表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

面白い拾い物をしたなあ(絶対に逃がしてあげないけどね)

三国side

それは何時もの気紛れだった。

「何してんの、そんなとこで?」

ふらりと立ち寄った廃墟ビルの屋上に佇んでいたのは、今にも消えそうな儚さを持つ美しい少女だった。

制服を着ているので女子高生であろう少女は、声をかけられたことに対する苛立ちで切れ長の瞳を不愉快そうに歪めている。

壊れそうで壊れない、狂いそうで狂わない。

そんな瞳を持つ危うい少女は、俺の方を見て苛立たし気に忠告する。

「自殺。何かしらの事件の目撃者になりたくないなら、早く此処から出て行って」

「目撃者かあ。俺はなったことないな。何時も加害者の方だから」

「はあ?何言ってるの?」

真実を伝えると、その少女は更に瞳を歪めて俺を睨み付ける。

怯えるでも憎むでも無い、純粋な怒りの感情をぶつけられたのは久し振り過ぎて笑いがこみ上げてくる。

そんな俺を見た瞬間に少女は何、こいつ面倒臭そうという顔をして、またビルから遠くの景色を見る。

だが、その瞳には景色が映っていない。

恐ろしく感じるほどに虚ろな瞳。

「そう。なら別に目撃者になるくらいはどうでもいいよね。それじゃあね、加害者さん」

「あ、ちょっと待って」

そのままふわりと宙に身を踊らせようとした少女に目を見開くと同時に距離を一気に詰めて、服の襟首を思いっきり掴む。

このまま死なすには惜しいと思ったから。

「うぐっ、」

潰れたヒキガエルのような声を出した少女は、眦を釣り上げて俺を鋭い眼光で射抜く。

ここで、少女の長い睫毛に縁取られた瞳の色が青灰色、ヨーロッパ系の人間が持つ青系統の色だということに気が付いた。

黒髪だから瞳の色は黒か茶色だろうと思っていたのに、少女の瞳は俺の母親と同じ、濁っているように見えて澄んでいる美しい青。

「何するのよ!」

「ねえ、何で自殺しようとするの?」

「はあ?」

「俺が殺した奴等はさ、全員が殺さないでくれって泣き喚いて命乞いをしてきたのに、君はその大事な命を簡単に捨てようとしている」

少女の瞳が驚愕に見開かれるが、やはり恐怖や畏怖の色が宿ることはなかった。

肝が座っているのか、あるいは状況が掴めていないただの馬鹿なのか。

死神と呼ばれ恐れられた俺の、退廃した空気に怯えることなく俺を見詰める青灰色に恍惚を覚えるが、それを顔に出すことはしない。

「それが俺には不思議でたまらない。自ら命を絶とうとする奴も入れば、殺されかけながらも生きようとみっともなく足掻く奴も居る」

まじまじと俺を見詰めた少女は一つ溜息をつくと、阿呆な子共に呆れつつも慈しむような、困った子供を見守る母親のような慈愛の篭った顔をして俺に向き直る。

「…そうやって足掻く人は生きる意味があるからよ」

「生きる意味?」

「そう。死のうとする人は生きる意味を、この世界に居る意味を見出せなくて死を選ぶ。生きようとする人は、まだこの世界に居る意味があるから生を選ぶ。とても簡単なことなのよ」

「ふーん」

そういう考え方もあるのかと納得したようなしていないようなひどく曖昧な声を上げると、少女は薄紅色の柔らかそうな唇に、多分自覚していないであろう苦笑を浮かべて襟を掴んでいる手を無理矢理振り払った。

「あ」

「それじゃあ、もういいでしょう。じゃあね、殺人鬼さん」

淡い笑みを浮かべた少女は俺に一言告げると、躊躇うことなく今度こそ宙に身を踊らせた。

その様は空へ還ろうともがく堕天使のように見えてしまう。


還すものか、逃がすものか。


不意に湧き上がった、凶暴なまでの血迷ったその思いだけで俺は動く。

自分でも気付かぬうちに。

「グレードアップしてるね、俺の呼び方」

「え?…何してるのよ!」

横を吹き抜けていく風は思ったよりも強くて、目を閉じていた少女は俺の呑気な声でその目を開いた。

最初に出てきたのはやはり驚き。

ありありと、ちゃんと手は振り払った筈なのにという考えが顔に浮かんでいる。

「落ちるのは久し振りだなあ。随分前に警察から逃げる時にやって以来だっけ?」

「何ヘラヘラしているのよ!このままじゃ、貴方は死ぬのよ!」

俺を案じる少女の瞳からは先程までの薄闇のように仄暗い色が綺麗に消え去り、再び怒りを灯している。

目を見開いた所為で月光を多く取り込み、キラキラと煌めいている青灰色の瞳は何よりも美しい。

「うーん、君と一緒に飛んでみれば、君の生死に対する倫理観とか真理が手に入って面白いんじゃないかと思ったんだけど」

適当にでっち上げた嘘は、我ながら阿呆な言い訳だと思う。

「そんなの無理に決まっているでしょう!頭悪いの!それに貴方は貴方なんだから、私の倫理観なんて受け入れなくていいのよ!というか、面白いと感じる前に落ちて死んでいるわよ!」

「……俺は俺かあ。君は面白いことを言うんだね。なら、決めた」

そんな言い方をされたのは初めて。

確実に俺の正体に気が付いていながら、そんな俺を肯定しているとも取れる言い方をした少女。

不意に湧き上がるのは独占欲とも狂気とも恋情とも言えない、はたまたその全てを混ぜ込んだような感情。

またしても初めての感情に身を任せるまま、俺は少女の華奢な体を抱き締める。

「よいしょっと。しっかり掴まってよね」

「何しているの!」

「ほら、口を閉じないと舌を噛んじゃうよ」

「むぐっ、」

口を閉じるときに勢いがよすぎたのか、苦しそうな呻き声をあげる少女を申し訳なく思いながら一切無視して懐から仕事道具を取り出すと、それを真後ろにある廃墟ビルの窓枠に引っ掛けた。

「これで良し」

「むむぐっ、むぐむぐぐ!」

「うーん、何て言っているか分からないなあ」

「むぐむぐむぐむぐむっ!」

「ははははは!」

「むぐむぐむっ!」

なんとなくで少女が言いたいことを理解してはいるが、それを明かす必要はないだろう。

そろそろロープを止めないとこのままじゃ下に激突する。

思いっきりロープを引っ張って落下を止めると、少女の腹に回していた手に結構な力を込めてしまった。

「うぎゃっ、」

「可愛くない声だなあ」

「…随分と酷い言い様ね。………それよりも、なんで私たちはぶら下がっているの」

この道具を見て分かっているであろうに、わざわざ確認をとろうとする少女は面白くて可愛らしいと思う。

「見て分かるだろう?鉤爪に頑丈なロープを取り付けたものを窓枠に引っ掛けて、落ちるのを防いでいるんだよ」

「腕力が半端ないわね」

感心半分、呆れ半分の少女は、疲れたように乾いた笑みを浮かべた。

「君の体重が重かったら大変だったけど、思った以上に軽いというか、軽過ぎて大丈夫って心配になる」

真顔で体重の心配をすると、少女はひどく微妙な顔をする。

今この状態でこの言葉は無かったと、自分も少しだけ微妙な気持ちになったのは秘密だ。

「……確かに平均よりは軽いかもしれないけれど、心配されるほどでは無いわ」

「そっか、なら良かった。さてと、降りるよ」

「その方が良さそうね」

いつまでも宙ぶらりん状態は少女だけでなく俺も避けたいところ。

通りかかる人は少ないだろうが、もしも居た場合は通報されるのがオチだろう。

グラグラと冷たい夜風に煽られて揺れるのがとても気持ち悪いらしく、少女は元から白い顔を青白くして口元を押さえている。

「よっ、と」

「あー何か気分悪い」

「だろうね。少ない時間とは言え、宙ぶらりん状態だったんだから酔って当然だよ」

頭を押さえてふらつく少女を支えようか支えまいか迷う。

「それならどうして貴方は平気なのよ?」

「慣れてるから」

爽やかな笑顔を見せてみると、少女は嘘臭い奴とでも言いたげに睨んできた。

常人にしては上手に音を立てないように立ち上がって身を翻した少女は、俺がロープをくるくると巻くのに気を取られているとでも思ったようだ。

颯爽と逃げ出そうとする少女に小さな溜息を零して、また直ぐに距離を詰める。

「何で逃げているのかなあ?」

「…だからなんでそんなに足が速いのよ!」

「うん?人を殺すには身体能力が高くないとやってられないからね。殺すにも警察から逃げるにも」

「生々しい話をしないでいただけるかしら、殺人鬼さん?」

俺の仕事事情を伝えると、面倒事に巻き込まれる、と如実に顔に表してしまった少女は自分を助けてくれる人でも探しているのか目が泳いでいた。

そんなことをしても無駄なのに。

普通の人間ならば絶対に俺に敵わないのだから。

狂気の笑みを隠すように、少女の俺に対する呼び方への質問をする。

「その殺人鬼さんって呼び方は?」

「今までの話を聞いたらそうとしか思えないから、呼称にしたのよ」

「へー、正解だね」

ヘラヘラヘラヘラと笑い続けていると、拳を握り締めて怒りを耐える為にぷるぷると身を震わせる少女は大変可愛らしい。

俺のタイプにどストライク。

気が強くて、どっか壊れていて、負けん気が強いのに儚い女の子。

「もういいでしょう。さようなら」

「だから、さようならなんてしないってば」

今度は振り払われることが無いように、強めに力を込めて少女のか細い腕を握る。

骨が折れる一歩手前の力で握っている所為か、ミシミシと音がし始めて少女は苦痛に顔を歪めた。

「い、たい…」

「痛い?痛いよね?これが生きている痛みだよ」

「何が、したいの?」

痛みで震える少女の瞳はただただ真っ直ぐで、穢れることを知らないように思えた。

そんな瞳を穢したいと思うのは男として当然の心理。

なのに、

「君を生かしたい」

口から零れたのは、俺が思っていたこととは少し違う想い。

けれど、それでもいいやと思う。

どちらでも同じだと。

俺の側に居れば否応無しに穢れて、共に堕ちていくだろう。

「俺は俺だと言ったのは君が初めてだし、殺人鬼だと気付いたにも拘らず俺に恐怖や畏怖の目を向ける訳でもなければ媚びる訳でもなく、呆れた目を向けてくる人間は初めてだ」

恍惚とした、陶然とした瞳をしている自覚これでもはある。

そんな、狂っているようにも見える瞳から少女が逃げ出そうとしていることも。

「だから、君には死んで欲しくないかな。どうせ捨てる命なんだろう?だったらさ、俺にチョウダイ」

ここまで俺が何かを欲し、執着するのも初めてだ。

だから決して逃がさない。

囲い込んで、逃げようだなんて意思を根刮ぎ奪ってやる。

どす黒い思いを抱えて、少女が抵抗する前に首に手刀を落として気を失わせる。

ぐったりとした体は柔らかくて細くて、生きているのか心配になった。

大量殺人犯の殺人鬼であり、抑えようのない殺人衝動を持つ俺にこんなことを思わせるなんて、本当に大した少女だ。

整った顔立ちは俺と出会ってしまったという悍ましい現実から開放されて強制的に眠りに就いた所為か、不思議と安らかな顔をしている。

「楽しみだな」

これからどうなるのかは想像がつかないが、面白いことだけは間違いないだろう。


これが、イかれた殺人鬼である俺、三国と死にたがりの美しい少女、紗綾との出会いと始まり。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ