異世界へようこそ
目を覚ますとそこには西洋の屋敷のような造りの部屋にクラスメイト全員が横たわっていた。
床には見たこともないような文字で魔法陣のような円がかかれていて、
その周りには数十人の白いローブを頭からかぶった人?がいた。
「ここはどこだ?」残念なイケメンこと青島大輔が目を覚ます。
「教室ではないみたいだけど…」クラス一の美少女の山本彩が続く。
クラスメイトが続々と目を覚ます中で俺は一つの可能性を考えていた。
学校に行かなくなり、毎日が暇だった俺は勉強以外にゲームとライトノベルにはまっていた。
今やライトノベルは星の数ほど存在する。その中でも俺が大好きなのはもっぱら「異世界転生」ものだ。
読んでるだけでわくわくするような世界。
普段とは違った世界。
新しくやり直すなら異世界に行きたいと思っていた。
今のこの状況はどうだろう。今まで読んできたライトノベルの展開にそっくりじゃないか?
ってかそのままじゃないか。異世界に来ちゃったのか?
周りのクラスメイトが不安な表情であたりを見渡している中で、
喜びのあまり小さくガッツポーズをしてしまったのは秘密だ。
「すいません。ここがどこでいったいどうなっているのかわかっている方はいらっしゃいませんか?」
白ローブに話しかけたのはクラスの委員長の岡本 鈴音だ。
岡本はショートカットのメガネ女子で一見運動音痴そうに見えるが陸上部のエースで細身。そしてメガネを取るとかなりかわいいってことで山本に次いで人気ナンバー2だ。
白ローブの一人がローブを取った時みんなが唖然としたが、俺は確信した。
「皆様。初めまして。私は妖精族の長を務めさせて頂いております。フェリア=フェニールと申します。」
この世のものとは思えないような美しい淡い水色の髪に髪と同じ色の目の色。そして耳先がとっがっていた。間違いない!!ここは異世界だ。
「まず皆様に謝らせてください。大変申し訳ございません。
私たちの都合でこの世界に呼んでしまって、…本当に…申し訳ございません。」
妖精族の長は涙ながらに俺たちに謝ってきた。
「…いったいどうゆうことですか?」委員長の岡本が訪ねる。
「それは…」
フェリアが俺たちをこの世界に呼んだわけを話してくれた。
要約するとこんな感じだ。
まずこの世界はアートリアというらしい。
この世界には5つの種族が存在し、そのうち4つの種族が常に争いあっているというのだ。
人間界・妖精界・獣人界・魔界・竜人界の5つで、妖精界以外の国が常に争いを繰り返している。
もともと各国の力は拮抗していて、優劣がつかない状態が500年も続いている。
だがここ最近になってこの世界に大きな動きがあった。
獣人界と竜人界が手を組んだことと魔界の王と人間界の勇者が先日の戦で命を落としてしまったことである。
もともと同じ獣人族としていた竜神族であったが、遥か昔に獣人界から独立してできたのが竜神界こと「ドラゴニア」である。
獣人界の王はかねてよりもともとは同種であったドラゴニアと手を組む努力をしてきて、それが実ったことになる。
もともと身体能力の高い2種族であるから戦局が大きく傾く危険性があることは誰の目から見ても明らかであった。
そんな中人間界と魔界も一時的に同盟を結ぼうと人間界から話し合いの場がもうけられたが、どんな手違いがあったのか魔界に届いたのは「宣戦布告」であった。
魔界は人間界に対し攻撃を仕掛けようとするが、
人間界に滞在していた妖精族の長フェリア=フェニール達によって魔界の襲撃は不発に終わった。
人間界の最高戦力である「勇者」はすきを突き魔王を倒したが、
勇者も魔王とその部下によって致命傷を与えられて間もなく死んでしまったとのこと。
そして今回の転生に話は入っていく。
もともと人間界と妖精界は国が近いということもあり、
有益な関係を遥か昔から続けている。
妖精界そのものが小さく、種族数も圧倒的に少ないことから他国からは全く持って相手にされていなかった。
だが今回の戦いで結果的に人間界の味方をしてしまったことが公になり、他国から攻められる立場になったという。
そこで妖精界は人間界と同盟を結び、新たなる「勇者」を育て上げることになるのだが、「勇者」というのは特別な存在らしくこの世界にもともといるものではないらしい。
数百年前にも一度異世界から勇者を召喚した文献が残されており、
戦死してしまった勇者もその血筋だったというのだ。
この世界で何世代目の勇者かは定かではないが、異世界の血が薄くなっていることからやられてしまったのではという意見が多い。
そこで人間界の王こと皇王は妖精族と力を合わせて2種族を守り、
世界に平和をもたらす新たなる「勇者」を召喚する必要性から今回の転生を行ったというのが現在までの話だ。
「話は分かったけど…、私たちにこの世界で戦う理由は全くありません。
今すぐ元の世界にかえしてください。」
「そうだそうだ!!」
「なんで俺たちが戦わなくちゃいけないんだ!!」
委員長こと岡本を筆頭にクラスメイトが一丸となって白ローブたちにブーイングを浴びせ始めた。
「本当にごめんなさい」といって頭を下げたのは妖精界の長であるフェリア=フェニールだ。
「今回皆様を召喚できたのは私たち妖精族の力が最も高まる【青満月】を利用できたのが大きいので、すぐにお返しすることがかなわないですし…問題もございます」
「【青満月】ってなんだ?」
「あと問題ってなんなんですか」
青島と山本が質問した。
「はい。【青満月】とは30年に一度夜空に浮かびあがる2つの月が両方とも青い光を放つときのことです。」
「問題というのは次の【青満月】までは同等の力が使えないことと、私たちが見つけた文献には召喚魔法はあっても帰還魔法は記されていなかったのです」
「そんな!!」
「それじゃあ30年後にでさえ返れる保証はないってことかよ!!」
クラスメイトの大半が絶望で顔面蒼白である。
「すいません。前任の勇者がこの世界で子を作った後に元の世界に戻ったという情報も今のところないのが現状です」
フェリア=フェニールがクラスメイトに追い打ちをかけた。
「しょうがないですね。今はこの世界に呼ばれてしまったことを受け入れるしかないみたいだ」
メガネのイケメン男子こと【秋元 進】が言葉を発した。
身長はそこまで高くなく、顔がジャニーズ系で両親が医者。そして自らも医大を目指いているという女子からしたら超がつくほどの好物件である男だ。
「秋元君・・・」
「かっこいい・・・」
と女子の黄色い声援が飛ぶ中で
「くっそ。エリートがかっこつけやがって」
「いいとこどりしすぎだろ」
と男子の罵声が聞こえてくるのである。
「進。だいじょうぶなの?」
秋元に声をかけたのは秋元の幼馴染で黒髪ロングの低身長、ピンクのシュシュでポニーテルにしているのが特徴的の【吉永 未来】だ。
「大丈夫も何もここにいても帰れるわけではないし、黙っていても戦争は始まっているんだから行動するしかないよ」
「そうだよね!!秋元くんの言うとおり今は行動するしか手段がないよね」
秋元の言葉に続いて委員長の岡本が元気な声でみんなに向かって言う。
「そうだな!!やってやろうぜ」
「ちょっと異世界って興味あったんだよね~」
「俺も俺も」
クラスメイト達よさっきの顔面蒼白はどこに行ったんだ!!
なんて変わり身の早い奴らなんだ…。
そんなことを考えながらも俺は異世界に来たことに初めからワクワクしていた。この時の自分の考えがどれだけ甘かったのかは数日後にすぐ知ることになる。
「皆様。本当に有難うございます。」
深々とお辞儀をするフェリア=フェニールにみんなの視線が集まる。
「これからこの世界での戦い方やこれからの行動などをお伝えさせて頂きますので、人間界の王【皇王】のもとへ皆様をご案内いたします。ついてきてください」
そして部屋を出て前を歩くフェリアについっていった。