表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/21

第11節

    単純な想い


 空気すら動かない学校の屋上で、異様な光景が展開していた。

 屋上の柵の外の空中には、怪しく光る髪を逆立てた彩香が、恐ろし気な表情のまま浮かんでいた。屋上の柵のなかでは、京子が透を抱き支え、捺差内がニャンニャンを、その体の下に抱きしめていた。

 耳を覆いたくなる悲鳴を発しながら、中国娘は海老のように、激しく体を折り曲げたり伸ばしたりを繰り返した。捺差内は、そんな少女の体を必死に抱えた。

「だいじょうぶか、おいッ、ニャンニャン、しっかりしろ!しっかり……」

可愛い少女の苦痛に、成す術を知らない科学部長は、空中に浮かぶ生徒会長を振り返った。

「何てことをするんだ!ニャンニャンには、何の罪もないじゃないか、やるなら、この俺をやれ!!なんで、こんな可愛い娘に、こんな酷いことをするんだ!?」

 それは、完全に的外れな、一方的な捺差内の思い込みに過ぎなかった。だが、その余りに単純で感情的な怒りが、同じく直情的に怒っていた彩香に、微妙な反応を与えた。

 京子は、彩香の長い髪がその禍々しい発光を止め、元の通りになるのを見た。柵の外の彩の姫巫の体は、ゆっくりと柵を越えて屋上に入って来た。

 京子は、ホッと胸を撫で下ろした。

「科学部長さん。あなた、その娘が何者で、何をしたのか、御存知なのですか?」

 彩香の表情は険しかったが、その目は先ほどのように吊り上がってはいなかった。

「この娘は、ニャンニャンは、俺のために、手伝ってくれたんだ。俺が、あんたをやっつけるために、力を貸してくれたんだ!ただ、それだけだ!!あんたを恨んだのは、憎んだのは、俺だ!痛めつけるんなら、俺にしてくれ!!」

 純情と言うには、余りにも直線的で、自分勝手な思い込みだった。それだけに、単純に胸を打つ響きがあった。

 どちらかと言うと、シラケ気味に彩香は京子を見返した。本来、このような感情の相手は彩香ではなく、京子のものだった。

「もう、そのくらいでいいだろう。彩香、いや、荒神生徒会長……」

 そう言って、屋上に降り立った彩香と、留学生の体を抱く科学部長の間に入ったのは、その留学生に捕らわれていた美術講師だった。

 気を失っていた彼には、事情はさっぱりわからなかった。ただ、自分のことで、彩香が我を忘れて無茶をしたということだけは、おおよそ察しがついていた。

「先生まで、そうおっしゃるなら……」

 そう言うと、彩香は自分の長い髪を頭の後ろで束ねて、再び赤いリボンで結んだ。

 その時、それまで固体のように動かなかった空気が動き、風が校舎の屋上を吹き抜けた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ