逃亡
どうぞ。
俺がそういうとフェリアさんが部屋に入ってきた。
「夜分遅くに申し訳ありません。ですがあなたとは直接お話しをさせて頂きたかったので」
まさか!!異世界からきた俺に一目ぼれか?
「どうしたんですか?」
「はい。あなたは…(仮)勇者ではなく【魔王】なのではないですか?」
「えっ??」
心臓の音が聞こえる。まさかすでにばれているなんて。
もしかして処分しにきたとかじゃないのか。
そんなことを考えながら後ずさりしてしまった。
「やはりそうなのですね。安心してください他言はしておりませんし、気づいているのもまだ私だけのはずです。」
「な、なんでわかったんですか?」
「直観というのが一番正しいと思います。皆様とはまるで違うオーラでしたし、魔王を拝見したことがあるのですがその時と似ている感じがしたので」
「それだけでですか?」
「はい。私たち妖精族は感じる力がとても強い種族です。観察眼もありますので、妖精族の前で嘘などはつかない方がいいですよ」
にっこりと素敵な笑顔ではあるが内心怖いな。
「お名前を教えて頂いても宜しいでしょうか」
「あ、轟 真です。名乗るの遅くなってすいません」
そういえば名乗るの忘れてた。急いで名乗った。
「まことさんいい名前ですね。まことさんに担当直入に申し上げます。今すぐここから逃げてください。
「えっ?どうしてですか?」
「皇王は他種族を忌み嫌っております。それは私たち妖精族でさえ一緒なんです。
「でもフェニルさんは人間に協力されているじゃないですか」
「それは…契約があるからなんです」
つらそうな顔をしながら言っているので追及ができなかった。
「まことさんは人間ですが【魔王】です。さらに異世界人ということもありますので自国民でもない。それがどういうことだかわかりますか?」
「忌み嫌われる対象でしかも殺しても痛くもかゆくもないということですか」
「ちょっと違いますが、大体そんなところです。あえていうなら【魔王】を殺さずに幽閉することで魔界側の【魔王】という最強の職業を他国に知らせることなく封じることができるのです。そうなったらもうまことさんに自由はありません」
「なっ…」
俺は言葉に詰まった。
「魔王になれとは言ってませんが、人間界にいてはいづれつかまってしまいます。ほかの方は【(仮)勇者】の称号があるうちは手厚く迎え入れられるでしょう。」
「俺はどうすればいい?この世界に来たばかりで何もしらない。それにいくら転生者が強いといっても俺には魔法も使えないみたいなんだけど。」
「え?魔法つかえないんですか?」
どうやらフェニルがびっくりしている。
「…はい。どうやら使えないみたいです」
「そうですか。でも魔力は感じますので、いずれは使えるようになるかもしれませんね」
ほっ。どうやら後発てきにも使えるようになることはあるらしい。
「まことさんは元の世界に帰りたいです?」
「帰りたくないと言ったらうそになります」
「そうですよね。私が皇王に抗えていたら巻き込むことはなかったのですが…。確実ではないですが帰れる可能性はあります。」
真剣なまなざしで俺をみてくる。
「本当ですか?30年後じゃなくてですか?」
「はい。30年後に転送できたとしてもそれはあなたたちの世界とは限らないんですよ」
フェニルの話だと、
こちらに呼び寄せるときはとにかく異世界のものをこちらに引っ張るだけなのだそうだ。極端にいうと原始人だった可能性もあるわけ。
でも帰るときは時間軸や場所など細かい設定が必要になるから今回と同じ力では足りないらしい。そのままの力で帰ったら江戸時代かもしれないという博打なのだ。
じゃあどうするかというと、【神霊】の力を借りれば帰れるかもしれないってフェニルは言う。この世界には7体の【神霊】がいて、それぞれが火、水、土、風、雷、光、闇の属性をつかさどっている神のようなものだとか。神霊というだけあってすさまじい力を持っているので、帰るには十分な力だしもしかしたら変えるすべも知っているかもしれない。ってお話。
「なるほど!!でも神霊ってどこにいるかわかっているんですか?」
「はい。神霊様がたは神殿に住んでいますし、神殿の周辺が観光地になっているところもありますので。」
ずいぶんお気楽な神霊もいたもんだな!!
でも疑問が残る。
「そんなすごい力持ってるんならみんなその神霊の力を得ようするんじゃないですか」
「神霊様の試練はすごく難しいらしく、契約できたのは過去に2人だけだそうです。一人は初代勇者様で2体と契約。2人目は精霊の巫女と呼ばれている方で4体と契約できたそうですよ」
「かなりハードル高そうですし、契約できたからと言って帰れるわけでもないでしょう。」
「そうですね」
フェニルは下を向いてしまったが、俺の心は決まった。
「俺、城を抜け出します。ここにいるよりはよさそうだし、それにせっかく異世界に来たんだから楽しまなくちゃね。」
それに皇王も信用できないし、クラスのみんなと仲がいいわけではないしちょうどいいかもな。
「そうですか。よかったです。」
フェニルは満面の笑みだ!!
「なんでこんなに親切にしてくれるんですか?」
「まことさんを呼んだのは私ですし、私の直感があなたは世界にいい方向で変化をもたらしてくれるといっているんです」
「魔王なのにですか?」
「えぇ!!」
俺は苦笑いをしたが、フェニルは喜んでいるように見えた。
「まずはどこに行けばいいですか?」
「ここから一番近い神殿は【火の神殿】ですね。地図とお金、それに食料と素敵な旅のお供をつけましょう」
「旅のお供?」
俺が首をかしげるのと同時にフェニルが何か唱え始めると急に黒い物体が出現した。
「この子をまことさんの旅のお供と案内人として同行させましょう」
そういって出てきたのは15センチくらいの黒のワンピースに黒のロングヘアーで背中にはねの生えた女の子の妖精だった。
「始めましてまこと。私の名前は【ルルリア】。これからよろしくね」
元気な声で挨拶してくるルルリア。大きかったらさぞ美少女だったろうに残念だ。
「この子は闇属性の精霊なんですが、外に出たいとずっと言っていたのでよかったら契約して連れて行ってください。」
「こっちは願ったりかなったりですよ、一人で行くよりも何倍もいいです。よろしくルルリア。」
俺は内心ほっとしていた。さすがに最初から一人なんてし不安すぎるからね。
俺はフェニルに言われるがまま契約をし、すぐさま城を出ていった。