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ハープルシール ~浮遊大地を統べる意思~  作者: 仁藤世音
第1章 Side Part 第20回 スピードシップ
35/56

フィニッシュ

『なんとヴァイカートは給油なしでゴールを目指します! 給油なしで優勝したパイロットはこれまでいません。慌ただしく給油を済ませたバルタネンですが前を維持することは出来ません。双方チャレンジャー、どちらが勝手も歴史に残るものになるでしょう! その差は手元の時計で5秒、フィニッシュまであまり距離はありません! 解説のマスさん、この状況をどうみますか?』

『バルタネンが速いことは昨日の予選で分かったのでヴァイカートはかく乱に出ました。お互いの燃料残量が鍵ですね。ここまでうまく管理してきたであろうヴァイカートが有利かと思います』


 ゴール地点に立つ二つのパイロンが見える位置。そこでパイプ椅子に座るカロピタはそわそわしながら実況を聞いていた。その隣のベレー帽とサングラスをした恰幅のいい男がカロピタをたしなめた。

「ハッハッハ、いい試合じゃないか。ノセよ、もっと楽しみたまえ」

 カロピタは男を睨んだ。

「ノセと呼ぶな、肉だるま」

「君こそ、肉だるまなどと呼んではいけないなあ。金も資材もパイロットも、この私が提供しているんだから」

 カロピタは男を睨むのを諦めて、高原の奥を飛ぶ二つの影を眺めた。まだ距離は遠い。


「はぁあ。全ては副賞の魔導砲のため、これで勝てなかった時のことを考えたらそりゃ落ち着きもなくなるさ。ヒイラギとかいうチームのシップがあそこまで速いなんて思ってなかったよ」

「そりゃそうさ。甘いな、カロピタは。その道のプロってやつは、簡単には越えられない壁を越えているのさ」

 そう言った男の目が獣のように光り、それはカロピタを委縮させた。

 男は心の中で、ペルラにエールを送った。

(君だからこそ勝てる。ペルラ、お前の壁を越えて見せろ)


****


(はやい! あたしだって全力なのに差が詰まらない! なんでっ!? これ以上のパワーは出ない。ヒーロー、そんなに燃料を温存したままここまで来れたって言うんすか? 冗談きついよ)


 ペルラは4秒差の2番手、そこから差を縮めらない。飛ぶごとに、曲がるごとに、刻刻とフィニッシュが近づいてくる。


(ダメ、追いつけない! ヒーローは強い、どうしたら……)


 ペルラの心が折れかけていた。その時、左コーナーへの反応が一瞬遅れ、大回りになってしまった。直線区間に入り、ヴァイカートが高度をグイっと下げたのが目に入る。


(ミスった……。あぁ、ヒーローはあんな余裕で飛んでるって言うのに、あたしは情けない)

(……なんでヒーローはあんなに高度ギリギリを? 昨日この辺りを飛んだときはあんなに高くは。……そうか、しまった!!)

 直線後の右コーナーをクリアしたヴァイカートが高度を上げたのに合わせ、ペルラも高度を上げた。追い風となる気流があった。これに乗ってペルラから逃げていたのだ。ペルラの目にもう一度、炎が灯った。


(やっぱり! 今日は無風じゃなかった……! まだ間に合う? 間に合わせる追い抜く!!)


 ペルラは気流を活用し全力で追いかけた。1秒、また1秒、差が詰まっていく。


(届けーーー!!)


『並んだ並んだ! ヴァイカートとバルタネン、横に並んだまま最後の直線に突っ込んできた!!』


 ペルラはカッと目を見開いて、フィニッシュパイロンの間を駆け抜けた


 歓声が上がっている


 ペルラはシップを既定の場所に着陸させた。

(どっちが、勝ったの?)

 シップの中で呆然としていると、一足先に降りていたヴァイカートが来て、手を差し伸べた。


「おめでとう! ペルラ、君の勝ちだ」


 ペルラはその手を戸惑いの顔を浮かべながら掴んだ。

「ヒ、ヒーロー……。あたし、勝った……の?」

「そうだよ、市街エリアの君が速すぎたことが最大の誤算だった。おかげでこの高原エリアで必要だったマージンも燃料も全く確保できなかった。俺も頑張ったけど、君の努力が勝ったようだ」

 ヴァイカートはやや疲れた笑顔を浮かべた。


 盛大な拍手が新王者と旧王者に向けられ、そこでやっと勝ったという事実に気づいたペルラは溢れてくる涙を抑えられなかった。

「クリスチャン、ありがとう……ございました!」

「あぁ」 

 シップを降りたペルラは、ヴァイカートと抱擁を交わした。



 カロピタは拍手しながら、安堵した表情でそれを見ていた。

「すごいね、この世界は」

 ジェロニモ・ペテルセンも拍手をしながら、その様子を見守っていた。その目は先ほどの獣のような眼差しから、我が子を見るような優しい目に変わっていた。

「そうだろ? スポーツの偉大さはこれだよ。さぁ代表、君もペルラを迎えにいけ」

「あぁ、そうさせてもらうよ」

 

 ジェロニモはカロピタとペルラが握手を交わすのを見届けてから、静かに会場を後にした。

(これで大方の部品は揃った。子どもたちの世界を守るためにも、失敗できないなあ。ペルラ、おめでとう。この瞬間を忘れるなよ)




【第20回 スピードシップ 閃光の新王者誕生!】

 第20回S.S.は劇的な幕切れとなった。予選で他を圧倒したヴァイカートとバルタネンは終始戦略的なレースを展開。市街エリアに入ったときにはもう2人だけの戦いになっていた。バルタネンが先行し高原エリア前でピットに入った一方、ヴァイカートは給油なしでフィニッシュを目指す賭けに出た。

 追いかける立場になったバルタネンは最後の直線で僅差の逆転勝ち。初参戦初優勝の快挙を達成した。以下、両選手のコメント。


ペルラ・バルタネン

「まだ信じられない!! 憧れだったクリスチャンと勝負して勝つことが出来たなんて夢のようです! これもみんながあたしを支えてくれおかげです。今日はパーティーをします!」


クリスチャン・ヴァイカート

「心からペルラを祝福します。私の連勝はこれでストップしましたが、いつか私を負かす選手が来ることは知っていました。でもまだ世代交代とは言わせませんよ! 今日勝つために必要だったことをしっかり理解して、次は勝てるようにします。女性パイロットがこれを契機に、S.S.にチャレンジしよう、と思ってくれるといいですね。最後にもう一度、ペルラとカロピタラボに。 おめでとう!」

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