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手負いの勇者を倒して、最弱から最強ダンジョン  作者: たっぺん
【第一章】〜ダンジョン製作〜
5/5

5 祝杯

遅くなり申し訳ありません。本当に多忙が続き時間がなかなか作れません……。時間がほしい……。

 冒険者である、アンガスとライアン。この二人を倒す事に成功した俺のダンジョン。現在、マスター部屋の奥に大きな洞窟を作成して、そこに今回活躍した魔物達とボス達を集め、祝杯をあげる準備をしている。


 今回この作戦に大きく貢献した主役のウィッチ。アンガスとライアンを騙し、このダンジョンまで誘導し、更に村に情報を与え、俺の思惑を全て完璧に遂行した。


 そして、ウィッチの働きによる初めてのダンジョン戦。それも乗り越える事に成功した。しかしあの冒険者達の実力は決して低くはなかった。何なら、かなり強い部類だろう。一番強い者に声を掛けろと命令したのは俺だが、まさかあそこまでの者が、小さな村のギルドに滞在しているとは思わなかった。


 結果的に勝つ事は出来たが、奴らは『魔人の間』に居るランクEの魔物達を次々と屠り、更にランクCである、クローウルフにも大きなダメージを与えた。マスタールームから見ていた俺は、召喚した魔物達が倒されて行く姿を見て我慢が出来なかった。


 かなりの数が減り、残るは数匹とクローウルフが残った。ここで俺はクローウルフに『念話』を使い、指示を出す事にした。


 ーーマスタールームまで戻れ。


 と。クローウルフは俺の命令が届くとすぐに踵を返し、マスタールームへと移動を開始する。その間に俺は更にゾンビマンとウィッチ、そしてリザードマンに指示を与える。


 二層目の部屋でお前達を残す、全ての魔物を奥の部屋へと移動させろと命令した。一層目でやられた魔物達のように、失うリスクを回避するためだ。命令が終えた後、すぐにクローウルフが俺の部屋へと辿り着く。ヒーリングラビットにヒールを使わせて、クローウルフを回復させる。砕かれた爪も擦り傷も全ての外傷が治っていった時は目を見開いた。


 そして、クローウルフにも命令を下す。左右から入口へと周り、二層目の出口を塞げと。俺の作戦は、ランクCである魔物を、集結させ一気に叩く事だった。イタズラに魔物を死なせるなら、強い力で一気に叩く方が良いと考えたからだ。その為に退路は邪魔だ。


 だからと言ってアンデや他のボス部屋を任せている魔物を動かすのは守護者としての配置が無駄になる。それは最終手段として温存した。そして万が一の為、同じCランクのオーガだけは更に奥の部屋で待機させた。


 結果的に、俺の策略にハマった二人は、助けを求めた筈のウィッチの登場や、逃げた筈のクローウルフに退路を断たれた事、そして他のランクCの魔物。どうしようもない絶体絶命を作り、勝利する事に成功した。


 ダンジョンビジョンにて、全てを見ていた俺はこいつらの頑張りに祝杯をあげずにはいられなくなり、今に至るわけだ。


 「よし、準備出来たな。席に座ってくれ。クローウルフは座れないから好きな所で構わない。サイクロプスもデカイから地面でよろしく。ダークスライムは椅子なくてもいけそうだな」


 アイテム交換で出した、長テーブルに椅子。特に装飾もないシンプルなデザインのものだ。他にも食べ物や飲み物を大量に交換し、テーブルの上に並べている。


 縦テーブルの正面に俺が座り、側面には部下達が座る。この場に居るのは、アンデ、ダークスライム、サイクロプス、ウィッチ、リザードマン、ゾンビマン、クローウルフ、オーガだ。


 「始める前に聞いて欲しい事がある。今回、このダンジョンにて大きく貢献した者がいる。俺はその働きに褒美を授ける程のものだと考えている。何か欲しいものあるか? ウィッチ」

 「ほぇ? わたちですか?」


 ウィッチは俺に呼ばれた事に体をビクッと跳ねさせ、まるで予想もしていなかったような表情をして、俺へと言葉を返す。


 「お前以外に誰がいるんだよ。今回のお前の働きはマジですげぇぞ。出来る事ならしてやるから言ってみろ」

 「あ、ありがとうございますでち。ご褒美……うーん」


 ウィッチは指を顎に持っていき、目線を上にして唸りながら考える。それが暫く続くと何か思いついたのか声を発する。


 「武器が欲ちいでち!」

 「武器か……。確かにウィッチは魔法主体の戦闘なのに、素手だもんな。よし、わかった。渡すのは後日でもいいか?」

 「お願いちます!」


 身を乗り出してそう言うウィッチを見て、俺も何だか頬が緩む。目がキラキラしてて、こう見ると本当にただの子供にしか見えないんだよなぁ。でも実際はランクCの魔物。アンガスを倒した時のあのドス黒い炎の玉を使っているウィッチを知っている俺はなんだが複雑な心境になった。


 「なら、話は終わりだ。待たせたな。ではみんなグラスを持て。初のダンジョン戦勝利を祝い、乾杯だぁ!」


 俺を含めた他のみんなもグラスを持ち上げる。表情がわからない魔物だらけだが、少なからず人型のウィッチやアンデは笑ってくれていた。


 各自、料理や飲み物を自由にさせ、まるでパーティーのような騒がしさだ。特に騒いでいるのはゾンビマン。テーブルから少し離れた場所で意味のわからないダンスをしている。それをウィッチが手を叩きながら見ていて、クローウルフは冷めた目で見ていた。


 そんな姿を見て、苦笑いしている俺の横にアンデが近付き、声を掛けてきた。


 「アーセル様。私達、僕に対してこのような温情を与えて下さり、ありがとうございます」

 「やめろよアンデ。俺は本当に感謝してるんだ。それにお前らが楽しんでくれているのは俺も嬉しいしな。お前も混ざってこいって」

 「かしこまりました」


 また、かたい感じでアンデが言うもんだから笑ってそう言ってやった。するとアンデもまた笑みを浮かべて皆んなの元へと歩いて行った。


 やっと。やっとだ……。一年は長かった。俺を慕ってくれる魔物達とこうして居られる事をあの頃は予想していただろうか。答えは否だ。その点にはあの勇者に感謝しなければいけないな。人間だけどさ。


 初めてのダンジョン戦もそれなりの実力者だったにも関わらず倒す事に成功した。でもまだまだだ。この人間界に名を連ねる魔族。ーー通称魔王達は、更なる高みに居る。今は敵わなくてもいい。でもきっといつかは超えてやる。俺の物語は一年を経た、ここから始まるんだ。



 ■ ■ ■


 祝杯が終わってから一日が経過した。アンガス達以外の侵入者は無し。流石に情報を流したとは言え、そう上手くはいかない。まぁそこは辛抱強く待つという事で落ち着いた。


 それよりも今は昨日の整理を行なっている。初のダンジョン戦の勝利に感極まった俺は、祝杯や頑張ってくれたみんなを褒めることで大事な事を忘れていたからだ。


 魔鏡を起動させ、メニュー画面を開く。すると勇者の時と同じようにお知らせのようなものが自動的に開いた。


 ーー

 ■冒険者ランクB、アンガス・ベイクスを討伐。1500魂入手。

 ■冒険者ランクB。ライアン・ロペスを討伐。1000魂入手。

 ■冒険者ランクB討伐ボーナス×2。1000魂入手。

 ーー


 合計3500!? こんなに貰えるのか……。それに強い訳だ。ランクBの冒険者だったとはな。だが、それでも勇者の三分の一程度。勇者は冒険者のランクで例えると、最高ランクのSとかに分類されるのだろうか。


 なんにせよ、強者を倒して入る魂は多いって事だな。これなら、無理に勇者やそれに近しい冒険者を狩るよりも、今回のようなランクB程度の冒険者を標的にした方がリスクが少なく魂を集められるかもしれない。


 懸念されるのは、その後だな。ランクBだと言っても弱いわけではない。人間からしてもそれなりに上位の実力の者が位置する。そんな者達がこのダンジョンに来て帰らない事が広まると、必然的に知名度が上がる。そうなれば、駆け出し冒険者はおろか、ランクBの冒険者でも近付かなくなるだろう。そして更にランクの高い者が攻略に来る。


 稼ぐなら知名度の低い今の内って事だな。既に布石は打ってある。まずダンジョンの存在を知られないと始まらない。こんな森の中心地に存在しているんだ。Bランクの冒険者だけを誘い込むなんて時間がいくつあっても足りない。だからこその今回のウィッチの作戦だ。


 このダンジョンの悪評が広まり、勇者や冒険者の上位実力者が攻略に来る前に稼げるだけ稼ぐ。そのためには、ただ狩り尽くすだけではなく上手く立ち回らないといけないな。


 「アーセル様? 難しい顔をしていらっしゃいますが、何かあられたのですか?」


 俺が考えにふけっていると、それを心配したアンデが不思議そうな顔をして声をかけてきた。


 「いんや、大した事はないぞ。これからの事を考えていたんだ」

 「これは失礼しました。お邪魔した事を深く反省します」

 「いやいや、いいから! アンデは俺に堅苦しすぎるぞ。もっと肩の力を抜いてくれよ」

 「そうはいきません。アーセル様は偉大なお方。私達の主であり、魔王様でございます。無礼はこの私が許しません」


 はぁ……。ダメだ。何回言ってもこれだもんなぁ。アンデは俺に忠誠を誓い過ぎてる。いや、いい事なんだけどさ……。


 「俺はお前より遥かに弱いんだぞ? なんならクローウルフやウィッチにすら勝てん」

 「御謙遜を。勇者を倒したアーセル様が弱いはずがありません」

 「なら見せてやるよ。ほれ」


 俺はそう言って『ステータス』を開く。ステータスは自身の能力を数値化した魔力の使わない魔法だ。これは人間にも適応されていて、この世界で生きる者の常識でもある。


 透明の小さなディスプレイが眼前に浮かび上がり、それをアンデへ見せる。


 ーー

 ■アーセル・フォード Lv8

 ■性別・種族 男・魔族

 ■スキル 『威圧』『超闇属性』

 ■【攻】21【防】18【速】28

 ーー


 「な? めちゃくちゃ弱いだろ? 比較する為にお前のステータスを見せてやるよ」


 俺のステータスを見て黙るアンデに、更に魔鏡の『ステータス』項目から、アンデの名前を選択し、俺のステータスとアンデのステータスを横並びに表示させた。


 ーー

 ■アンデ Lv20/30

 ■ランク S

 ■性別・種族 男・魔人

 ■スキル 『全属性魔法』『全属性耐性』『超魔力』

 ■【攻】368【防】281【速】418

 ーー


 「うほっ。やっぱすげぇなアンデは。見た目のイケメンっぷりに負けじ劣らずのステータスだ」


 何気にアンデのステータスをしっかり見たのは、これが初めてだ。思った通り壊れた性能をニッコリと笑って皮肉を言ってやった。


 「アーセル様が私より弱い……のですか? これほどの貫禄があり、強者のオーラを感じるアーセル様が……」

 「あぁ、そうだ。ランクで言ったらGかFじゃね? 貫禄はよくわからんがお前の感じてるオーラってのは多分俺のスキル『威圧』から来てるもんだ。まぁ実力とは関係ないハッタリのスキルだから戦闘には使えないけどな」

 「では、何故アーセル様は勇者を倒せたのですか!? 失礼は承知ですが、とてもこのステータスでは勇者に勝てるとは思えません」


 アンデは珍しく大きな声を出して、俺へと迫る。俺のステータスが低かったのがそんなに驚いたのか?


 「それは、なんだ……その奇跡? 勇者は俺に会う前にかなり負傷していてな。ここまで大きくなる前の俺のダンジョンで、眠りやがったんだよ。暗殺しようと近付いたが流石勇者だよな。手で俺のナイフを受けて、急所への攻撃を回避された」

 「では、何故……」

 「まぁ聞けよ。そして俺は目覚めた勇者に殺されそうになったんだが、ナイフに細工しててな。毒が上手く回ってまぐれで勝ったって感じだな」

 「そんな事が……」


 何故か俯き気味に悲しそうな表情をするアンデ。それを見ていた俺だが、すぐさま顔を上げ表情が変わり、次はギロリと魔人特有の赤い目を強く光らせた。


 「おっと! 俺を殺すとかは無しだぞ? 普通に死ぬからな」

 「何をおっしゃいますか! そんな事する理由がありません! ただ……。倒したとは言え、アーセル様を殺そうとした勇者が許せないだけです」

 「そっち!?」


 怖い顔になった瞬間マジで焦ったが、どうやら俺の勘違いだったらしい。


 「ご安心くださいアーセル様。例えアーセル様ご自身が、お力にご不満でも私達が居ます。どんなアーセル様でも私達の主なのは変わりありませんから」


 優しく微笑むアンデ。あぁ俺は恵まれてるな。こんな良い部下に慕われて。普通だったら弱い主人を認める奴なんて少ないんじゃないか? いや、もしかしたらダンジョンの効果かもしれないけどさ。それでもアンデの言葉は俺の心を暖かくしてくれた。


 「ありがとな。俺もお前達を召喚出来た事を誇りに思うよ。これからもよろしく頼むぜ?」

 「勿体無いお言葉。もちろんでございます。アーセル様のお力になれるよう私、アンデも努力致します」


 お互い笑い合い俺が拳を突き出すと、アンデはそれを両手で覆い跪く。本当は拳と拳をぶつけ合いたかったんだが、まぁいいか。


 それにしても俺の力か……。人間界に来た魔族のレベルの上げる方法はダンジョンで生物を殺す事だ。魂に変わると同時にマスターである俺にも経験値が入る。勇者を倒す前、弱いゴブリンやスライムなんかを大量に狩ってきたが、上がったレベルは一年で僅か1レベル。今回勇者とランクBのモンスターを倒した事でレベル8まで上り詰めたが、それでも低いと言えるだろう。


 学校で習った情報によると、使役する魔物に比べて、主である魔族は次レベルの上限が高いらしい。ほとんど俺が戦う事はないとは思うが、いざと言う時もある。ダンジョンを維持する以外に上げる方法はないにしても、軽視はできないな。


 「アーセル様。この紫の球体が光を放つ度に音を発していますが」


 おっと、また考えに浸っていた。俺の椅子の隣に置いてあった、あるアイテムが音を発して光っている事に気付いたアンデがそう言う。


 「フフフ。やっと来たか。これはなーー」


 俺は良い仲間に恵まれた。ダンジョンだって勇者を倒す事で成長した。初の防衛戦もクリアできた。でも、まだ気掛かりで、そして俺の怒りが収まらない最後の案件がある。


 ーーそれは。


 あんのクソ学校に物申す事だ!

ステータスの攻、防、速ですが、大量の数値を書くよりも、ザックリと少なくする事で見やすくなるかと思い採用しています。


攻は全ての攻撃力に影響する数値。

防は全ての防御力に影響する数値。

速は敏捷や反射神経に影響する数値。

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