第8話 ピブタとの対決
「頑張れ。マコト」
ルルリアの黄色い声援を受けて俺は目の前の魔獣と対面している。
両手で剣を持っている俺に対して、目の前のピブタというブタに近いモンスターはピョンピョン跳ねながらこちらの出方を伺っているようだ。
そもそも剣もまともに持ったことのない俺が異世界人というだけでこいつに勝てるのかが不安で仕方ない。。
そうだ!魔法はどうだろう。ルルリアと契約したんだから俺もルルリアの属性魔法である【闇】魔法が使えるはずだ。
俺は勝ち誇った顔をして決め顔で唱えた。
「トランス!!!」
・・・何も起こらない。
「トランス!トランス!トランス!」
くっそ。なんで何も起きないんだ。
っとその時ピブタが一直線に俺に突進してきた。
「おわッ」何とかギリギリで交わすことができたが、ピブタはコチラをじっと見ながらまた様子をかがっている。
「ル、ルルリアさん?トランスできないんだけどどういうこと?」
「うーん。なんでだろうね。マコトの器がまだトランスに耐えられないとか、単純に経験値が足りないんじゃないかな」
首をかしげながらルルリアは答えてくれた。
なんてこったい。まさかせっかく契約したのに不発かよ。
剣だけでこいつを倒さなくちゃいけないってのか…。
いや、たしか腕力や防御力は通常よりチートなんだから何とかなるんじゃないだろうか。
きっとそうだそうじゃなければこの世界でも【一般人レベル】になってしまう。
「かかってこい!!」
俺はピブタに向かって挑発し、それを聞いたピブタは俺に向かって突進してきた。
「ここだ。くらえ!!」
勢いよくピブタに向かって剣を振り下ろす。
「グサッ」
ピブタは俺の剣を華麗によけ、剣は地面にぐっさりと刺ささた。
そのまま勢いを落とさずにピブタは俺の腹に突っ込んで、俺の腹にめり込んだ。
「ぐはっっっ」
3メートルぐらい後方に見事に吹き飛んで、うつぶせに倒れた。
「マコト大丈夫?」
ルルリアが心配そうに俺のほうを見ている。
「だ、大丈夫だ。」
腹を抱えてうずくまっている俺はどっからどう見ても大丈夫ではない。
はっきり言ってノロウイルスで腹を下した時のレベルじゃないほど激痛が俺を襲っている。
このまま死ぬのか。。。。
「マコト…」
ルルリアが俺を心配してくれている。なんていい子なんだ。
ルルリアのためにこの豚を仕留めて食わせてあげたいけど、それは無理だ。
なぜなら今の俺は腹を抱えてうずくまっているだけで精いっぱいなのだから。
「マコト弱すぎじゃない?本当に異世界人なの?ピブタってっ雑魚中の雑魚なんだよ」
おやっ?ルルリアさんは俺を心配しているんじゃなくてもしかして俺に幻滅しているのかな。
「ピブタなんて武器持ってる人間ならただの村人でも倒せちゃうのに…。マコト魔王なんでしょ?ちょっと期待してたのに残念だよ」悲しそうな顔でルルリアが俺に言ってくるが、今はそれどころではない。
ピブタが今にでも俺に突っ込んできそうなのだ。
「ルルリアごめん。俺にはそんな大層な力はないようだ…。」
「みたいだね!ここは私がピブタ倒すからマコトは旅立ちセットに入ってる回復薬でも飲んでて」
ルルリアの評価が墜落する飛行機のごとく下がっていく中で俺は試験管に入った緑の液体を飲む。
「おぉ~」
さすが異世界。回復薬を飲んだ瞬に痛みと傷が消えてしまった。
「本当はピブタなんて【トランス】しなくても倒せるんだけど、私も契約したの初めてだから試させてもらうね」
そういうとルルリアは詠唱をはじめた。
「我、闇の妖精の名の元に、契約者との道を今こそ開かん。【トランス】」
ルルリアの身体が黒光に包まれたと思ったらそこから出てきたのは身長160センチぐらいの女性だった。
外見はルルリアを大きくしたもので、顔は若干大人っぽくなってはいるものの間違いなくルルリアだ。
ただ違うところといえば胸があることだろう。
「ルルリアなのか?」
「そうだよ。トランスをすることによって肉体も強化されるからそれにともなって大人の身体になったみたいね。それよりもマコトは大丈夫?」
「何が?」と俺は首をかしげながら聞き返す。
「えっ?今はトランス状態だからマコトの魔力とかいろいろもらっちゃってる状態なんだど、何ともないの?」
不思議そうな顔で聞いてくるが俺は全く持って通常通りだった。
「何ともないみたいだ。ルルリアの力俺に見せてくれよ。」
「ピブタごときにトランス使うなんて本当は超もったいないんだけど、マコトに私のすごさを見せとかなくちゃね!!」
そういって嬉しそうにルルリアはピブタに向かっていく。
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今、俺の目の前には黒いワンピースの美少女とピンクのモンスターことピブタが一定の距離を保ち、睨み合っている姿がある。
ピブタは現在目の前にしている美少女のルルリアが只者ではなことを悟ったのか、なかなか突進してこない。むしろじりじりと後ずさりしているように見える。
ピブタは後ろ向きになって走り出した。
「逃がさないよっ」
そう言うとルルリアは右手を頭上にあげて魔法を唱える。
「ダークボール!!」
詠唱と共にルルリアの手のひらに直径1メートルぐらいの黒い球体が出来上がった。
ルルリアが右手をピブタに向けて振り下ろすと同時に黒い球体はピブタに向けて一直線に飛んでいき、ピブタに命中した。
「プギャーーーーーッ」
ピブタの断末魔が聞こえたと同時にルルリアの放ったダークボールが消え、それと同時にピブタもきれいに消えてなくなっていた。
「ルルリアすごいな・・・」
俺が唖然としながらルルリアに話しかけるとルルリアも唖然としながら答える。
「トランスってホントすごいね。私のダークボールは普段なら直径30センチぐらいだし、いくらなんでもピブタを消滅させちゃうほどの力はないからね」
そう言い終るとルルリアはみるみる小さくなり、普段通りのサイズになったかと思ったら俺の肩に座り始めた。
「ピブタのお肉食べれなくしちゃってごめんね。あのね、とっても言いにくいんだけどマコトはもっと強くならないとすぐ死んじゃうよ」
「だよな。とりあえず普通に剣ぐらいは使えるようにならないとな」
ぐったりとしながら俺は答える。
こうして俺の異世界での初戦闘は一応終わったのだが、身体強化もされてないってどういうことなんだ。
確かステータスには「身体超強化」っていうのがあったはずなんだが。
念のためステータスをもう一度確認してみよう。
■ステータス■
名前 :轟 真
職業 :魔王
職位 :タマゴ(孵化すらしていません)
称号 :ピブタ倒せない最弱魔王
魔法 :無
スキル:身体超強化、対魔法体質、トランス(闇)
配下 :ルルリア(妖精)
装備 :制服、黒ローブ、ロングソード
名前 :ルルリア
職業 :闇妖精
職位 :下級下位(中級下位)
称号 :魔王の契約者
魔法 :初級闇魔法(中級闇魔法)
スキル:魔王の加護、対闇魔法体質、トランス、(身体超強化、魔法強化)
装備 :妖精の服
備考 :()内はトランス時の状態
なぜかルルリアのステータスまで見れるようになった。
これは契約したことによって【配下】ということになったからなのかもしれない。
っていうかやっぱりスキルには【身体超強化】【トランス(闇)】がしっかりあるのになんで使えないんだ。
称号も変なのになってるし。。。
異世界人は初めから強いなんて嘘だろ。このままいったら本当にルルリアの言うとおり即死だ。
何とかしなくちゃいけないな。
そう決意しながら目的地まで歩き出した。