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第17節

    最強の兵器


 突然の衝撃に、白衣の老人も、床に叩き付けられたが、彩香は微動だにしなかった。

 それどころか、片手を上げて、再度の衝撃で再び宙に浮かんだ博士の体を、柔らかく着地させた。

『衝撃により、再生装置、一部破損!』

 マックスの言葉に、血の流れる額を押えた、白衣の老人の顔色が変わった。博士は壁にもたれ掛けると、よろめく体をどうにか支えた。

「ドクター、ここはよろしいですから、ニャンニャンさんの方を!」

 より一層輝きを増した、逆立つ髪を揺らめかせて、彩香は老人を促した。

 老人は、大きく頷くと、よろめく足を踏みしめながら、部屋を出て行った。

『彩の姫巫、これは核ミサイルです』

「その名で、呼ばないで下さいな。わたくしの名前は、彩香。ミスでも、荒神でもなく、ただ彩香だけよ!よろしい?」

『失礼しました。では、彩香。核ミサイル、第二波来ますけれど、どうなさいます』

「核の反応を止めましょう。とりあえず、それで何とかならないかしら?発射したところに戻してもいいんだけど、それでは騒ぎが大きくなるでしょう?」

 どこまでも、彩香は落ち着いていた。自分が夫と選んだ男性と、それ以外の、少数の親しい者達が関わる場合を除けば、彼女が取り乱すことは有り得なかった。

 むしろ、この巨大な機体を管理する人格である、マックスの方が、機械らしくもなく、大いに狼狽えていた。それは、博士がより人間らしい人格を与えたためもあったが、それ以上に、彩香の言葉が常識離れしているためだった。

『止める?どうやって?』

「核物質には、確か半減期とかいうものが、ありましたわね?」

『確かに、ありますが……』

「弾頭の時間を、一万年ほど進めれば、役に立たなくなるんじゃないかしら?」

『時間を進める?いや、仮に、それが出来たとしても、一万年ぐらいでは足りないでしょう……』

「では、そうすれば、よろしいのかしら?」

『そうですねェ……時間を進めることが出来るくらいなら、温度を絶対零度まで、下げることは可能でしょうか?』

「お安い御用ですわ」

 余りにもアッサリとした、彩香の返事に、再びマックスは軽く沈黙した。

 だが、今度の困惑は、それほど長く続かなかった。状況が、それほど、切迫していたのだ。

『では、やって下さい。温度をそこまで下げれば、核物質はともかく、起爆装置が作動しません……』

 困惑しきったマックスの返答に、彩香は微かに笑って答えると、目を閉じて精神の集中を計った。彼女の頭の中には、大気圏を貫いて迫り来る、何基かの核ミサイルの姿が浮かんでいた。

 その次の数秒間に、マックスは自分の体から外に向けて、計測不能な異様なエネルギーの流れを感じて、初めて人間的な恐怖の感情を覚えた。

 シールドに引っかかった核ミサイルは、すべて、そのまま爆発もせずに、粉々に砕け、文字通り宇宙の塵となって漂って行った。




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