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え、なんで攫われているの?(三国の所為だ、絶対)5

弓弦side

「あはははは!その程度の実力で私たちの大事な紗綾ちゃんに手を出したの?ばっかじゃないの?頭悪いんじゃないの?そっかあ、三国に一度半壊にされても馬鹿みたいにまた突っかかってきたから、貴方たちは紛うことなき馬鹿なんだね!正真正銘の馬鹿で阿呆で能無しなんだね!」

「ぎゃぁぁぁぁぁっ!」

「やめてっ、ぐぁ、」

「くそっ!何なんだよ、こいつ!」

噎せ返るような血の匂い。

響き渡るのは悲鳴に怒号に断末魔。

正に阿鼻叫喚の地獄絵図。

そうとしか言いようがない光景の真ん中で高笑いをして暴言を吐きまくっているのは、右手にナイフ、左手に拳銃を構えた血濡れの梓。

全身に返り血を滴らせた梓は、可愛らしい笑顔だが瞳には壮絶なものを孕ませた妖しい瞳でヨルムンガンドの奴等を見詰めている。

梓が笑顔のまま標的を甚振るのは、怒っているか苛立っている時の癖。

今回は紗綾を攫われたことが相当頭にきていたのだろう。

攻撃された相手が激痛を覚える場所に的確にナイフを滑らし、急所を外して銃弾を放ち、死なない程度に手加減をしながら蹴り飛ばす。

ヨルムンガンドのアジトであった筈の倉庫は、側にいる俺ですら出る幕がないほどの梓の独擅場になっていた。

もしも梓にばれないように攻撃しようとする奴が居たら俺がこっそりと始末すると決めていたが、そんな気は根刮ぎ削がれたようで、奴等は逃げ惑うことしか出来ない。

哀れで憐れで見ていられない状況。

普通の人間ならその恐ろしさに発狂しかねないが、紗綾を攫われたことに少なからず怒っていた俺は笑みを浮かべている自覚がある。

「あれ?こいつ、もう死んじゃったの?あ、こっちもだ」

「ヒィィィィィ!」

「近寄るなぁぁぁぁ!」

既に物言わぬ死体と化した下っ端を転がして仰向けにさせると、それを見た幹部が悲鳴を上げて後退る。

おいおいそれでもあだ名持ちの幹部かよ、と言いたくなるが押し黙る。

此処で手を出したら俺が梓に怒られてしまう。

気分良く人を屠っている時に手を出されるのを嫌うのは、俺も梓も、此処には居ない三国も同じだ。

だから、仕事仲間の誰かが殺っている時は手を出さないというのが俺たちの中で暗黙の了解となっている。

つらつらとそんなことを考えていると、怯える奴等からまるで化け物を見るような視線を向けられた梓は、相変わらず全く、僅かも変わらない笑みを見せていた。

奴等を甚振っている時から少しも歪むことのないその笑顔は、梓の異常さを感じさせるには十分だった。

にこにこと笑って拳銃を構え直した梓は、トップに当たる男の眉間に銃口を突き付ける。

「あのさ、私たちは貴方たちを甚振って甚振って甚振りまくってから、この情報を裏社会のサイトに流さなきゃいけないの。だから、特にトップである貴方には特に悲惨な死体を晒してもらわなきゃいけないんだ。見せしめの為に」

梓は少しだけ笑顔の質を変えた。

慈愛に満ちている、聖女を思わせるその微笑みの性質は真逆。

狂気と憎悪と殺意に満ちたそれは、コンクリートの地面に這い蹲る奴等に途方もない恐怖を与える。

「…………そんなにあの少女が大切なのか?見たところ普通の人間と変わらないぞ。確かに度胸があって変わったところがあるが」

そんなもの愚問だ。

俺は三国たちに言われた通りに梓一筋だが、紗綾のことだって妹のように大切にしている。

それは梓も同じこと。

柔らかい笑みを唇に刻む梓は、訳が分からないという顔をしているトップの男に向けて言い放った。

「貴方たちのような、まだ常識を持っている裏社会の人間には分からないわよ。私たちのようにどうしようもないくらいに狂って壊れていない貴方たちには。あの子の温もりと優しさ、もう元に戻せないほど壊れた心がどれほど愛しいかなんて」

「壊れた心…」

「そう。あの子は狂ってる。私たちとは違った意味で、狂って壊れているのよ」

その言葉で思い出すのは、何処にでもいる破落戸のように荒んではいないが、ただただ虚ろで空虚で何も無い空洞のような仄暗い青灰色の瞳。

日常のふとした時に見せるそれを俺たちは大切に守ろうとしているし、その瞳に誰よりも魅せられているのはきっと三国で間違いない。

でなければ、仲間である俺たちですら自分が部屋に居ない時は入れないようにしているのに、まだ出会ったばかりの少女に全てを任せている時点であいつが紗綾にどれだけ依存しているのが分かる。

「さてと、無駄話はこれくらいにして、どうやって凄惨な死体を作ろうかしら?何がいいと思う、弓弦?」

「…硫酸でも使って皮膚をドロドロにした後、手足の骨を折って皮膚を剥いで、ぐちゃぐちゃにした内臓を表に出しておけばいいんじゃないか?標本みたいだろう」

「そこで標本という表現が出てくるのが流石弓弦よね。でも、良い案だと思うわ」

半眼で俺を見た梓は一つ頷いてからくるりと振り向いて、倉庫の壁に立て掛けるようにしておいたアタッシュケースを取って来た。

開かれたアタッシュケースからは、灰色のクッションに包まれるようにして瓶に詰められた幾つかの薬品と鋭く研がれた数本のメスが覗いた。

「じゃあ、弓弦に言われた通りに解剖開始ー!標本死体は何個出来るかなー!」

満面の笑みを浮かべて堂々と宣言した梓に、顔を青褪めさせた奴等は自分の未来を悟ったのだろう。

もう動くことができない奴等に悠々と歩み寄って行った梓を見届けることなく、俺は自分の携帯電話を開いてアプリを起動した。

少ししてから先程の比ではない悲鳴と怒号、断末魔が倉庫内にわんわんと木霊した。

勿論俺は三国の、紗綾を攫う馬鹿者共の見せしめをサイトに流しちゃおう、というある意味ろくでなしの計画の為に、転がってきた死体を携帯電話で動画撮影して同時に裏社会のサイトに流し始めた。

紗綾を襲おうとする馬鹿者はこれで数を減らすだろうと思って。

目の前に広がる地獄は気にしない。

今日の夕飯は久し振りに梓が作るものになるかもしれないな、とこの状況と全く関係ないことを考えて。

不意に一つの大きな断末魔が聞こえると同時に、大量の鮮血が隣の壁にびしゃっと音を立ててかかる。

それを見た俺は飛び散ってきた血飛沫は華麗に避けようと心に決めた。

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