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第9節

    ニャンニャンの陰謀


自分の考えとは、まったく違った展開に、捺差内はただ呆然と、校庭の片隅にたたずんでいた。

 そんな科学部長に駆け寄った京子は、その横ッ面を軽く叩くと、彼の意識を正気に返させた。

「早く、電源を切るんだよ!」

「切ってあります……」

 捺差内は、手元のキーボードを操作しながら、うつろな表情でこの喧嘩早い副会長を、見返した。

 正面のいくつかのモニターには、京子には理解できないメッセージが、次々と表示されていた。

「なら!ケーブルを外せばいいじゃないか!?」

 そう言うと、京子は手近なケーブルやコードを、次々に引き千切りはじめた。

 そんな京子の乱暴なやり方に、捺差内は悲しそうな表情を浮かべたが、やがて、自分も主電源のコードを抜いた。しかし、金色に輝く巨大ロボットがその動きを止める気配はなく、それを作りだしている機材の唸りも、鳴り止もうとはしなかった。

 短気な京子は、プロジェクターとなった発振器をブチ壊すべく、蹴り上げた。しかし、金色の輝きが見えない壁となって、その足の動きを受け止めた。

「電気が、エネルギーが、別のところから、送られている……」

 様々な操作をした挙げ句、捺差内はそう結論した。

 その悲し気な科学部長の表情から、京子は、これがもはや、この男の手を離れた事態だということを、ハッキリと悟った。

「ニャンニャンは、あの中国娘はどうした!?」

 京子の言葉に、捺差内は慌てて周囲を見回した。校庭のどこにも、その可愛らしい少女の姿は見えなかった。

 京子は、舌打ちをした。すべては、あの娘の企みだったということが、ハッキリしたのだ。

「京子さん!聞こえます!?」

 校庭の真ん中で、巨大なロボットの攻撃を食い止めながら、彩香が京子を呼んだ。

「このロボットさん、このままでは、過負荷で暴走するか、爆発してしまいます。早く、発生装置を止めて下さい……」

 砂塵を巻き上げながら、彩香は見えない力で、巨大なロボットの動きを押さえていた。

 そんな生徒会長に、京子は怒鳴り返した。

「そんなこと言ったって、こっちも、どうにもならないんだよ!」

「それなら、仕方ありませんが、このロボットが爆発したら……」

「爆発したら?」

「学校だけでなく、この街全体が、消し飛びますわ……」

「何だって!?」

 京子は、彩香の言葉に驚いたが、すぐに気を取り直すと、傍で呆然としている、科学部長の胸ぐらを掴んだ。

「おいッ、何とかしろ!」

「そんなこと言ったって、どういうわけか、映像が実体化しているんだから……何かが、エネルギーを変換しているんだ」

 困惑し切った捺差内から手を離した京子は、再び周囲を見回した。

「それとも、誰かがってわけか……」

「誰かって、まさか!?」

 その時、逃げ出した女子生徒の一人が、悲鳴を上げて空を指差した。周囲の他の生徒や教師も、その方向を見上げた。

 ちょうど、校庭の真ん中で争っている、彩香とロボットを見おろす形で、校舎の屋上の柵の上に立つ、金色に輝く人影があった。

「ニャンニャン!」

 期せずして、数人が同時に叫んだ。

 同じように人影を見上げて、捺差内はゴックリと喉を鳴らした。

 振り返えると、自分の隣りにいた副会長の姿が、校舎の中に駆け込むのが見えた。慌てた科学部長も、何がなんだかわからないままその後を追った。

 校庭では、巨大ロボットが彩香に掴み掛かり、彩香が人間離れした跳躍で、その手をかわしたところだった。地響きが校庭を揺るがし、ロボットの両手が地面をえぐった。

 その中で、京子は一目散に屋上めがけて、駆け上がった。その速度に、捺差内が追いつくはずもなかった。

「ニャンニャン、あのデカブツを、止めろ!」

 屋上に駆け上がった京子は、息を切らしながらも、柵の上に立つ少女にそう叫んだ。

 金色の光に、内側から輝く留学生は、微かに首を曲げると、背後の京子の方を向いた。

「邪魔しないで、欲しいあるネ。これ、ニャンニャンの大事なテストある。止めるわけには、行かないあるよ」

「テストだと?そんなことのために、街一つ、道連れにするのか!?」

 京子の言葉に、ニャンニャンは微かに笑った。

「もし、ミス・サイカがこのまま負けてくれなければ、そうなっても、仕方ないある。あの人の強さは、まともじゃないある」

「それは、認める。彩香はまともじゃない。だから、街が吹っ飛んでも、あいつは痛くも痒くもないぞ!あいつに、そんな脅しは無駄だ!!」

「そうかも、知れないある。世界最高のサイキッカー、彩の姫巫の名は、ダテじゃなそうあるね……」

 その時京子は、この中国娘が、なぜか嬉しそうに微笑んだように思えた。

 京子は、ニャンニャンに詰め寄った。

「それが、わかっているなら!」

「無駄ある、ミス・キョウコ、それ以上近付くと、あの人の命、ただでは済まないあるね」

 ニャンニャンに近付こうとしていた京子は、その言葉に足を止め、金色に輝く物騒な娘が、顎で示した方を向いた。

 屋上の柵の外側に、わずかな建物の縁がある。その上に、ほとんど、空中に浮かぶような形で、立っている人影があった。

「叔父様!」

 それは、京子の叔父であり、彩香の夫でもある、美術講師の高野透だった。

 透は意識がないのか、ピクリとも動かなかった。

「ミス・サイカに対する切札あるが、あなたにも、効果があるあるネ?」

「卑怯な……」

「では、黙って、見ているよろし。私の任務は、あくまでも、ミス・サイカの抹殺だけある。他の人に、危害を加えるつもりはないある……」

 そう言うと、ニャンニャンは再び校庭で暴れるロボットに、注意を向けた。

 その時、ようやく科学部長が屋上に駆け上がって来た。捺差内は、叔父を人質に取られた副会長の肩が、微かに震えはじめるのを見た。

 やがて捺差内は、京子が体を曲げて笑いだしたのを知って、立ち尽くした。京子の神経が、おかしくなったのかと思ったのだ。

 京子は、さらに激しく笑いはじめた。

「何がおかしいある!?」

 その耳障りな笑い声に、とうとうニャンニャンが、再び振り返った。

 笑いながら、京子はその中国娘を指差した。

「あんたは、自分で自分の首を締めたんだ。叔父様に手を出したことを知ったら、彩香はもう遊んではいないよ!」

 そう言って、さもおかしそうに京子は笑った。

その京子の言葉は、ひどくニャンニャンを傷付けた。彼女は、表情を変えて京子を睨んだ。

 そんなニャンニャンの背後に、下からゆっくりと浮き上がって来る人影があった。




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