表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/22

(屋上)

 屋上には、涼しい風が吹いていた。

 五月になってすでに陽射しは強くなりはじめ、季節はいつものように夏に向かおうとしている。ぼくが生まれてから十数年、季節は律儀に我慢強く、いつも必ずやって来た。

 屋上には誰の姿もなく、灰色の床とくすんだ銀色のアルミ柵だけが空間を占めている。

 そしてそのまわりには、青い空が広がっていた。

 ぼくと先輩は屋上の中央辺りにまで進んで、ただ黙って立ち尽くしていた。

 それからしばらくした頃、いつのまにか隣で彼女が泣いていることに気づいた。

 声もなく、涙の気配さえ見せないまま。

「――――」

 彼女は自分が泣いていることになんて、気づいていないみたいだった。彼女は少し微笑って、こう言った。

「藤本くん、空はやっぱり青いんだね」

 彼女は嬉しそうに、楽しそうに、そう言った。まるでそれだけで世界の何もかも許してしまうように。

 ぼくはその時、何故だかすごく悲しい気持ちになった。

 それがどうしてなのかは分からない。

 ただ、胸が痛くて壊れそうで。

 泣きだしてしまいそうで、でも泣きだせなくて。

 ただ、すごく悲しかった。

 自分のことを、〝魔女〟だという少女。

 空が青いと言って、無邪気に笑う少女。

 その空を見て、音もなく涙を流す少女。

 ぼくは何かがすごく悲しくて、でもそれが何故なのか分からなかった。

 分からないまま、ただ悲しかった。

 ぼくは先輩と同じように空を見上げた。

 空は確かに、青かった。


 ――それは彼女がこの世界からいなくなる、一日前のことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ