(初仕事)
ぼくらが初仕事に向かったのは、はじめての委員集会からしばらくしてのことだった。
図書委員の仕事というのは昼休みと放課後に本の貸し出し、返却を受けつけることである。他に本棚の整理とか返却の督促なんかがあった。何にせよ大した仕事ではない。
昼休みに図書室の扉を開けると、中にはほとんど人影はなく、彼女一人だけがぽつんとカウンターに座っていた。彼女はあの日と同じように本のページに目を落としている。
「よろしくです、先輩……」
ぼくは一応、挨拶してからその隣に座り、ノートを取り出したり、カードの点検をして準備を整えたりした。
しばらくすると、図書室の人口密度はまばらながらも増えていった。前にも言ったとおりぼくは図書委員をやったことがあって、勝手はどれも分かっている。それほど忙しいものではないし、難しいことをするわけでもない。
とはいえ、ぼくが返却された本を受けとったりノートに書き込みをしたりしている間、彼女は隣で本を眺めたまま微動もしなかった。眉一つ動かさない。図書委員というより、たんに本を読みに来ただけ、というふうだった。
しかもそれは単に手伝うことがないから手伝わない、というのではなく、完全に手伝う気がない、という態度だった。彼女はまわりの世界なんて存在しないかのように、本を読むことに集中していた。
ぼくはやれやれ、とため息をついたけど、特に何も言おうとはしなかった。前と同じで、そういう人なんだな、と思っただけだった。自分でも不思議だとは思うのだけれど。