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第9話 雑貨屋

投稿日時を間違えて設定しておりました。

申し訳ありませんでした。

 日付は変わり、場所はゲーム内。

 広場のベンチに腰を落ち着けていたコユキは、やってきたチェーシャを見つけて立ち上がった。


「おはよ、コユキ」

「おはよう」


 気心も知り尽くした仲である。

 挨拶もそこそこに、コユキは早速話を切り出した。


「わたし、〈釣り〉と〈採集〉を覚えてフィールドにでるよ」


 その言葉を、チェーシャはあらかじめ、ある程度は予想していたらしい。

 あまり驚く様子も見せなかった。


「それじゃあ釣り竿と採集カマを買いに行くんだね」

「そういうこと。それで――」


 もじもじと、恥ずかしそうにうつむくコユキ。


「いいよ。案内したげる」


 親友の快い言葉に、ぱぁっとウサ耳が開いた。


「ありがとう!」

「あはは……」


 たまにはミスもしてみるものだ。と、エリア地図の出し方を言い忘れていたチェーシャは乾いた笑みを浮かべた。




「いらっしゃい」


 その雑貨屋は、表通りの一角にひっそりと看板を構える小さなものだった。

 薄暗い店内には雑多な品々がうずたかく積まれ、埃っぽい。

 二人が店内に踏み入れると、奥からくぐもった声が響いた。

 その後、何かをかき分けるような物音が続き、灰色のボロを着た小さな老婆が顔を出した。


「こんにちは」

「ああ、ゆっくりしていきな」


 ぶっきらぼうだが、コユキが挨拶をするとフンと鼻をならす。

 その言葉に甘えて、コユキとチェーシャは陳列台を眺め始めた。


「なんだか、色々あるんだねぇ」


 雑貨屋という施設に初めてやってきたコユキは、小刻みにウサ耳を揺らして店内を巡る。

 整頓や秩序といった言葉とは対極の、むしろ混沌といった類の言葉が似合いそうな内装である。

 無造作に積まれた書籍の塔が乱立し、怪しげな色とりどりの液体の詰まった小瓶がそこかしこに並ぶ。季節はずれな毛糸のマフラーが天井の梁から垂れ下がり、すっと鼻の奥をつく薬品臭がした。


「雰囲気あるって評判だったんだけど、ここまでとは……」


 蜘蛛の巣をかき分けて呟いたのは、ネコ耳をぺたんと閉じたチェーシャである。


「チェーシャちゃんもこの店初めてなの?」


 案内してもらったコユキは不思議そうな顔になる。


「あたしは普段、ギルドか専門店でしか買い物しないからねぇ。雑貨屋に売ってるのって基本的にメインにはならないようなスキルで使う道具なんだよ。

 それに雑貨屋って一口でいっても、この町ですら10以上の店があるんだもん」

「そんなに……」

「この店はその中でも一番ファンタジーな雰囲気があるって掲示板で評判なんだよ」


 VRMMOの特性上、ネラニの町は相応の規模を誇る。端から端まで歩くだけでも、一時間程度は掛かるだろう。そんな広大な面積だからこそ、町には同じ業種の店舗がいくつも存在していて、それぞれが個性豊かな特色で客を集めていた。


「あ、ここに採集系スキルの道具が固めてあるね」


 ふらふらと店内を回っていたコユキは、物陰に隠れるように配置された小さな空き樽に、ツルハシやオノ、それにカマが刺さっているのを見つけた。

 同じくして、チェーシャも釣り竿と、釣りエサの入った小瓶を見つけたようだった。


「すみませーん。これください」

「はいよ。全部で45Palだね」

「「ありがとうございました!」」


 アイテムを持って、奥で安楽椅子に揺られていた老婆に声を掛ければ、その場で精算が終わった。

 財布を出したり、現金をやりとりしなくてもいいのは便利だった。


「〈採集〉とか〈釣り〉はスクロールはいらないの?」

「うん、大丈夫。カマを使ったり、魚をつり上げるだけでスキルは上がるよ」

「そっか。それじゃあ、早速町の外にいこうかな」


 すぐにでもスキルを発揮できると思ったコユキは、勇み足で門へ向かう。

 そんな彼女を、チェーシャは慌てて止めた。


「ちょっと待ってコユキ。他にも準備することはあるんだから」

「ええ?」


 そんな言葉に、コユキは一転してしょんぼりと耳を下げた。


「まず、自衛手段を考えなくちゃね」

「え、それはチェーシャちゃんが護衛してくれるって」


 コユキは意外そうな表情になる。


「あたしのスキル構成が対多数向けじゃないってのは昨日言ったでしょう?

 草原あたりならまだ何とかなるけど、今後もっとレベルの高いフィールドに行ったら流石に守りきれないよ」


 諭すようにいうチェーシャに、コユキは難しい顔つきになった。


「でもわたし、戦闘は……」

「別に無理して戦わなくてもいいんだよ」


 チェーシャがピンと人差し指を上げた。


「隠れて敵をやり過ごすっていうのも手だし、下僕(シモベ)を召喚したり、ペットを飼って戦って貰ったり。方法は色々あるよ」

「わぁ。そんなにあるんだねぇ」


 のんきなことを言う親友に、チェーシャは思わず眉間を押さえた。


「はぁ。とにかく、隠れるなら〈忍術〉か〈生存〉。召喚なら〈召喚魔法〉、ペット飼うなら〈使役〉のどれかを覚えた方がいいよ」

「あ、〈生存〉って聞いたことがあるスキルだなぁ」


 コユキは、昨日の夜に見ていた掲示板のスレッドを思い出した。

 確か、〈採集〉スキルの相性のいいスキルの一つに、〈生存〉が上げられていた。



「〈生存〉ね。その名の通り、フィールドで生き残ることに特化したスキルだよ。簡易キャンプを設営したしたり、焚き火を設置したり。状態異常にもなりづらくなるらしいよ」


 そのかわり、戦闘に関する能力は一切ないのだとチェーシャは締めくくる。

 コユキはしばし思案すると、


「よし、わたしは〈生存〉スキルにするよ」


 そういって、ポンと拳を打った。


「それじゃあとりあえず、初期のスクロールだけでも買っとこうか。採集の合間にスキル上げしておけるし」

「どこに売ってるの?」

「雑貨屋」




 二人が入ったのは、隅々まで手の行き届いた、まるでジュエリーショップのような雑貨屋だった。

 各種スキルのスクロールの品揃えがよく、また店内の雰囲気も併せて根強い人気を持つ店だ。


「いらっしゃいませ。本日は何をお探しでしょうか?」


 店の奥にある白い大理石でできたカウンターに向かうと、黒い燕尾服を着こなす紳士が対応した。


「〈生存〉スキルのスクロールを、とりあえずLv30分まで見せてくれるかな」


 なれた様子のチェーシャの言葉に、紳士は一礼して奥へと消える。

 その間、当のコユキはチェーシャの背中に隠れてもじもじとしているだけだった。


「ほんと、コユキってこういう場所苦手だよね」


 いくらか背が縮んだような錯覚さえ覚える彼女の様子に、チェーシャは思わず苦笑いをこぼす。


 煌びやかな光源や、ふかふかの赤い絨毯。細やかな彫刻の施された純白の壁。高級そうなガラスのショーケースに、落ち着いたBGM。


 実は言うと、幼い頃は人見知りだった彼女は、今でこそ人と話すのは苦にならなくなったがこのような大人びた場所はもっとも苦手とする場所であった。


 しばらくして、銀色の盆にスクロールを載せて紳士が現れた。


「こちらでございます」

「チェーシャちゃん、これは何のスクロール?」

「えっとね、〈擬態〉〈焚き火設置〉〈悪食〉だね。全部で700Palだよ」

「じゃ、じゃあ全部買う。だから早くフィールドに行こうよ」

「ははは、了解」


 だんだんと顔が青くなってくるコユキを見て、チェーシャはうなずいた。

 コユキは素早く精算を終えて、足早に店を出た。


「そろそろ、ああいう場所にもなれないとねぇ」

「自分でも、分かってるんだけど……」


 こればかりはどうしようもない、といった様子で、コユキはかっくりと肩を落とした。


「それじゃあ、草原にいこっか」

「……うん!」

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