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(ぼくのこと)
ぼくの名前は、藤本望という。
変わりばえのしない、どこにでもありそうな名前だ。父親と母親は姓名判断を使って、天画だとか地画だとかでその名前を決めたらしいけど、今のところその恩恵にあずかったという記憶はない。第一、この世界のどこに名前で得をすることがあるというのだろう。
ぼく自身としては、名前のことをとやかく言うつもりはない。藤本望、十分じゃないか。名前というのは生まれて一番はじめにつけられる所属名であり、それが明確に示されていれば問題はない。別にぼくは、ル=グウィンの『ゲド戦記』みたいに名前が重要な意味を持つ世界に生きているわけじゃないのだ。
そんなわけで、ぼくは自分のごく普通の名前と、ごく普通の家庭環境に特に不満を持つことはなかった。
見渡せば、まわりにいるのも同じような具合の人間ばかりなのだ。
けれど――
彼女は違っていたらしい。