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最弱最強の復讐者  作者: アキチ
1/1

プロローグ 復讐の始まり

「よし、これで最後っと」


 これで日課の薪割りは終わりだな。

 後は火付け用の枯れ葉を拾ってから帰ろう。


「おーい」

「んー?」

「母さんがご飯の準備が終わったから帰ってこいってさー」

「はーい、分かったよ兄ちゃん、すぐ行くー」


 もうそんな時間か。

 充分薪は集まったし、今日はこんなところにして帰るか。


「うーん、いつ食ってもお母さんの料理は美味しいなぁ」

「あらお父さん、お世辞なんて言ってもデザートのアイスしか出ませんよ?」

「出るんかーい!」

「「はははははは!」」


 俺達は四人家族。

 どこにでもいるような、明るい一家だ。


「もうお腹一杯だ。ご馳走さまでした」

「お、ルイ食べ終わったか。じゃあ兄ちゃんと剣術の稽古、やるか?」

「やる!」


 兄ちゃんは村の警備隊の所属で、俺に毎日剣術の稽古を付けてくれる。

 ⋯⋯因みに勝ったことは1度もない。


「今日こそは絶対勝つ!」

「ははは、やれるもんならやってみろ!」

「あ、フィル、それが終わったらルイと一緒にベリーの実を取ってきてね、ちょうどジャムが切れちゃったの」

「分かったよ母さん」

「兄ちゃん、早く行こーよ」

「分かった分かった、行ってきまーす!」


 よし、今日こそは兄ちゃんに一発当てるぞ。


「じゃ、いつも道りコインが落ちたら稽古開始な」

「オッケー」


 キィン⋯⋯


 コインが落ちる⋯⋯


 と、同時に俺は剣を振る。

 もちろん訓練用なので刃は殺してある。だが、切れはしないが当たると普通に痛い。

 フィルは剣の腹を上手く当て、受け流す。

 そして俺の右手を狙って突く。

 俺はそれを体を捻って強引にかわす。さらに追撃を避けるため距離を詰める。


「もらったぁ!!」


 俺はフィルの腰辺りに剣を振る。フィルは驚いた顔をしたが、それだけだった。

 流れるような動作で距離を空け、剣で受け止める。

 ギィン!!鉄と鉄があたる音が鳴る。

 フィルは剣と剣を離し、力強くルカの剣に向かってふる。


 次の瞬間、俺の手から剣が消えていた。

 飛んだ剣が地面に刺さる。

 あの一瞬で武器を俺から剣を弾き飛ばしていた。


「さすがだね、兄ちゃん。やっぱり勝てないよ⋯⋯」


 鼻息が荒い、それだけ集中していたということだろう。

 対するフィルは疲れていないように見える。


「いやいや、ルイも良かったよ。危なかった。」


 にこやかに言う。


 ⋯⋯言ってくれる、戦ってる時のフィルはまだまだ余裕があった。その気になれば何度でも俺に攻撃できただろう。


「あーあ、いつになったら兄ちゃんに勝てるのかなー」

「ルイには才能がある。俺なんかきっとすぐに追い越すよ」


 やっぱり格好いいな、兄ちゃんは。

 密かにフィルに憧れている俺がいた。


「さ、ベリーの実を取って帰ろう。母さんのジャムは美味しいからね、切らしたら父さんが不機嫌になる」

「確かにそうだね、急ごう」


 母さんのジャムは一級品だ。高級店に売れば高価に買い取ってくれるんじゃないだろうか。切らして父さんが不機嫌になるのも分かる。

 

 ベリーの回収が終わった。


「さ、帰ろうか」

「うん」


 家に帰れば母さんと父さんが笑顔で待ってくれていることだろう。


 ちょっとだけ、楽しみだった。



「ハァッハァッハァッ⋯⋯俺の勝ちだ、ルイ」

「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯ずる、いよ兄ちゃん。スタートって、言ってから、だろ⋯⋯?」


 帰り道二人で競争した。体力には自信があったが、森の中での移動に長けたフィルには勝てなかった。


 ⋯⋯ん?

 何か、違和感を感じる。なんだろう、何かが、違う。


「臭い⋯⋯?」


 いつもと臭いが違う。

 そうだ、これは、何がが焦げた臭いだ。


「おい、ルイ!家が、家が燃えてるぞ!!」

「えっ?」


 家が、燃えていた。俺達が生まれてからずっと暮らしていた家が。

 家だけじゃない。村全体が、燃えていた⋯⋯。


「おい、ぼーっとしてんな!ルイは家に行って母さんと父さんの無事を確認してこい!俺は村の人達を助けに行く!」

「分かった!」


 俺は急いで走る。

 過去最高のスピードではないだろうか?

 だが、そんなことを考えてる暇はない。

 俺は、必死に足を動かした。

 例え、足が悲鳴をあげようと⋯⋯。



 熱い⋯⋯熱い⋯⋯

 体が燃えるように熱い。

 ⋯⋯このまま俺は溶けるのではないだろうか?

 いや、溶けても構わない。


「父さん!母さん!⋯⋯いたら、返事をしてくれ!」


 俺は叫び続ける。

 

 ⋯⋯お願い。無事であってくれ。

 

 けれど、俺の願いはこの炎の中に燃えていった。


 家中を探し回っても、俺の探していた人はいなかった。


 ⋯⋯一つの希望を持ち、俺は、この家から脱出した。

 ⋯⋯どうか、避難していてくれ。


 燃え盛る家を見つめながら、俺はただなにも出来ない自分を悔やんだ。

 炎と同時に俺達の思い出もすべてなくなっていくような⋯⋯そんな気がした。


「なんで⋯⋯なんでっ!」


 今の俺はただ涙を流すことしか出来なかった。



「⋯⋯広場にいかなきゃ」


 そうだ、まだやり直せる。

 また家族四人で暮らそう。大丈夫だ。生きてさえいれば、何度でもやり直せる。


 ギィン!!


 広場の方から音がする。

 ⋯⋯なんだ?

 俺はもう一度、足に鞭打って走り出した。



 広場に着くと、周りは死体だらけだった。


 周りの死体は全部ぐちゃぐちゃになっていて、誰のものか分からなくなっていた。


 でも、これは⋯⋯

 

「メアリー」


 初恋の、武器屋の娘だった。

 それが、生首だけになって転がっていた。

 

「オエェェェェェ」


 吐いた。気持ち悪い。なんなんだ、何がいったいどうなってるんだ。

 何も分からないまま、顔を上げる。

 

「父さん⋯⋯母さん⋯⋯うぅ」


 二人がもし、こんな姿になっていたら⋯⋯。

 そう思うと涙が出てくる。

 それを拭って一歩踏み出す。すると⋯⋯


「父さんと兄さん!?それに母さんも!何してるんだよ!」


 そう声を振り絞り大声で叫ぶ。

 そこには父さんと兄さんが誰かと戦っている光景があった。


 ギィン!!


 また、鉄がぶつかる音がする。


「『魔法剣!』」


 兄ちゃんが本気になった時のスキルだ。これにより、剣の切れ味や耐久度が増す。

 兄さんは二人とも村の警備隊に入っていて、森の魔獣にも負けない。剣は鋭く、速い。


 だが、兄ちゃんの剣は結界に防がれていた。


「⋯⋯⋯⋯」

 

 炎が燃え盛る。


 魔術だ。ここまで大きな魔術は、レベルの高い魔術師しか使うことは出来ない。

 それを、『誰か』は使っていた。


「「『シールドボディ!』」」


 シールドボディは基本防御力を上げる魔術だ。父さんと兄さんは、それを使って炎を防⋯⋯げなかった。


「ぐあああぁぁぁぁぁあ!!」


 父さんが焼かれる。兄さんはなんとか回避したようだ。


「父さん!ポーションだ!」

「すまん、助かった!」


 兄さんが父さんにポーションをかけて回復させる。

 良かった、無事みたいだ。


 どうやら、母さんを守って戦ってるみたいだ。

 俺は、たまたま落ちていた剣を拾う。

 ⋯⋯よし、これで俺も参戦でき⋯⋯


「ルイ!」


 『誰か』が、魔術で氷の巨矢を放っていた。

 避けられない。落ちていた剣に目を取られていた。

 ヤバイ死ぬ。

 俺はもう動けなくなっていた。


 ドズッ


 鈍い音がした。


 でも、俺には衝撃は無かった。


「⋯⋯え?」


 目を開くと、父さんと母さんが二人重なって氷の矢に貫かれていた。

 目の前にはあと数cmで俺に届いたはずの氷の先。

 二人の周りには血溜まりが出来る。

 手を触ると氷のように冷たい。

 父さんと母さんが、俺を庇ったんだ。

 それを理解した時、俺の中にはドス黒い感情が渦巻いていた。


 殺す。







「ルイ!おい、ルイ!」


 殺してやる。







「⋯⋯クッ!」


 絶対に殺してや⋯⋯


 ドズッ


腹に強い衝撃を受ける。


「⋯⋯ルイ、ゴメンな」


 そして、俺の意識はそのまま薄れていった。


 


 ◇



「ここは⋯⋯」


 真っ暗だ。

 なんでこんなところにいるんだ?

 俺、何してたっけ⋯⋯。


「っっっ!!」


 思い出した、広場に着いたら兄ちゃんと父さんが戦ってて、それで、俺が参戦しようとして⋯⋯

 

 父さんと母さんが死んだ。


 何かが込み上げてくる。

 そうだ、さっきもこの感情が沸いて、出て、支配して⋯⋯。


「兄ちゃんは!?」


 そうだ、兄ちゃんが俺を殴って、それから意識を落としてしまったんだ。

 まずい、まだ兄ちゃんが戦ってるかもしれない。

 真っ暗な中、暴れる。

 すると、引き戸が開いた。


「暗かったのはこの中にいたからか」


 クローゼットだった。兄ちゃんがここまで運んだのだ。

 

 走る。


 ここがどこかはどうでもいい。兄ちゃんは、フィルはどこにいる!?


 村中探し回った。

 燃えた家の回りも、崩れた馬小屋も、死体の散乱した広場も、探して、探し回った。


「⋯⋯いた」


 町の外れ、森のそばに兄ちゃんはいた。


 両手足が無く、胴体にいくつもの刺し傷がある、死体として。


 ⋯⋯は?


 頭が真っ白になる。


 負けた?兄ちゃんが?なんで?『誰か』に?あの兄ちゃんが?ホントに?どうして?意味は?殺されてる?


 胸の中で、あのドス黒い感情が沸き上がる。


 なんでだろう、この感情が沸くと、不思議と落ち着いていった。


 と、同時に、俺の黒い感情が何かを囁いてくる。

 なんて言ってる?⋯⋯⋯⋯しろ?ふ⋯⋯し⋯⋯しろ?


「あぁ、分かった。やっと分かったよ」


 俺の黒い部分は、俺に、


「復讐しろ、だろ?」

 

 そっか、そうだったんだ。


「なあ、兄ちゃん、戦ってる時どんな気分だった?」

「絶望?後悔?それとも、俺が生きてるって希望?」

「俺を守ってくれてありがとう、生かしてくれてありがとう」

「お陰で俺は、」


 俺は微笑んだ。

 

「今、生きてるよ。そして、『誰か』に復讐できるよ」


 涙が溢れた。なんでだろう、止まらない。生かしてくれて、嬉しいはずなのに。復讐しなきゃ駄目なのに。止まらない。止めることができない。あぁ、辛い。とても辛い。

 やっぱり、生きていてほしかった。


「兄ちゃん⋯⋯」


 死体となった胴体だけのフィルの体を触る。

冷たい。やっぱり兄ちゃんは死んだんだと実感した。

 

 突如、俺の頭の中に声が響いた。

 ースキル、魔法剣を獲得しましたー


 魔法剣⋯⋯?

 魔法剣は、兄ちゃんが使っていた固有スキルだ。

 固有スキルとは、1人に1つ、その人しか使えないスキルで、そのスキルの獲得のタイミングは、人によって違う。


「兄ちゃんのスキルを俺が獲得するはずがないのに⋯⋯」


 何故か、どうしてなのかは知らない。でも、きっとこのスキルは兄ちゃんからの贈り物なんだろう。

 そうなんだろう?兄ちゃん。約束する。絶対にこの贈り物で『誰か』を殺すよ。




 これが俺の復讐の幕開け。

 


 さあ、出発だ。

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