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34 ブレイカーズの過去 前編

 会議室に戻ると、まるで葬儀のような静けさでみんなが座っていた。俺は円卓に受け取った瓶を置いて、簡単にオーロラとのやりとりを話した。


「――というわけなんだけど」

「なるほど。して、そんな飲み薬ですか、あるとは知りませんでした。人間に魔法が使えないのに、なんでそんなものを」


 ギドは元の老人の格好に戻っていた。さっきの醜態は無かったことにしているようだ。


「そんなの俺は知らないよ。これも皇帝が開発したとか?」

「いや、違う。それは魔族の落とし物よ」

「魔族の?」


 アキヒサも怪訝な顔をしてドナテラを見た。 

「そっか、アキヒサは知らないよね。……この話は三年前に遡るんだけど」

「三年前だと?」


 途端にその顔が険しくなった。三年前、そういえば民間人が最後に魔族の被害を受けたのが三年前だとつい最近聞いたばかりだ。俺としては、姉ちゃんのご両親が事故で亡くなられたことの方が三年前と繋がるが。

 

「大丈夫? この話、やっぱ止めとこうか。その薬のことは私が保証するから大丈夫よ」


 ドナテラが暗い顔をして、珍しくアキヒサを気遣った。俺もギドも、話が見えないので成り行きを見守るしかない。


「いや、俺もそろそろ聞いとかなきゃな。この宝石を受け継いだ身として、ヒロヤスの最期を」

「ヒロヤス、とは?」

「俺の弟だ。この宝石は弟が継承したんだが、まぁ、な」

 そう言って、アキヒサは首のチョーカーを優しく撫でた。


「当時、ブレイカーズには私とヒロヤスしかいなかった。その日は防衛壁の近くを航路に取っていた観光船を警備してたの」


***


「なぁ、王女様よ。あの観光船の航路を変えることは出来なかったのかねぇ?」

「またそれを言うの? 仕方ないでしょ、決まったことなんだから」

「だってよぉ……。最悪、魔族から襲われても守れるだろうさ。防衛壁を超えてくるやつはまだ少ないからよ。でも戦闘になったら絶対乗客に見られることになるんだぜ?」

「だーもぅ、ヒロヤス黙れ」


 クルト号の甲板に二つの不機嫌な顔があった。金髪をなびかせる小柄な女性ドナテラと、黒いチョーカーを着けた筋肉質の男ヒロヤス。観光船の一キロ後方をクルト号にしてはゆっくりとした速度で追尾していた。


「しっかし俺たち、ブレイカーズって名前もどうなん? 二人っきゃいねぇし、本当にあと二人もいんのかい? 見つかる気配がない」

「今日はやけに無駄口が多いわね」

「仕方ないでしょ、決まった性格なんだから――ぁ痛っ!」


 生意気な態度にイラっときたドナテラに拳をお見舞いされ、ヒロヤスはよろめいた。この男、トロプ一族をあまりよく思っていないようで、ドナテラはしょっちゅうからかわれていた。


「王女様、そうやってすぐカッカしなさんな。ソフィ王女はもっと淑やかですよ?」

「しつこい」

「かわいくねぇな。…………ん? なんだあれ?」


 急にヒロヤスの顔つきが変わった。

「王女様、まずいです。魔族が観光船の方に向かってます。しかも二体も」

「あぁ最悪、二体以上同時に出たことないのに……!」

「四の五の言っても仕方ねぇ、クルト号を速く!」


 ドナテラがクルト号に念じ、一気に加速させ観光船の横に着けた。ベルトの紫の宝石を銃に変身させ、魔族に狙いを定めトリガーを引く。

「……おかしい、手ごたえがない」

 

 その時背後の観光船から恐ろしい悲鳴が鳴り響いた。

「そんな! なぜ? き、消えた?」

「ヒロヤス、気を付けて。何かおかし――」


 ドナテラは言葉を失った。浮上したクルト号から見えた飛行船、闇色の魔族が人々を襲い容赦なく殺していた。返り血で染まった蔦に覆われた、恐ろしい竜のような魔族。そのワニのような口から、ポロリと人間の腕が落ちた。

「そ、んな……」

「王女様! 打ちひしがれてる場合じゃねぇ! あの野郎がどうして俺の監視の網をくぐったか知んねぇが、俺はなんとか乗客のカバーに入る!」


 そう言うとヒロヤスは勢いをつけて飛行船に飛び乗った。ドナテラも震える手で銃を握りなおし、間髪入れずに魔族に向けて撃ちまくった。今度は手ごたえがあり、魔族が振り向いた。


「きたか、シュニャイクの子。挨拶がわりに花畑でも見せてやろう」


 魔族が低い咆吼を轟かせた。すると、体に巻き付いている蔦が猛スピードで船中に伸びていき、生存者も死体も飲み込んでいった。人体に蔦が深々と刺さり、生存者の叫び声がみるみるか細くなり、消えていく。蔦には赤や青、白や黄色の色とりどりの花々が妖艶に咲き誇った。


「こいつ……!」

「凄いだろう? クソ共の養分を吸って花も元気そうだぜ」


「悪趣味だなこの野郎!」

 帆にしがみついて蔦を躱していたヒロヤスが魔族の頭めがけて飛びかかった。鬼の形相で拳を握る。

 しかし拳が届く前に横やりが入った。薄い黄色に輝く翼をはためかせた別の魔族がどこからか現れて、甲板に叩き落とされたのだ。ファサっと花びらが舞い、うめき声が漏れる。鷲のような頭がヒロヤスを見下ろした。


「いくら魔術で身体強化しようが、打撃で貴様に勝機があるわけがないだろう? 将軍、任務は完了。皆殺しです」

「了解。さすがラグレー、手際の良いことだ。では御二方、またお会いしましょう」


 二体の魔族が羽ばたくと同時に、船を覆う蔦が燃え盛った。クルト号に見向きもせず、飛び去ろうとしている。


「待てっ!」


 ドナテラが銃口を向けると、鷲頭の魔族が振り返りケラケラ嘲笑する。


「俺たちよりも、船内に俺が仕損じたやつがいないか探した方が利口じゃないのかねぇ? あとこんがり焼けそうなお仲間さんとかな」


 ヒロヤスの叫び声が背中に聞こえた。まずい、あの炎の中にヒロヤスはいる! 魔族を優先していられない、ドナテラは燃え盛る炎へ身を投げた。


「ペト! 変身! ヒロヤスを助ける!」


 銃が瞬間、大きな鳥のような生き物に変身した。大きなとさかと翼、茶色いごわごわした皮膚の背に乗り、ヒロヤスが倒れた場所へ下降させた。かぎ爪に摑まれたヒロヤスの火はペトが唾液で消したが、酷い大やけどを負っている。ペトの背中に引っ張り上げると、なんとか生きていた。


「……こうも、あっさり、やられるなんてな……ハァ、ハァ……。今までは、手加減、してたんだな」

「黙れ、早く帰還するぞ」


 しかし、ヒロヤスはドナテラの腕を爛れた手で弱々しく掴み、炎上しながらどんどん落ちていく観光船を指した。


「まだ、生き残りが、……いる、かも」

「いない!」

「まだ、空の底に……行くには……」

「分かった探すから黙れ!!」

「頼ん……だ……」


 ドナテラはクルト号にヒロヤスを横たえ、ペトの背にまたがった。再び燃え盛る観光船に近づくと、肉の焦げた酷い匂いが鼻を抜けていき思わず口をキュッと結んだ。上から船内への扉を発見すると、ペトに指示して炎を切り裂きながら勢いよく突っ込んだ。


 いるかも分からない生存者を探すために。

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