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え、なんで攫われているの?(三国の所為だ、絶対)

ゆらゆらと左右に体が揺さぶられる感覚がする。

車とか船とか乗り物に乗っている所為で起こる小さめの揺れじゃなくて、誰かに抱えて運ばれているから起こる不規則な揺れだと思う。

荷物のように結構乱雑に運ばれているのかもしれない。

「……………ん?」

「漸く起きたか、オヒメサマ」

「最悪」

思わず呟いてしまった一言に、私を運んでいた人物は顔を面白いくらい引き攣らせた。

瞼を開けた先に現れたのは、三国と同レベルの見目麗しい男。

三国に攫われてから会った美形(三国を含めて三人の美形にしか会っていない)が全員変人(弓弦さんは残念な部類)だったので、悲しかな、私の中で美形イコール変人という方程式が堂々と成り立ってしまっている。

とんでもないキンキラキンの美形ということは、やっぱりとんでもない変人で、下手したら三国よりもヤバイかもしれないと脳内でレッドアラートが延々と鳴り響く。

思わず眉間に皺を寄せると、今までそんな対応をされたことが無かったのであろう美男子は困ったような顔をした。

「えっと、僕は何かしちゃったかな?」

「この状態が先ずは問題でしょう。あんた馬鹿なの」

そう言い切って直ぐに余計なことをペラペラと言う口を押さえる。

口は災いの元と言う先人の格言は紛うことなき事実だ。

けれど、見ず知らずの男に抱っこされているのも嫌だし、そもそもお前は誰なんだよ、と苛々していたので三国に突っ込む時のように厳しい口調で言ってしまった。

逆上して襲い掛かってこられたら非常に困る。

私を攫うのは三国に恨みがある者だろうから全員が裏関係者だろうね、と梓ちゃんに非常にたちの悪い満面の笑みで宣言されたのを思い出したからだ。

襲い掛かられたら、思考回路は兎も角、身体能力的にはまだ一般人である私が敵うはずもない。

表情には出さないが内心戦々恐々と怯えていると、その美男子はキョトンと目を見開いた後に爆笑した。

もう一度言う。

爆笑した。

「あっはははははは!あははは!ひーっ、あはははははは!は、腹が、い、痛い!」

「あんたは頭でも打ったのか。とうとうイかれたのか。気色悪いから離してくれませんか」

「ち、違うよ。君の回答が想像もしなかった上に面白かったからさ、つい。あと、何で最後が敬語なの」

思いっきり冷めた目で静かに距離を取ろうとドン引きしたら、男は私の様子に焦って弁解をし始めた。

というか、それよりも、私の回答が想像もしなかった上に面白いってどういうことなんだ。

多分普通のことを聞いた筈だぞ。

それを、今だに笑いが収まらない、ツボが可笑しい笑い上戸の男に質問してみたいが、地雷を掘り当てそうな気がしたので止めておいた。

こういう時に限って私の勘はよく当たるし、面倒事には首を突っ込まないという家訓がある。

まだ微かに肩を震わせている男からそっと視線を外して、私は何も見てないし聞いてないし言ってないという見猿聞か猿言わ猿を貫き通す。

空が赤で綺麗だなあ、とか、もう日が暮れちゃったんだなあ、とか、結構どうでもいいことで頭を紛らわせていると、男は私の様子でまたオロオロと焦り始めた。

「え?あの、本気でドン引いているんですか?」

「…………」

「えっと、あの、その、」

「…………」

「僕が色々と悪かったです!ごめんなさい!だから何か返事をして下さい!僕に抱えられている筈なのに、何も無いように振る舞われるのはきついんです…」

最終的には泣き言のように小さくなった声に一つ溜息をつく。

この頃溜息をつく回数が倍近くになったなあ、と思っていると、溜息を聞いて呆れられたと思ったらしい男が目に涙を溜めていた。

「豆腐メンタルかよ。ダセェ」

その言葉を吐き捨てた瞬間に、男は地面に崩れ落ちた。

勿論私は関節技とか、名前は忘れちゃったけど何かの技を使って男の腕の中から既に脱出している。

私は殺人鬼や暗殺者たちに比べたら脆弱かもしれないが、一般人よりは強いと自負している。

これでも師範を倒したことがあるのだから。

攻撃される可能性があるから少し構えをとって崩れ落ちた男を警戒していると、男はコンクリートの地面に膝を抱えて体育座りをした。

のの字まで書いている。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「どれだけ言うつもりなんだよ!喧しいわ!」

私の口調が三国たちと居た時よりも若干崩壊していると思うが、そんなことには構っていられない。

このままいったら日が暮れても延々と謝り続けていそうで本当にうざいし邪魔だし鬱陶しい。

いや、もう日は暮れてしまったが、放置しておけば朝日が拝めそうだ。

鬱々とした湿った空気でそこらじゅうにキノコを生やさないで欲しい。

「どうせ僕なんか僕なんか僕なんか僕なんか」

「ネガティブ発言を連発するなよ」

「……………死にたい」

「一気に重くなったなあ、おい!」

私の口調が三国たちと居た時よりも若干崩壊していると思うが、そんなことには構っていられない。

どうすればこの豆腐メンタルを回復できるのか検討もつかない。

誰か助けてくれないかなあ、と他力本願に思っていると、後ろから複数人の足音が聞こえてきた。

「お前はまたキノコを生やしているんだな」

「気にしないで下さい。もう、趣味ですから」

「とことん非生産的な趣味だな。いや、キノコを生産している時点で非生産的ではないけど」

「どっちなんだがはっきりしろ」

「どう区別つけるのさ」

突っ込まれたので突っ込み返すと、気が付いたら背後に立っていたボスらしき男は顎に手を当てて考え込んでいた。

きっとボスらしき男もどう判断したらいいのか分からないんだろう。

役立つものは何一つとして生まれていないから非生産的なんだが、言葉の生産をそのままの意味で取ると、キノコを生産しているから非生産的は当てはまらなくなる。

だってキノコを生やしているんだから。

「………すまん。俺にも区別がつけられん」

「でしょうね。余り期待していませんでしたし、というかこんなのの答えを知っていても意味ないでしょう。それよりも、貴方は誰ですか?三国に恨みを持つ人ですか?」

「随分な直球で来たな」

崩れ落ちた男に対してすらすらと暗にどうでもいいと言って戦闘不能状態にした後に、ボス(もう面倒臭いからボス呼びにした)の方へ向き直る。

「それで、どうなんですか?」

「俺個人というよりは、俺たちがあいつに恨みがあるんだよ。死神と呼ばれ恐れられたあいつに。俺たちヨルムンガンドが」

「死神にヨルムンガンド…………恥ずかしい厨二風のあだ名ですね」

「言うこっちもかなり恥ずかしいんだから、そう言うのは止めてくれ。頼む。後、同情に満ちた視線も」

三国の死神というあだ名もまあ恥ずかしいが、あいつの恐ろしさを知っているからそのあだ名を付けた理由が何と無く分かる。

あいつは正に死神だ。

だがそれ以上に、ヨルムンガンドと呼ばれる彼らに同情してしまう。

神話の、世界を飲み込もうとした蛇に例えられるのはその強さ故に名誉なことかもしれないが、きっと恥ずかしい。

だって厨二病っぽいじゃん。

ボスの後ろに立つ複数人の黒服も赤くなった顔を隠すように白手袋を嵌めた手で顔を覆っていた。

「ヨルムンガンドって、組織に付けられたあだ名なんですか」

「嗚呼、そうだ。強い組織や暗殺者、殺人鬼には区別する為のあだ名が付けられる。どちらかというとコードネームみたいな感じだな。流石に本名を使うのは困るだろうし」

「なるほど。人物特定されない為にあの恥ずかしいあだ名を付けたというか付けられたんですね」

「頼むからさ、納得という名の追い打ちをかけないでくれるかい?もう俺の仲間が何人か戦闘不能状態になっているんだけど」

「はっ、豆腐メンタルかよ。本当にダセェな」

あの男と同じように思いっきり罵ると、後ろに控えていた黒服たちの幾人かが一斉に崩れ落ちる。

鬱々としてキノコを生やすのはあの美男子と同じだ。

崩れ落ちていない何人かも体を震わせて泣きそうになっていた。

「……………お嬢さん、マジで止めてくれ」

「ヨルムンガンドには豆腐メンタル兼鬱しかいないのかよ」

「頼むから、本当に口を閉じて!」

「むぐっ、」

そう言って大きな掌で口を無理矢理閉じさせられた。

歯と歯がぶつかり合って痛い。

文句も言えなくなった。

こうなったら、とうとう最終手段を取るしかない。

ボスの手が綺麗だといいな、とか、ちゃんと洗ってあるといいな、と思いながら、私は口を覆っているボスの手に躊躇いなく噛み付き、その足の甲を思いっきり踏み付けた。

因みに私はヒールを履いていた。

知らないうちに。

「いってぇ!」

「死ね!」

逃げるが勝ちとそう叫んで身を翻そうとしたが、私の足はやっぱり遅かった。

いや、こいつらが異様なだけか。

「お転婆すぎるだろう、こいつ」

やはり裏関係者なだけあって身体能力が高いらしいボスが速攻で逃げた分の距離を詰めて、首根っこを掴まれてぶら下げられる。

ボスに比べたら小さいし背の低い私は、子猫のようにプラーんと宙に浮いていた。

屈辱である。

足も届かない。

苛々してボスを睨み付けていると、いっぺんに十歳くらい老けたような顔で手を手刀の形にした。

「悪いが眠っていてくれ。これ以上仲間の精神を崩壊させないてぐれ。頼むから」

三国に攫われた時のように首に手刀を落とされて、非常に切実な声を聞きながら痛みを感じる間も無く私の意識は途絶える。

この男、後で顔面を崩壊させてやると心に誓って。

ついでに、仲間全員の心もボッキボキに折ってやるとも誓った。



「紗綾は何処なんだ⁉︎」

いなくなった私にブチ切れている三国がいたことを知らずに。



あれ、そう言えば私、どうやって攫われたんだ?

気付いたらあの鬱陶しい美男子の腕の中に居たのだが…

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