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第10話 採集と釣り

「おお~、きれい」


 巨大なアーチ状の門を抜けると、そこにはなだらかな丘陵地帯が広がっている。

 背の低い草本はまるで、エメラルドの絨毯のように光り輝き風にたなびいていた。

 鮮やかな青空にはうっすらと雲が流れ、遠方には何か鳥が群で飛んでいた。

 草原の至る所には、簡素な武器を持ち布の服を着た初心者らしきプレイヤーの姿を認めることができた。



「まるで初めて見たみたいな言い方だねぇ」


 隣に立つチェーシャは、呆れた様子でコユキを見る。


「ゲーム始めたときにあそこの丘からやってきただけじゃない。あのときはあんまり周りを見る余裕はなかったし」

「そう? まあ、それはいいとして。まずは何からやってみる?」


 反論をすげなくはぐらかされ、少しむすっとした様子のコユキだったが、すぐにここにきた目的を思い出したようだった。

 インベントリからカマを取り出し、ぎゅっと握りしめる。


「まずは〈収穫〉を試してみたいの!」

「了解。じゃあちょっと歩こっか」


 うなずいたチェーシャは、コユキを引き連れて歩き出した。


 門の前から少し移動すると、人気もあまり多くなくなり、植物の勢いが大きくなる。

 あまり人が通らず、踏みつぶされないせいか、背の高い草花を多く見かけた。


「ここが採集ポイントの一つだね。ほら、雑草に紛れて青色の葉っぱが見えるでしょ」

「う~ん、あ、あった!」


 周囲を見渡した後、コユキは自分が見つけたものへと駆け寄った。

 それは、生命力の高い雑草の影にかくれるようにしてひっそりと根付いていた。

 鮮やかな群青色の葉は、ブルーハーブだろう。


「これ収穫していいの?」


 もちろん、と頷くチェーシャを見て、早速コユキはカマを構えた。


「根元からぐっさりいっちゃってね」

「うん。……えいっ」


 湾曲する刃をハーブの細い茎にあてがい、一思いにすっと引く。

 多少の抵抗感のあと、ぷちん、と茎が切れた。


「おお、ブルーハーブ入手できたっ」

「おめでとー」


 うれしそうに小さな葉を掲げる彼女の様子に、チェーシャは微笑ましく笑った。


「それじゃ、あたしは周りのウサギ狩っとくからがんばって採集しといてね」

「りょーかい!」


 ぴょこん、と飛び跳ねて、コユキはぴしりと敬礼した。




「さて、どれくらい採れた?」


 三十分ほどが経過し、チェーシャもまとまった量のウサギ肉を確保した。

 コユキはインベントリを開いて、中を確認する。


「えっとね、ブルーハーブが46個でしょ。それにグリーンハーブが30個」

「結構採れたね」

「至るとこにあったからねぇ」


 予想外の収穫量にチェーシャが瞠目した。

 コユキもまた、それほど多く収穫できたことに、ほくほくと頬を緩ませていた。


「それじゃあ、次は釣りをしてみようか」

「うん!」


 そうして、二人は草原を流れる小さな川へやってきた。

 底も浅く、透明な水が流れる穏やかな清流である。

 コユキが少し見ただけでも、小さな魚影がいくつも見つかった。


「えーっと、釣り針の先に、このエサを付けて投げればいいんだよね」


 インベントリから釣り竿とエサの入った小瓶を取り出して、それを地面においた。

 釣りエサは、ペースト状の何かで、粘土のようにこねることができた。

 それを小さな固まりにして、釣り針の先に付ける。


「じゃあ、いくよ」


 緊張して面もちで、釣り竿を構える。

 隣に立つチェーシャも、つられて真剣な表情だった。


「せーのっ!」


 振り子のようにエサを揺らし、そのまま小さな飛沫を上げて水面に投げ入れる。

 すると、しばらくエサが流れた後、すぐに力強い手応えが竿を通してコユキに伝わった。


「ひ、引いてるっ!」

「コユキ落ち着いて! ゆっくり引き上げるんだよ」


 雑貨屋で購入した、安い釣り竿だ。

 リールなどついているはずもない。

 コユキは釣り糸が切れないようにゆっくりと、力強く抵抗するそれをつり上げた。


「ぐぐ……」


 〈釣り〉のスキルレベルが低いせいか、川の雑魚とコユキは白熱した勝負を繰り広げていた。

 チェーシャもぎゅっと拳を握り、落ち着かないようにしっぽをぱたぱたと揺らしている。


「がんばって!」

「くぅ、こ、このぉ!!」


 釣り竿は急な弧を描き、糸は不規則に移動する。

 ぐいぐいと引っ張る力は、だんだんと大きくなっている気さえした。


「とりゃっ!」


 しかし、所詮は魚である。

 コユキが渾身の力を振り絞って振り上げると、銀色が空を舞った。


「おっとっと」


 慌ててコユキは竿を放り投げ、落ちてきた魚を受け止めた。

 一五センチほどだろう。しっかりと身のしまった、銀色の鱗が美しい魚だった。


「おお、おめでとう!」

「えへへー、ありがとう」


 インベントリに入れると、その魚の名前が分かる。


「グラスフィッシュって言うみたいだよ」

「へぇ。草原の魚ってことかな」


 さらに詳しい情報は、二人とも〈鑑定〉スキルを持っていないために分からなかった。


「それじゃあ、もうちょっと釣るよ」

「了解。じゃあ、あたしは後ろで休憩してるね」


 周囲には遮蔽物もなく、ウサギの姿は見えない。

 チェーシャは手頃な大きさの岩に腰をおろして、早速新たなエサをこね始めた親友を見守った。


「あ、そうだ」


 ふと、チェーシャは思い出したように口を開く。


「〈生存〉のスクロールもう覚えておいた方がいいよ。それで、釣りの合間にでもつかって、スキル上げしておこう」

「ん、分かった」


 彼女の助言に従い、コユキはインベントリから三つのスクロールを取り出した。

 先ほど町で購入した〈擬態〉〈焚き火設置〉〈悪食〉のスクロールである。

 それらをすべて習得して、コユキはシステムパネルのテクニック欄から詳細な情報を得る。


「〈擬態〉は周囲の風景にとけ込むテクニック。ただし動くと解除されちゃうのか。

 〈焚き火〉設置は木の枝を消費して、一定時間燃え続ける焚き火をフィールドに設置する。あ、ここで料理もできるんだねぇ。

 〈悪食〉は、えっとパッシブって書いてあるね。毒物を食べても状態異常になりにくいみたい」


 あんまり毒は食べたくないなぁ、とコユキは難しい顔になった。


「うーん、それじゃあ合間合間に〈擬態〉を使えばいいかな。他の二つは触媒だったりが必要みたいだし。〈悪食〉は毒状態とかの状態異常時は継続して経験値が入るらしいけど」

「絶対にいや」


 だろうねえ、とチェーシャは苦笑いして頷いた。


「それじゃあ、〈擬態〉を積極的に使っていこうね」


 コユキの説明を聞いたチェーシャはそう結論を下した。


「それがいいかな。それじゃあ早速、〈擬態〉」


 頷いたコユキは、早速テクニックを使用する。


「どう? ちゃんと消えた?」

「えっと、若干色が薄くなった」

「ええ……」


 思ったよりも渋い効果に、思わずコユキは脱力する。

 その動きで、〈擬態〉の効果は解除された。


「まあ熟練度が低いうちはそんなもんだよ」

「熟練度?」


 聞き慣れない単語に、コユキは首をかしげる。


「テクニック一つ一つに設定されてるパラメータのことだよ。

 使用するたびに経験値が蓄積されて、熟練度が上がるとテクニックの効果も上がるの」

「へぇ。それじゃあこのしょぼしょぼな〈擬態〉も何回も使ってるうちに透明になれるようになるのかな」

「たぶん」


 その言葉を聞いて、コユキはやる気を取り戻した。

 立ち上がり、ぎゅっと拳を握りしめる。


「よし、それじゃあ釣りの合間にでもどんどん使って、スキルレベルと熟練度を上げていこう!」

「そうそう、その調子だよ」


 すぐに立ち直り、早速〈擬態〉を使いつつ釣りエサを付ける。

 チェーシャはまた、岩に座り直して、彼女をずっと見守っていた。

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