表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/21

第21節

    エピローグ


 合衆国の大臣が辞任したニュースに対して、聖麗高校のほとんどの者、特に生徒達は、まったくと言っていいほど、感心を持たなかった。

 世界情勢やら、政治に無関心なのは、ここの生徒に始まることではなかった。だから、世界が脅威的な勢いで軍縮に進んでいることに、関心を払う生徒も少なかった。

 少なくとも、その原因の一つが、自分の身近にあったとしても。

「なんで?なんで、アタシらが、こんなことをしなきゃ、ならないのよ!?」

「あんたが、荒神会長を倒したいなんて、言うからじゃない!」

「だからって、なんで、アタシらが、変態オタクの科学部を、手伝わなきゃならないよ!?」

 不毛な会話で、愚痴を並べていたのは、例の彩香を目の仇にしていた、不良娘とその仲間だった。

 彼女達は、渋々ではあったが、部員が減って人手不足となった科学部を、準部員として手伝っていた。

「ブツブツ言わないで、手伝うよろし。生徒会と生徒会長を、打倒したいあるなら、黙って私達を手伝えばよろしいある。そうあるね、幸司!?」

 留学生から、正式にこの学校の生徒の身分となった中国娘は、そう言うと、複雑な機器を組み立てている、傍らの男子生徒を振り返った。

 科学部長は、そんなニャンニャンと共に、日夜、B2モードをよりパワー・アップした、B3モードのシステム開発に没頭していた。その過程で、彼は実験の失敗から、何度となく、化学室及びその準備室を破損した。

 教師からの申し出もあって、とうとう生徒会は、生徒会長の名前で科学部に対して、一ヶ月間の謹慎を命じた。もちろん、それを決定した役員会には、他の役員会と同様、彩香は出席すらしてはいなかった。

 本人にもよくわからない信念と、思い込みの激しさから、科学部長は生徒会と戦うことを、自分の使命だと決めていた。その捺差内に、そのような生徒会の決定が、受け入れらるはずはなかった。

 かくして、再び、科学部が作り上げた幻影の立体映像が、ニャンニャンの力で実体化させられ、生徒会役員及び、生徒会長に挑みかかった。最初の衝突以来、ニャンニャンが、この学校の生徒となったこともあって、この両者の対決は何度となく繰り返されていた。今や、聖麗高校の恒例行事の一つという雰囲気さえあった。

 その度に校庭は戦場となり、校舎や施設の一部、あるいは全部が破損していた。だが、そんなことは、この学校の生徒や教師達にとって、部活動で校舎の窓ガラスが割れたことと、同じようなものだった。

「淫乱生徒会長!今日こそ、きっぱり決着を着けてやる!!」

 実体化した、巨大な恐竜ロボットを操作しながら、そう叫ぶ捺差内に対して、彩香はキッパリと言い返した。

「わたくしが淫乱なら、あなたは、ロリコンではありませんか!?違うとは、よもやおっしゃいませんわね!」

 その言葉に、捺差内は自分に寄り添うニャンニャンを見て、考え込んだ。確かに、彼女は十二歳そこそこにしか見えなかった。

 しかも、もし生まれた時間から計算すれば、この青い目の中国娘が、一歳にもなっていないことを、誰あろうこの科学部長だけは知っていた。年齢だけでロリコンと呼ばれるのなら、これこそまさに、究極のロリコンと言っても間違いではなかった。

 何で、こんなことに、なったんだろう?こんなつもりじゃ、なかったんじゃないのか?思い込みの激しい単純な科学部長も、その瞬間ばかりは、そんな風に悩んだりもした。しかし、それも全幅の信頼と愛情を込めて、自分を振り返る少女の、無邪気で屈託のない笑顔を見るまでだった。そんな疑問は、一瞬にして彼の頭から蒸発していた。

 ロリコンと呼ぶなら呼べ!この愛さえあれば、自分に恐れるものは、何もないのだ!!そう開き直って、迷いを振り払った捺差内は、心の中で誓った。彼女のためなら、どのような汚名も甘んじて受ける!と。

 愛のために戦い、名誉のために死す。そんな、中世の騎士さながらの、悲愴な決意で、科学部長は生徒会長に挑み掛かって行く、何度やっても、結果は同じにも関わらず……。

 その様子を、行儀悪く生徒会室の窓枠に座って、リンゴをかじりながら、副会長兼体育実行委員長の京子が眺めていた。彼女は、自分の隣りに立って、同じように見物している叔父に尋ねた。

「ねェ、叔父様。彩香と一緒になって、後悔してない?」

 生徒でもある姪の、突然の問いに、一瞬答えに詰まった透だったが、やがて頭を掻きながら答えた。

「少なくとも、退屈はしないな……」

 少し顔を赤らめた、尊敬する叔父を見て、京子は心の中で、自分だけは必ずまともな恋愛をしようと、誓っていた。それは、彼女を知る者が聞いたら、誰もがまず信じようとはしない種類の誓いだった。

 京子の、そんな誓いのことなど、知るはずもない彩香は、地響きを立てて襲いかかる巨大恐竜型ロボットを、簡単に片手で受け止めた。次の瞬間、生徒会長の腕が回って、ロボットは空高く放り投げ上げられた。

 赤い夕焼けの広がる空に、舞い上がった恐竜ロボットは、そのまま、一番星の微かな瞬きの中に、消えるように見えなくなった。

 地響きと砂ぼこりが収まった校庭には、賭に勝った生徒や教師の歓声と、同じく負けた相手達のため息がこだましていた。

「やっぱり、ロボットは女の子の方が良いあるよ。今度は、水着かレオタードにするあるネ!」

 そう言って、ガックリと肩を落とした科学部長に、今や副部長であると同時に、全校生徒が認めた恋人でもある中国娘が寄り添った。

 そんな少女に、捺差内は寂しく首を振った。

「水着やレオタードは邪道だ!美少女は、セーラー服が最強なんだ!!」

 何やらわけのわからない、そんな変態オタク部長の言葉に、青い目の中国娘はキョトンとしながらも、嬉しそうに微笑んだ。

 夕焼け空を背景に、校庭の中にシルエットで浮かぶその光景は、見方によってはずいぶんと麗しい光景だった。多くの男子生徒は、羨ましいと思うと同時に、苦々しい思いで見つめていた。

 だが、それを冷やかしに行くだけの度胸は、誰にもなかった。



FIN


先に掲載した、第1話よりは短い話ですが、携帯で読まれる際に短めのファイルで区切られた方が良いという御意見がございましたので、このような形にしてみましたが、いかがだったでしょうか?どちらにしても、拙い物語にお付き合いいただきまして、ありがとうございます。さて、この彩香を主人公とした短編は、まだ1編ほど残っています。もし皆様の御希望があれば、是非こちらのサイトへ掲載したいと思いますので、宜しく御評価・御感想の程、お願い致します。また他の作品や、こちらには掲載できないアニメやマンガの評論や感想については、前書きでも述べました通りHINAKAが主宰していますホーム・ページ『あんのん〈http://ryuproj.com/cweb/site/aonow〉』とブログ〈http://blog.so-net.ne.jp/aonow/〉にも色々とありますので、宜しければそちらの方も御覧いただければ、これに勝る喜びはありません。それでは、御高覧どうもありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ