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第1節

この物語は、先に掲載しました『姫巫伝説・彩香さいか!』の続編に当たります。

 しかし、完全に1つの独立した物語となっておりますので、先の作品を御存じ無い方でも、問題なく読むことが出来ます。もし、この作品がお気に召しましたら、どうか先の作品も読んでいただければ、これに勝る喜びはありません。

 なお、先の作品の前書きでも触れましたが、1つお断りがあります。通常、ミコという漢字は「巫女」と書きますが、「巫」でも間違いではありません。「男巫おとこみこ」ということばがあるくらいです。また、この作者は『あんのん〈http://ryuproj.com/cweb/site/aonow〉』というホーム・ページやHINAKAの『あんのん・ブログ〈http://blog.so-net.ne.jp/aonow/〉』で、こちらにはまだ掲載できない物語や、アニメやマンガなどの評論や感想等を載せています。そちらも御覧いただければ、幸いです。では、この物語が、一時の楽しみとならん事を!

   姫巫伝説・彩香〈さいか〉2

    《無敵の人妻女子高生対史上最強の中国少女!》



    プロローグ


 薄暗い部屋の中を、取り巻くようにして、大きなモニター・スクリーンが光を放っている。

 それまで、様々な映像を映し出していたらしいそれらのスクリーンも、今はただ灰色の画面や、目障りなノイズをチラつかせるだけだった。

「‥‥‥と、いう訳だ」

「なるほど、それで?」

 モニターのスイッチを切ろうともしないで、部屋の中の人影の一つが、隣りの人影に話しかける。

 話しかけられた人影が、葉巻のようなものに火をつけた。人工の小さな光がそこかしこで明滅する、薄暗いこの部屋の中には不似合いな明りが、ポツンと灯った。

「いよいよ、実戦テストに入りたい」

「当然だな。実戦で役に立たない兵器など、子供のオモチャに過ぎん。だが、これにふさわしい実戦テストの場があるかな?」

 こういった場所で、こそこそと話し合われることの、例外に漏れず、この話も健全さからは、ほど遠い内容だった。

「こいつの特徴は、一国の軍隊を壊滅させることではない。そんなことは、核ミサイルにでもまかせればいい。いささか、時代遅れではあるがな‥‥‥」

「というと、今売り出し中のピン・ポイント攻撃か?」

「その通り、しかも、このピン・ポイントは建物どころではない。地上のどんな場所、どんな大きさのモノでも、思いのままに、正確に破壊できることにある。例えば、一国中のたった一人の人間の、指一本とかな‥‥‥」

「そういうことは、対人テロと言うんじゃないか?」

 葉巻を喰わえた人影は、やや憂鬱そうだった。

 しかし、もう一つの人影は、その言葉に首を振り、心外だと言わんばかりの口調になった。

「これは、テロではない。レッキとした、軍事行動だ!」

「で、その目標は?もう決めてあるのだろう?」

 葉巻を喰わえた人影の言葉に、もう一つの人影が、初めて手元の操作盤をいじった。

 すると、正面の大きなスクリーンに、一人の人物の姿が映し出された。その隣りには、細かな文字と数字が浮かんだ。

「君に、少女趣味があるとは意外だったな、それも東洋人が好みとは‥‥‥」

 スクリーンの照り返しを受けて、葉巻を喰わえた初老の男は、その知的なメタルフレームの眼鏡の奥で、不快気に目を細めた。

 葉巻の男と同じように、スクリーンの照り返しの中で、小男はそんな皮肉な言葉に醜く唇を歪めた。髪の毛の薄い頭を掻きながら、彼は手前の小さな卓上モニターを指差した。

「こいつが何者か、そのデーターを見てから、言ってくれ」

 髪の薄い小男の言葉に、渋々葉巻の男は、声に出して文字を読み始めた。

「ふん、姓名、サイカ・アラミ。年齢、推定十六歳。最新所在地‥‥‥バカバカしい、この娘がいったい何だって‥‥‥」

 葉巻の男が、抗議の声を発しようとした時、小男は黙って画面の上を指差した。そこには、この資料の所属が、簡単な記号で示してあった。

「このデーターが、最重要機密!?閲覧に、大統領の許可がいるだと!おいッ、まさか‥‥‥」

「もちろん、許可は得ていない。何なら、君が大統領に頼んでくれるか?大統領の信任厚い、国防大臣閣下」

「貴様、これをどうやって?」

「まァ、色々とな‥‥‥そんなことより、出所に納得したのなら、早く先を続けてくれ。まさか、コピーを取って提出するわけには、行くまい?」

 葉巻の男は、メタルフレームの奥から、厳しい視線を小男に送っていた。やがて一息吐くと、彼は先を読み進めた。今度は、声を出さずに。

「通称、彩の姫巫〈さいのひめみこ〉、ふむ。国内のみならず、現時点で世界最高のサイキッカーだと!?その能力は未知数、いや、この記号は無限大‥‥‥まさか、そんな‥‥‥国内の一般高校に在学中?何を考えているんだこの国は!?こんな、能力者がただのハイスクールの生徒だというのか!?」

「問題は、その先だ。現在までに、誘拐・暗殺などのテロの対象になったことは、公式の記録だけで四十六回。それも、CIAを初め、かつてのKGB、モサド、大地の怒り、グリーン・アスパラガス‥‥‥」

「そうそうたる、メンバーが、それも大変な規模で攻撃している‥‥‥そのすべてが失敗だと!?なんと、あのアナコンダまで失敗か‥‥‥」

 次々と、表示されるデーターと、映像に、葉巻の男も次第に声が低くなった。

 そんな葉巻の男の表情の変化に、小男も勝ち誇るどころか、自分も声を低めた。

「それどころか、あの超一流の殺し屋、世界最高のスナイパーは、今ではこの娘のボディー・ガードのような仕事をしているらしい。それに、ここに載っているのは、公式に確認されたものだけだ。非公式なモノまで含めれば、この娘の存在が知られてから、今日までに、その襲撃回数は軽く三桁を越えるだろう」

「信じられん、こんな化物みたいな女子高校生が、存在するなど‥‥‥」

「だろう。どうだ、これは合衆国にとって、充分な、潜在的脅威とは、言えないかな?」

 小男の、皮肉を込めた不敵な言葉に、葉巻の男は、思わず口をつぐんだ。

「現在、ペンタゴンやCIAなどは、この娘に対して何のアクションも起こしていない。と言うより、起こせないと言った方が正しいな」

「この国には、『触らぬ神に、崇りなし』という諺がある」

「神、ゴッドか、あるいは悪魔か‥‥‥ともかく、この娘を葬っても、合衆国にとって得にこそなれ、損にはなるまい?」

「大統領と、この娘の近親者の意見は、違うだろうがな‥‥‥」

 葉巻を喰わえ直して、初老の男は目を閉じた。

 その穏やかな表情に、小男は皮肉な視線を送った。

「確か、この娘には、同棲している男がいるはずだ」

 そう言って、小男は操作盤の指を動かした。

 画面に、しょぼくれた、青年の姿が映し出された。

「ホーッ、自分の学校の教師を伴侶にするとは、この国も進んだモノだな。もっとも、この娘だけが、例外かも知れんが‥‥‥なるほど、確かにこの青年は、愛する者を失って悲嘆に暮れるだろうな。気の毒なことだが‥‥‥」

「そういうことだ」

 小男は、意味有り気に醜く唇を歪めて笑った。

 初老の男は、葉巻をもみ消すと立ち上がった。

「念のために確認しておくが、万が一にも我々のN2が、失敗するようなことはないだろうな?」

「N2は、我々が開発した、史上最強のサイバー・ウェポンだ。その心配はない。どうだね、この計画を大統領には?」

 小男は、唇を皮肉に歪めてみせた。立ち上がって、その顔をはるかに見おろす形の、初老の男にはそれは不快な景色だった。

「今は、伏せておこう。なんであれ、緊急の必要のない、しかも十六歳の女子高生を葬る計画など、あの方が承認するとは思えん。最高指導者としては、少々ロマンチストなところが、おありだからな」

 その言葉には、彼の現大統領に対する不満が覗いた。それを指摘して、ますます彼の不快さを高めるようなマネは、小男もしなかった。

 初老の男は、背後のスクリーンを振り返った。

「ミス・サイカ、今の内に短い青春を充分楽しんでおきたまえ。愛する者と共に‥‥‥」

 気障なセリフを口にすると、初老の男は部屋の外に消えた。小男は、歪めた唇をグレテスクな舌でペロリとなめると、その後に続いた。

 薄暗い部屋の、モニターから明りが消え、すべての小さな光もその力を失った。後には、深淵な闇だけが取り残された。




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