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手負いの勇者を倒して、最弱から最強ダンジョン  作者: たっぺん
【第一章】〜ダンジョン製作〜
4/5

4  侵入者

初めてのダンジョン戦って事で少し長いです。

 「おまたせちまちた。人間をつれてきまちた」


 俺の部屋ーーマスタールームに声を響かせたのは帰還したウィッチだった。相変わらずの舌ったらずでそう言うと、トコトコと忙しなく早歩きで移動する。椅子に座る俺の前まで来ると跪き、こうべを垂れた。


 「お帰りウィッチ。ご苦労だったな」

 「はいでち。計画通り人間を連れてきて、ギルドでダンジョンの情報を流ちまちた」


 完璧だな。その時の状況を見てみたい気もするが、今は置いておこう。連れてきたって事はもうダンジョン内に入り込んでいるって事だしな。


 「アンデ。ダンジョンビジョンを起動してくれ。スクリーンに付いてるボタンを押せばいい」

 「はっ」


 NEWアイテム、ダンジョンビジョン。これは大きなスクリーンと、付属の固定眼と呼ばれる、目の形をしたアイテムだ。固定眼は別途でも交換して、マスタールーム以外の全ての部屋に設置してある。このアイテムは、固定眼が見たものを親であるスクリーンに映し出すと言った代物だ。ちょっと高かったけど、音声も拾ってくれるバージョンだ。


 『おい! ライアン! あのこはどこに行った?』

 『君も見たでしょ。姉の名を叫んで真っ直ぐ走って行ったよ』


 スクリーンに映し出された入り口には、ライアンと呼ばれる細身の男とガタイの良い、重装備の男が何やら言い争っていた。


 『ちっ。ちゃんと見てろよ。あんな小さな子が一人でダンジョンに進むなんて、待ってるのは死だけだろ』

 『それは君もだよアンガス。あの少女は平常ではなかった。場所がわかった時点で、一度彼女を村へ戻すべきだったんだ』


 アンガスとライアン。どうやらウィッチは上手くこの二人を騙せたみたいだな。会話の内容からそれを伺える。確かに、二人とも数々の修羅場を超えて来たのか、かなりの実力者に見える。これは何かウィッチに報酬を与えないとな。


 「よし、各自配置に付け。ダンジョンとしての初陣だ。みんなの活躍を俺はここで見ているぜ。ヒーリングラビットも俺とここで待機な」

 「お任せあれ。アーセル様の前に立ちはだかる者は何人たりとも許しはしません。消し炭へと変えてみせます。私の出番があればの話ですが」

 「はいでち」


 アンデとウィッチの返事に頷き、スクリーンへと視線を戻す。丁度、侵入者達は通路前にある看板に気付いた所のようだ。アンデ達も配置に戻って行った事だし、俺のダンジョンが人間にどれほど通用するのか観察するとするか。


 ■ ■ ■



 「通路は三本。『巨人の間』、『闇の間』、『魔人の間』。どうするアンガス」

 「妙に凝ってやがるな。だがそんなの考えるまでもないだろ。あの子が走って行った『魔人の間』。これで決定だ」

 「君ならそう言うと思ったよ。どの道考えてもわからない。それなら君の正義感に任せるとしよう」


 ライアンはアンガスの言葉にやれやれと言った表情をするが、アンガスの決定に従う事にした。『魔人の間』と書かれた看板の先にある通路へと足を運ぶ。アンガスが前衛。ライアンは後方確認と前方確認を同時に行う。これが、この二人の警戒態勢であり、冒険者として今まで培ってきたものを生かす事で編み出した布陣だ。


 アンガスが大きい斧を構えながらゆっくりと進む。ライアンもまた槍を構えてそれに続く。しばらく進むと大きい部屋へと辿り着く。


 「ウォォォォォン」


 アンガス達が魔人の間の入り口から最初の部屋に入った直後、狼の雄叫びが二人の耳を刺激した。


 「あれはクローウルフ! ランクCの魔物だと!? それに他にもランクEの魔物もウジャウジャ居やがる」

 「やられたね。まさかここまでのダンジョンだとは」


 アンガス達は冒険者のランクで言うとBに位置する実力だ。Cランクの魔物もそれなりに倒して来た。だが、それでも苦戦しないとは言い切れない。たかが、無名のダンジョン。そんな所に手強いCランクの存在。二人は驚きを隠せなかった。


 「来るぞ! 俺がクローウルフを抑える。ライアン、お前は雑魚の処理と俺の援護を頼む」

 「了解」


 しかし、アンガス達は戦闘に入った途端目の色が変わる。先程まで言い争っていた仲とは思えぬ程、連携の取れた動きを見せる。


 「ウォォン」

 「クッ! 重いな」


 クローウルフが自慢のスピードを活かし、アンガスへ肉薄する。鋭い爪を豪快に振るが、アンガスは斧でそれを受け止める。しかしその攻撃は予想以上に強かったのか、アンガスはジリジリと押され、地面を滑る。


 その戦闘を邪魔するように他の魔物がアンガスへと迫るが、リーチの長い槍を持つライアンがそれを許さなかった。


 「『レインスピア』」


 アンガスに近寄る魔物を弾き、余裕が出来たライアンは、槍を頭上高く放り投げ、投げた槍が十本以上の数へと分散する。次第にその槍達は降下し、雨のように降り注いだ。


 アンガスはその攻撃を見て、何も言わずクローウルフとの鍔迫り合いを振り払い後方へ下がる。ライアンのレインスピアが、クローウルフを含めた周囲の魔物へと降り注ぐ。


 ランクEの魔物達はなす術なく槍に貫かれていく中、クローウルフは俊敏な動きを見せ槍の雨を回避して行く。全ては回避出来ず擦り傷を負うが、大きなダメージを残す事なく槍の雨は止んだ。


 「あれを躱すか。流石ランクCってとこだな。次は俺が行く」

 「了解。邪魔が入らないように雑魚の相手をしておくよ」


 二人はクローウルフの動きに驚きや落ち込む事なく、想定の範囲内だったかのように、次の行動へと移る。


 「『ヘビィ・インパクト』!」


 アンガスは斧を両手で持ちそう唱えると、斧全体を包む赤いオーラが現れる。その斧を肩に担ぎ直してから、クローウルフへと迫る。ライアンはその後ろに付き、他の魔物達の処理を行う。


 「ウルァァッ!」


 一振りの斬撃に対して、重さと破壊力を追加する鈍器武器専用の魔法、ヘビィ・インパクト。その効果を纏った斧が、クローウルフへと振り下ろされる。


 槍の雨を回避したばかりのクローウルフには隙が存在した。そこを突かれたクローウルフは得意のスピードを活かす事ができず、咄嗟に自慢の爪を前方に出し斧を受け止めようと試みる。


 だが、その試みは失敗する。アンガスの斧の破壊力は予想以上に高く、クローウルフの剛爪を砕いたのだ。


 「ぐはッ」


 しかし、小さく悲鳴をあげたのはアンガスの方だった。


 「こいつ……。この一瞬で反撃しやがった」


 クローウルフは爪を砕かれる瞬間、自身の能力である"爪伸縮"を使い、先にアンガスの体に攻撃を入れていた。破壊までは届かなかったが、鎧を大きく傷付け、鎧内に起きた衝撃でアンガスはダメージを受けたのだ。しかし、そんな中躊躇う事なく斧を振り下ろしたアンガスも流石と言える。


 「ウォォォン」


 「来やがるか……。ライアン! 雑魚はどうだ?」

 「もう少しで片付くよ。アンガスこそ怪我は?」

 「大丈夫だ。鎧のお陰で外傷はない。痛みもほとんど回復した。雑魚の殲滅が終わったら二人で叩くぞ」

 「了解だよ」


 クローウルフの雄叫びを聞いてすぐに身構え、ライアンに指示を飛ばす。斧を前方に掲げ、クローウルフの動きに注視する。しかしここで予想外の行動を取った。


 「な、なんだと!?」

 「奥に逃げたね……。流石に予想外だ……」


 クローウルフは雄叫びをあげた後、アンガスの方へと向き直ったが、すぐに踵を返し奥に進む通路へと消えていく。アンガス達はこの謎の行動により頭にはてなマークを浮かばせる。


 「とにかく、今は雑魚の殲滅が先だ」

 「だね。『レインスピア』!」


 ライアンの活躍により、既に魔物の数はかなり減っていた。それにアンガスが加わる事により、更に殲滅スピードが上がる。程なくして、このフロアの魔物は消え失せ、二人の人間だけが存在する形となった。


 「アンガス。ここは一度引き返した方がいい。無名のダンジョンだと侮っていたが、ランクCのモンスターが居るんだ。逃げた事を考えると、あいつ以上のモンスターは居ない可能性が高いが、ここは安全策を取った方が良い」

 「何言ってんだ! じゃあ、あの嬢ちゃんはどうする!? 見殺しにする気か?」

 「あまり言いたくはないけど、あの子はこの道を通って来てるんだ。生きてる方が奇跡だよ」

 「クソがッ! あぁでもダメだ! もしかしたら生きてるかも知れねぇ。俺は人を見殺しにはできねぇ。戻るなら戻れ。俺は先に進む」


 またもや言い争いを始める二人。ライアンの言葉にアンガスは強く反抗しガシャガシャと鎧の音を立てながら先の道へと移動する。


 「ほんと君はいつまで経ってもバカだ。そんなバカでも救われる命があるんだから、笑えるよ」


 ライアンはアンガスの背中を見てそう呟く。やれやれと言った表情だが、結局アンガスの後を追いかけて行く。アンガスは付いてくるライアンを背中で感じニッと笑うと、足運びを早くする。


 通路に入り、先程と同じく警戒態勢を取りながら進むが、特に何事もなく次のフロアへと到着した。


 「お、おい。あれって……」

 「間違いない。あの子だね。そして他の二匹……。やられたッ! これは罠だ!」


 次のフロアへ辿り着いアンガス達の前に驚愕の光景が待ち受けていた。そこに存在していたのは、二匹と一人。リザードマンとゾンビマン。そしてその中間に立つ少女はアンガス達に助けを求めた少女だった。


 「騙されてくれてありがとうでち。お詫びに殺ちてあげるでち」


 アンガス達は少女ーーウィッチの言葉に、声を出せないでいた。助けを求めて来たこの子の言葉は偽りであり、罠に嵌めた魔物であると言う事に信じられないでいた。特にアンガス。正義感の強い性格はここで仇となった。


 「おい! 冗談は良いから早くこっちに来い!」

 「冗談じゃないでち。わたちは主の命令で、アンタ達を殺すためにここに呼んだでち」

 「諦めろアンガス。こいつは魔物だ。言ってる事もおそらく本当だよ」


 まだ信じられないアンガスはウィッチに語り掛けるが、返って来た言葉は望んだものではなく、更にライアンが追い打ちをかける。


 「じゃあなんだ? この嬢ちゃんは魔物で、最初から助けを求めたんじゃなく俺達を誘い込む為の偽りだったと?」

 「どうやらそのようだ。ここの主は頭が切れるようだね。してやられたよ」

 「クッソがァァァァッ! ふざけやがって!」


 ようやく事態を把握出来たのか、アンガスは激昂する。そんなアンガスの肩にライアンはそっと手を置き言葉を発した。


 「怒る気持ちもわかる。でもやっぱりここは引くんだ。ギルドに情報を伝えて、人数を集めてから攻略に来た方が良い。あの子の両隣に居るモンスター。あれはランクCのモンスターだ。流石に数匹相手にするのは俺達でも無理だ」

 「逃げるだと!? 俺はここの奥に居る、ダンジョンの主ってのをぶっ飛ばさねぇと気が済まねぇ! こんな小さな子供を使ってこんなことまでさせやがってッ! それに、さっきの狼以上の魔物は居ないんじゃなかったのか?」


 ライアンの必死の説得も、感情が高ぶるアンガスには通用しない。更に痛いところを突かれ、ライアンはため息を吐き、頭を抱える。


 「はぁ。それはすまなかったよ。ここの主が、やられそうになったクローウルフを温存したと思ったんだ。もっと強いモンスターがいるなら、その意味はないと思ってね。外れたけどさ。頼むよアンガス。今日だけで良い。僕に従ってくれ」


 ライアンは頭を下げる。ライアンに取ってアンガスに頭を下げる事なんて過去にあっただろうか。それを知っているアンガスは目を見開き、ライアンが真剣だと言う事に気付き、怒りを鎮め我に返る。


 「チッ。わぁったよ。ほら頭上げろ。走るぞ」

 「アンガス……ッ! あぁ! 行こう!」


 立ちはだかる三匹の魔物から踵を返し全速力で来た道へと走る。しかしここで聞き覚えのある声が、アンガス達の耳を刺激する。


 「ウォォォォン」

 「クローウルフッ!」

 「何故だッ! 奴は奥に逃げた筈……。入り口から来るなんて……」


 そう、踵を返し撤退を試みた二人だったが何故か入り口の方からクローウルフが現れたのだ。しかし二人は違和感を感じた。破壊した筈のクローウルフの爪が元に戻っていたのだ。別の個体と考えたが、今の状況は絶対絶命。例え先程のクローウルフでもそうじゃなくても関係ない。逃げ場を失った事には変わりがなかった。


 「逃しはしないってか……。やるぞ! ライアン」

 「やるしかないみたいだね。頭の下げ損だよ……全く」


 落ち着いているような会話をする二人だが。実はそうではない。二人して多量の冷や汗が体を巡り、いつもの作戦を練る事が出来ないでいた。


 「話は終わったようでちね。なら始めるでち」

 「あぁ、おかげさまでね。胸を借りるよ喋る魔物さん」


 ライアンとウィッチの会話が合図となり、戦いが始まる。先に動いたのはリザードマン。大きな盾を前方に構え、アンガスに向かって迫る。アンガスは身構え、防御の体勢を取る。


 アンガスへと肉薄したリザードマンは武器である剣で袈裟切りする。それを斧で受け止めたアンガスは斜めに体を入れ剣を受け流す。その隙をライアンが槍で攻撃しようと腕を伸ばすがそれは叶わなかった。


 「くはッ」

 「ライアン!」


 ゾンビマンであった。リザードマンが動いたと同時にその大きな体に隠れ、ゾンビマンは接近していたのだ。剣を受け流され体勢を崩したと同時に、ゾンビマンはリザードマンの体を離れ、ライアンの腹部へとボディーブロウを放った。


 予想外のダメージに、ライアンは軽く吹き飛び、胃から込み上げたものをぶちまける。


 「カハッ。こいつ……。凄い腕力だ。動きも速い……」

 「ポーションを飲め! その間俺が抑える! 『プロテクション』!」


 アンガスは立ち上がれずにいるライアンを見て指示すると、自身の防御力を高める無属性魔法を唱えて、ライアンを隠すように前に移動し、斧を真横に持って仁王立ちする。


 「『フレイムボール』」

 「グアァァッ!」


 声の正体はウィッチ。ウィッチが魔法を唱えたと同時に、アンガスの前に立ち塞がっていた、ゾンビマンとリザードマンが左右へと散り、二匹が居た場所から炎の玉が駆け抜け、アンガスへと直撃する。


 プロテクションは物理防御力を上げる魔法。魔法攻撃にはなんの意味も為さない。ウィッチの魔法は見事、アンガスに刺さり大きなダメージを与えた。


 「グルァ!」


 更に倒れたアンガスにリザードマンが剣を振り、追い打ちをかける。その間髪いれず迫る攻撃にアンガスは対応できず、死を覚悟する。


 「ライアン………?」


 アンガスはリザードマンに斬られた……筈だった。だがそうはならなかった。ライアンがアンガスの前へと移動しリザードマンの斬撃を代わりに受けたのだ。


 「ライアン……ッ! ばかやろう……」


 既にライアンに息はない。リザードマンの斬撃はライアンの頭部を跳ね飛ばしたからだ。涙しながらライアンの残骸を見るアンガス。しかし悲しむ時間は束の間、魔物達の攻撃はそこで終わらなかった。


 「ぐぁはぁッ」


 ゾンビマンの勢いを付けた掌底。それがアンガスの頭部を捉え、重装備なのにも関わらず容易にアンガスを吹き飛ばす。まるで名のある武術家の如く様になった構えで、掌からは摩擦から起きたのか白い煙が立ちあがっていた。


 「クソォォ。お前ら……お前ラァァァァァァァァ!!」


 激昂するアンガス。それを見たウィッチはほくそ笑む。ウィッチの掌には水晶程の赤黒い球体が存在しており、それはゆっくりと回転している。


 「さよならでち。人の良いおじさん」


 その言葉と同時にウィッチは赤黒い球体をアンガスへと飛ばす。


 「『ダークフレイム』」




 ーー助けを求めてきた少女の願いを聞き、ダンジョンへとやってきた冒険者ランクBのアンガスとライアン。しかし罠だと気付き奮闘するが、最後は助けを求めた少女の手により人生の幕を閉じた。

次回、主人公視点で色々解説します。

アンガス、ライアン良い人すぎたでしょうか。もっと欲にまみれた人間にした方が良かったでしょうか。難しいです。もっと勉強します。


ブックマークしてくださっている方、ありがとうございます!まだまだ知識の少ない私ですが、頑張りますのでお付き合い下さると幸いです。


そしてリアルの繁忙期が来ております。毎日の更新は厳しいです。すみません。

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