はまだまだ先だと思うけど、まぁそれはまたの機会に、それじゃ」


 二人は別々の方角へ歩いていく。ロバートはひっそり、城へ向かうワトキンスの影に続いた。


***


「師匠! 昨日はすごかったですね! あのおばさん絶命させるのに二分しかかかりませんでした」


 今世間に最も恐れられながらも正体を知られていない二人組。彼らは空き家の屋根裏で食事を摂っていた。花瓶でそよぐのヤカラベの花が食卓を彩っている。


「正直、びっくりだよ。人間の飲み込みの早さって、やっぱり素晴らしい。――おいおい、そんな顔するな。クーラにどうこう出来た話じゃないんだから」

「そうですけど……。魔族と人間。苦しみの連鎖がこの先も続くと思うと……。ブレイカーズは、ロバートのしていることは正しいのでしょうか?」


 サシャ(クーラ)のスプーンを持つ手が止まっていた。透き通ったスープに映った自分の顔を見つめて、目を閉じた。


「神の与えた地獄に、答えなんか求めるな。それよりそれより、最近面白いことがあるんだよ」

「と、言いますと?」

「俺たちが浄化してるのを察知して駆けつけてくるやつがいるのさ。そんな真似できるのは多分魔族。拡声器が出す魔素をかぎつけてやがるのさ」


 え? と机のはじに置かれたそれに目をやった。歌声に乗せた感情を刃とし盾とする、クーラの必需品だ。すっかり扱いが上達している。


「だから逆におびき寄せようと思ってな、王城に犯行声明を送っておいた。俺が宣戦布告する、俺がな。いつまでも足踏みするリナスもこれで動かざるを得なくなる」

「それ、ロバートは?」

「そりゃお前次第だ。それと、犯行声明には街中央の噴水で待つと書いたがクーラは来なくていいぞ。面が割れてないほうが何かと便利かもしれないからな」

「え……、はい……」


 クーラは何も言い返さなかった。この守る力、救う力。これでロバートと幸せを掴む。それだけを願っている。

 ふと、思い出す。あの日、ロブに誕生日プレゼントを用意していたけど、あれはどこに行ったんだろう? すっかり忘れていたけど、自分はもう所持していないんだろう。ドルドさんの家にあった荷物には無かったから。落としたのかな? それとも届いたのかな? 届いていたら、ちょっと、怖いかも、しれないな……。


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