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(人を呪わば穴二つ)

 昼休みに教室で弁当を食べていると、

「お前さ、図書委員に香月美夜乃って人いる?」

 と、山本やまもとが訊いてきた。山本は友達の一人。ぼくと山本は机をつきあわせて昼食をとっていた。

「いるけど」

 ぼくは卵焼きをほおばりつつ、何気なく答えた。

「やっぱあれかな、電波っぽかった?」

「…………」

 首を傾げる。

「何だ、お前知らないのか?」

 そう言って、山本は呆れた顔をした。

 それから山本に聞いたところによると、彼女はかなりの有名人らしい。

 話によると、彼女が魔女と呼ばれるようになったのは、だいぶ昔のことからだという。小学校三、四年のときには、すでにその二つ名を冠していたらしい。

 どうしてそう呼ばれるようになったのか、というのにも話がある。

 彼女のまわりで死んだ人間がいたらしい。

 詳しいことは分からなかったけれど、それは彼女と同じクラスの女子ということだった。しかも彼女はその女子を含む同級生数人から、ひどいいじめを受けていたという。

 それが事実だとすれば、おそらく死んだ女子というのは、彼女をいじめていたグループのリーダー的な存在だったのだろう。

 だとすれば、残ったグループの女子たちが〝呪い〟だとか〝魔術〟だとか言いだすのも、無理はなさそうだった。

 人を呪わば穴二つ、というやつだ。もちろん、呪いだとか魔術だとかが現実に存在するわけがない。彼女たちは自分たちのやったことに対する反動として、そんなことを言いだしたのだろう。

 細かい経緯はともかく、その辺りから彼女は魔女と呼ばれるようになったらしい。まあそう呼ばれるのも無理はないかな、と思う。

「だからさ、ちょっと気をつけたほうがいいらしいぜ、その人」

 山本は脅かすように声をひそめて言う。

「へえ」

 ぼくは適当にうなずいておいて、実は同じ当番にあたっている、ということは話さなかった。話さないほうがいいらしい、ということくらいはすぐに分かる。

 それに正直なところ、ぼくはそんなこと大して気にしていなかった。彼女がどんなふうに呼ばれようが、彼女が自分のことをどんなふうに呼ぼうが。

 ぼくが本当のことに気づいたのは、ずっとあとのことだった。

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