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第13話 会議は踊る(ウサ耳が)

「ではまず皆さん。今後クラン結成に向けての具体的な計画を立てましょう」


 テーブルに両肘を付き腕を組んだチェーシャが、真面目ぶった目つきで切り出した。

 対面に座るコユキとティミーも居住まいを正す。


「まず、クランを結成するための条件から行こうか」

「おねがいします」


 クランについては殆ど何も知らないコユキがぺこりと頭を下げた。

 こほん、と空咳を一つこぼし。


「まずクランはこの町じゃ結成できないのは知ってるよね」

「うん。たしか、アクダラの町に行かなきゃだめなんだっけ?」

「そう。アクダラにある神殿で登録ができるの」

「そういえば、二人もこの町から出たことはないのね」


 紺の瞳に疑問を映し、ティミーは二人に問いかけた。

 コユキとチェーシャは同時に頷き、チェーシャが町から出ない理由とコユキがこのゲームを始めた経緯を説明した。


「へえ、二人はリアルでも友達なのね」

「腐れ縁ともいいますけどね」

「コユキとは生まれた頃からのつき合いだからねぇ」


 二人の初めての邂逅は近所の産婦人科にある新生児室である。

 誕生日も二日違いで、まさに本当の姉妹のようにして育ってきた。


「幼なじみってヤツね」


 うらやましいわ、とティミーは青髪を揺らしながら笑った。

 聞けば、彼女には同世代の友人というものがあまりいないらしかった。


「それで、クラン結成にはいくつかの条件があるのは知ってる?」


 チェーシャが逸れかかった話題を軌道修正する。


「結構な大金を納めないといけないんじゃなかったかしら」

「そう。二十万Palだね」

「にじゅっ!?」


 さらりと飛び出た金額に、ウサ耳をぴんと伸ばしてコユキは絶句した。

 今の彼女の所持金は数千Palである。

 懐事情を再確認し、耳はすぐにへなへなとしおれる。


「どうせ結成するときは三人だから分担できるし。金額自体はそこまでキツくはないよ」

「そ、そうなのかな……」


 不安に耳を揺らすコユキに、チェーシャは優しい口調で諭した。


「まあ、お金はどうにかなるとして、あとはリーダー、サブリーダーを決めないとだよね」

「そうねぇ。そういえば、そんなのもあったわね」

「それはわたしでもなんとなく分かるよ!」


 それらしい単語が飛び出し、コユキは勇ましく手を挙げた。

 はいコユキちゃん、とティミーが教師のように彼女を指し示す。


「リーダーはクランの代表ってことだよね。たぶんクランメンバーの管理とかするのかな?

 サブリーダーはその補佐ってところでしょう?」


 意気揚々と答えた彼女に、二人は少し驚いたように目を見開いた。


「コユキちゃん、あんまりゲームのこと知らないって言ってなかったっけ?」

「あ、ティミー。たぶんこれ、あたしが前やってたゲームの話聞いて覚えてただけみたいだよ」

「はうっ!? な、何で分かったの」


 彼女が言ったのは、チェーシャがFaiRon以前にプレイしていたVRMMOにあったギルド、このゲームでいうならばクランのシステムのことだった。

 常日頃そのゲームのことを聞かされていたコユキは、なんとなくそのことを覚えていた。

 すっぱりと彼女の知識の源を当てた親友に、コユキは意表を突かれた表情になる。


「まあ、基本はそんな感じだよ。あとは、リーダーには基本のスキルとは別枠で〈氏族長〉っていうスキルを上げられるようになるんだ」

「そのレベルがクランホームやクランのランクに影響するんだっけ?」

「そういうこと。それに、このスキルで習得できるテクニックはクラン運営において結構便利なのが多いんだよ」

「へぇーー」


 チェーシャはすらすらと詰まることもなく説明をし、ティミーの質問にも淀みなく答える。


 これだけ情報の情報だ。きっと毎日のように掲示板を見たり、自分で探索したりと集めるのには大変な苦労があったはずだ。

 コユキは、それを惜しみなく教えてくれる親友に胸の奥が熱くなった。


「で、この〈氏族長〉なんだけど、便利な分結構権限も大きいから下手な人が使うとクラン壊滅ってことにもなるえるんだよね」

「今でもたまに聞くわね、リーダーの暴走で散り散りになっちゃったクランの噂」


 その言葉で、コユキはリーダーの責任の重さを感じた。


 ――きっと、これはチェーシャちゃんが適任だね。サブリーダーはティミーさんかな?


「というわけでリーダーはコユキがいいと思うんだ」

「さんせ、へぇえええええ!?」

「あ、私も賛成よ」

「ちょちょちょ、ちょっと待って!」


 親友の口から飛び出た予想外な言葉に、コユキは目を白黒させる。

 ふたつのウサ耳もびゅんびゅんと過去最高の振り幅を記録している。


「なんでわたしがリーダーなの?」

「なんでって、コユキが一番しっかりしてるかなって」

「私はぽっと出の新参者だし」

「絶対チェーシャちゃんのほうがいいよ!」

「あたしみんなの代表なんてできないよ。あと、一歩引いたところからコユキの慌てふためく姿見てるのが好き」

「それが本心だよね!?」


 納得のいかない話の流れに、コユキはガルルと唸る。頬を膨らませる姿はハムスターだった。


「それにさ、クラン作ろうって言い出したのはコユキじゃん」

「あ、そうなんだ」


 意外そうなティミーに、チェーシャはうんうんと頷いた。


 ――どっちにしろ、そのうちクラン作ろうと思ってたことは内緒だね。


 チェーシャはとびっきりの笑みを浮かべて、そんな秘話を心の奥底の頑丈な金庫に放り込んだ。


「うう、それはまあ、そうだけど」


 そんな親友の内心などつゆ知らず、コユキは痛いところを突かれたと怯む。

 むー、と可愛らしい声を上げて銀色の耳を揺らし、眉を苦悩に歪ませる。


「それじゃあサブリーダーはどっちがする?」


 あそこまで来たら決まったようなものだ、と言わんばかりにコユキを放置してチェーシャはティミーの方へと顔を向ける。

 彼女もだいたいは察しているようで、いい笑顔だった。


「まあ妥当な線はチェーシャちゃんじゃないかしら?」

「やっぱりそうなるかなぁ」


 というわけで、サブリーダーはチェーシャに決定した。


「――――分かった。わたしがリーダーやるよ」


 しぶしぶといった様子だが、コユキもリーダーを拝命することを了承した。


「それじゃあ役職も決まりだね。コユキがリーダー、あたしがサブ。ティミーは平だけど」

「全然構わないわー」

「よし、決定」

「しょうがないか……」


 ぱちんと手を打ったチェーシャにあわせ、コユキも覚悟が決まったようだった。

 先ほどまでの苦悩の陰がさっぱりと消えている。


「それじゃあ、後はもうアクダラの町までいくことだけを考えればいいね」

「ネラニの町の草原を越えて、森を越えて、もう一つ草原を越えた先にあるんだっけ?」


 先日のチェーシャの言葉を思い出しながら、コユキが指折り数えた。

 その様子に、チェーシャとティミーはそろってうなずく。


「そう。それで問題なのが森なんだよね」

「そういえばボスがいたわね」


 苦虫を噛み潰したような顔のチェーシャに、思い出したティミーが答えた。


「そう、ボスがいるんだよ。強さ自体は最序盤のボスだからあたし一人でも倒せるくらいなんだけど」

「私はともかく、戦闘力を持ってないコユキちゃんね」

「わ、わたし?」


 突然出てきた自分の名に、コユキは思わず肩を上げた。


「ボスを倒さないと次のエリアに進めないのよ」

「そういうこと」

「それじゃあ、わたしどうしたら……」

「基本はあたしたち三人でPT組んで突破かな。

 ただ、あたしの構成的にコユキを守りながら戦うのは難しいかも」

「私も後衛だからなぁ」


 はっと思いついたように、コユキが顔をあげる。


「わたしが〈生存〉スキルをもっと上げればいいんだよね」

「つまりはそういうことになるね」


 申し訳なさそうに頷くチェーシャに、コユキの赤い瞳に闘志が宿る。


「それならわたし、頑張ってスキル上げるよ」

「いいの? コユキ、戦闘は苦手なんじゃ」

「せ、戦闘は怖いけど……。でも〈擬態〉で隠れ続けるだけなら戦わないし」


 ぐっと両手を握りしめるコユキ。

 難しい顔をしていたチェーシャの緊張も解ける。


「よし、それじゃあ今から森に行ってみよっか」

「なら私も一緒に行くわ。多少は力になれるでしょ?」


 チェーシャの言葉に、ティミーも快く賛同する。

 頬角を上げて、コユキが立ち上がる。


「ありがとう、みんな」


 チェーシャは照れくさそうに耳を揺らしてそっぽを向いた。


「これくらい当然だよ。あたしは自分の好きな構成にさせて貰ってるんだから」

「それを言うならわたしもだけどね」

「さあ二人とも、さっさと行くわよ」


 微笑ましい会話の応酬を始めようとしていた二人をティミーが諫め、三人はブルー・ムーンを後にした。

アライアンスを、クランに変更しました。

他の話に出てくるアライアンスもクランに変更しましたが、万が一漏れがあった場合はご一報くださると幸いです。

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