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(死んだネズミ)

 ネズミに関していえば、先輩はそれを首尾よく捕まえることができたみたいだった。

 しばらくして同じ場所に行ってみると、チーズを食べてネズミは死んでいたのだ。

 鼠色の(まあそうだ)、毛がぼろぼろになった、救いがたく不潔そうなネズミだった。いわゆる、ドブネズミというやつだろう。

「…………」

 ぼくはそれを、排水溝の中に見ていた。餌が仕掛けられていた場所の、すぐ横にあった排水溝である。

 排水溝には少しだけ水がたまって、ネズミはそこに体半分だけ浸かっていた。目は閉じ、口がわずかに開いて中の歯をのぞかせいてる。排水溝の中の水は汚く濁っていて、開いたままのネズミの目もそれ以上に濁っていた。

 死の間際に、ネズミが何を思っていたのかは分からない。

 おそらく、ネズミは自分が何故死ぬのかなんて分からなかっただろう。チーズにありつけて、幸福感を味わっていたのかもしれない。信心深いネズミなら、神に感謝していただろう。

 しかしいずれにせよ、ネズミは死んだ。

 ちなみに、そのネズミにはちゃんとしっぽがついていた。体の二倍くらいはありそうな、ちょっと長すぎるくらいのしっぽだった。

 たぶん彼女は、そのネズミを捕まえはしたものの、どうすることもできずに排水溝の中に蹴落としてしまったのだろう。

 確かにそのネズミは、ちょっとネズミでありすぎていた。

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