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第九話

シンと戦ったり、アイシャから魔法を教わったりする話。

修正・加筆の可能性大です。


そして気付けばブックマークが40人に!皆様ありがとうございます!

処女作なので拙い部分も多々あると思いますが、これからも何とか頑張っていきます!

 翌日、眠りから覚めると見慣れない天井が視界に入った。横を見てみると、少し離れた場所で七海が静かに寝息を立てている。俺は顔を洗うため、七海を起さないようにゆっくりと起き上がりテントの外に出た。

 水球の魔法で顔を洗いマジックボックスから取り出したタオルで顔を拭っていると、広場の方からけたたましい声が聞こえたきたので何かと思い足を運んでみる。するとアイシャやシン、さらには若いギルカ族の少年達が戦闘の訓練をしているようだった。しばらくその光景を眺めていると、俺の姿に気付いたアイシャから声をかけられた。


「おお、レン殿。早かったのだな」


「おはよう、アイシャ。こんな早くから訓練か」


「ああ。今は一人でも早く立派な戦士に育ってもらわないと困るからな」


「そうか」


 例の事件でギルカ族の戦士はその数を大きく減らしてしまった。いくらアイシャが強いといっても、もしまた黒い牙のような盗賊団に襲われてしまったら今度こそ村人達を守り抜く事は不可能だろう。俺にも何か手伝える事があれば…そうだ。


「アイシャ、もしよかったら俺も少し手伝おうか?」


「レ、レン殿がか?レン殿が訓練に参加してくれるのはこちらとしては大歓迎だが…本当にお願いしてもいいのか?」


「ああ。その代わりと言ったら何だけど、俺と七海に身体強化の魔法を教えてくれないか?」


「身体強化か。もちろん教えるのは構わないのだが、レン殿には無属性魔法の適正があるのか?適正が無いとその系統の魔法は使う事が出来ないからな」


「適正?ああ、俺達は全属性に適正があるみたいだからそこは問題ないと思うぞ」


「ぜ、全属性だと!?そ、それは真かレン殿!」


「あ…ああ。調べたから間違いないとは思うけど…」


「な、なんという事だ…」


 アイシャが心底驚いた様子を見せたので、俺はその理由を聞いてみる。

 どうやらアイシャの話だと全属性持ちの人間は極めて珍しく、過去に全属性持ちだった者達はその殆どが歴史に名を残すような偉人や英雄となったらしい。現代の宮廷魔道士でも、せいぜい三属性から四属性使えれば良い方だそうだ。


「近接戦闘が恐ろしく強いのはこの身をもって体感したが、まさかその上全属性持ちとは…。レン殿、本当にそなたは一体…」


「ま、まあ全属性持ちとは言っても今のところは生活魔法しか使えないんだけどな」


「と、とにかく適正があるのなら問題は無い。訓練が終わった後にでも教える事としよう」


「ああ、助かるよ」


「では早速だが頼む。おい、皆の者!手を止め一度こちらに集まれ!」


 アイシャの掛け声で訓練をしていた少年達が手を止めこちらに集まってくる。その中には汗を拭いながら俺に鋭い視線を向けてくるシンの姿もあった。


「今日はレン殿が特別に稽古を付けてくれる事となった。レン殿は料理の腕前も然る事ながら、戦いの腕前も極めて高い。皆も良い経験となるだろう」


 だがアイシャの言葉を聞いて、集まった少年達は俺に向けて懐疑的な視線を送ってきた。今は装備も身に付けてないし、見た目だけで言えばその辺にいる村人Aみたいなものだからこうなるのも仕方ないだろう。だが俺は特に気にせず、集まった少年達に声をかけた。


「今アイシャから紹介を受けたレンだ。まずはみんなの実力が見たい。本気で当てるつもりでいいから、一斉にかかって来てくれ」


 俺の言葉に、アイシャを含めその場にいた全員が驚きの表情を浮かべた。するとシンが少し怒ったような様子で俺に話しかけてきた。


「…おいお前。訓練は遊びじゃないんだ。冗談で言ってるなら許さないぞ」


「冗談で言ってるつもりなんてないさ。それともシンは俺に攻撃を当てる自信が無いのか?」


「き、貴様!」


 場が膠着(こうちゃく)していたので俺がわざと挑発するようにシンにそう言うと、怒りの表情を浮かべながらシンが俺に木製の槍を突き出してきた。俺はその槍を軽々避けると、そのまま広場の中心に移動した。


「ほら、どうした。シンだけじゃなくて全員でかかってこい」


 すると少年達が槍を構えながら一斉に俺目掛けて突進してきた。四方八方から飛んで来る槍を避けながら俺は少年達の首筋に軽く触れるように手刀を打ち込んでいく。


「う、うわッ!」


「これで一度死んだな。実戦ならここで終わりだぞ」


 その後も少年達の槍を(ことごと)くかわしていきながら、ひたすら首筋に触れるだけの手刀を打ち込み続ける。そして30分も経った頃には、シン以外の少年達は体力が底を尽き地面に倒れリタイアしていた。シンも何とか立ってはいるが肩で大きく息をしてギリギリの状態だ。


「やっぱりシンが最後まで残ったか」


「く、くそッ!その素早さ、お前は野獣か何かか!?」


「まさか、俺はただの人間だよ。どうする、もう終わりにするか?」  


「ふ、ふざけるな!まだ俺はやれる!」


 次の瞬間、シンが何か詠唱を始めたかと思うと体の回りから白い光が発せられた。どうやらシンも身体強化が使えたみたいだな。俺が素直に関心していると、シンが深く腰を落とし右手に持った槍を後ろに大きく引いて一点突破の構えを見せた。


「これが正真正銘の全力だ!手加減出来ないから怪我しても恨むなよ!」


 するとシンが地面を大きく蹴り、低い姿勢のまま槍を構え物凄いスピードで俺に突進してきた。その姿はまるで槍を口に咥えた野生の狼みたいだ。


「うらぁぁッ!」


 シンが威勢の良い声と共に俺の胸元辺り目掛け槍を突き出してくる。俺はその突きをブリッジでかわし、その反動を利用してサマーソルト気味の蹴りをシンの鳩尾に放つ。するとシンの体が5メートル程上空に吹き飛んだ。俺はそのまま立ち上がり、落ちてきたシンの体をお姫様抱っこのようにして受け止めた。誤解の無いように言っておくが、俺にBLの趣味は無いからな。


「惜しかったなシン。だが最後の突きは中々良かったぞ」


「ち、ちくしょう…」


 そしてシンは俺の腕の中でゆっくりと意識を失った。言葉通り、先程の攻撃で全力を出し切ったのだろう。俺はゆっくりとシンを地面に下ろしアイシャの元へ向かった。


「済まないアイシャ、ちょっとやりすぎたかもしれない」


「…いや構わない。こいつらもきっと良い経験になっただろう」


「そう言ってもらえると助かる」


 そしてこの日から(しばら)くの間、俺は少年達への訓練を続ける事となる。俺の訓練を受けた少年達はやがてギルカ族の鬼槍集団と呼ばれ周囲の盗賊達から恐れられる存在となるのだが、それはまだ少し先の未来の話だ。



****



 訓練が終わる頃には七海も起きてきたので、二人でアイシャから身体強化を教えてもらう事になった。身体強化は文字通り身体能力を底上げする魔法で、レベルの上昇と共に効果量と持続時間が増えるみたいだ。だが魔法で無理矢理身体能力を底上げするので、体への負担も考えると一日に三回程度が使用限界らしい。


「ではまずは詠唱から始めよう」


「やっぱり魔法って詠唱が必要なのか?」


「そうだ。魔法毎に決まった呪文があり、それを詠唱する事で魔法は発動する」


「ふむふむ」


「中には無詠唱で魔法を発動させる事ができる者もいるみたいだが、そういう者は決まって宮廷魔道士か高ランクの冒険者だ」


「なるほどね」


「では早速だが、先ずは私が手本を見せよう」


 するとアイシャがゆっくりと目を閉じ、魔法の詠唱を始めた。そして詠唱が終わり最後に「強化」と口にすると同時に、アイシャの体から白い光が放たれた。


「…ふう。これが無属性魔法の身体強化だ。ではレン殿とナナミ殿もやってみてくれ。大切なのは詠唱と共にその言葉の意味を深く理解し頭でイメージする事だ」


「わかった、やってみる」


 俺はアイシャの一連の行動を見よう見真似でやってみる。だが詠唱の言葉を途中で忘れてしまったので、体を強化するイメージだけを持って一か八か頭の中で強化と念じてみた。すると次の瞬間、俺の体が淡く光る白い(もや)のような物に包まれ、全身から力が(みなぎ)ってくるのがわかった。どうやら成功したみたいだな。


「…レン殿。詠唱はどうしたのだ?」


「…え?いや、何か試しにやったら出来たみたいだ。ははは…」


「…もうレン殿の事で驚のは止めにした」


 七海の方を見てみると、こちらも無詠唱で身体強化を発動させていた。気になってステータスボードを見てみると、スキルに無属性魔法LV1が追加されステータスが全体的に1.2倍ほど上昇していた。補正の数値にばらつきがあったので、どうやら固定の数値が上乗せされるのではなく、元のステータスを倍加させる魔法みたいだ。つまり元のステータスが高ければ高いほど、その分効果も大きくなるという事か。


「無詠唱にも驚いたが、一度で魔法を成功させるなんて聞いた事もない。私だって発動させるのに三ヶ月は掛ったのだぞ…」


「た、たまたまだよ。なあ七海?」


「そ、そうだよ!運が良かったんだよ私達は!」


「そうか…運が良かったのか…。はは…そうだな…」


 アイシャは驚きを通り越して何だか落ち込んでしまったようだ。その後俺達は、落ち込んでしまったアイシャを必死で慰める羽目になってしまったのだった。



****



 その後俺達は森で狩りを続けながら一日置きにギルカ族の村に訪れるという生活を一ヶ月程続けた。身体強化を覚えた事により以前にも増して狩りの効率が上がり、気付けば無属性魔法もLV3まで伸びていた。アイシャが確かLV2だったから、この一ヶ月でアイシャを越えてしまった事になる。とりあえずこの事はアイシャには黙っておこう…。ちなみに、無属性魔法がLV3になった事で身体強化の効果量も1.6倍となった。どうやらレベルが1上がる毎に倍率も0.2ずつ増えてくみたいだ。LV10ともなると3倍という事か。使用者のステータスによってはとんでもない事になりそうだな。

 

 そしてこの一ヶ月でギルカ族の村も以前に増して活気が溢れてきたように思える。俺はこの一ヶ月の間で、森や畑で採れる食材を使った料理のレシピをいくつか考え、調理方法を村の人達に教えた。料理のレパートリーが増えた事で食事の質も向上し、以前の肉中心の食生活に比べたら栄養面もだいぶ改善された事だろう。


 少年達の修業に関してだが、俺がかなりスパルタで特訓した事もあってか、皆かなりの上達ぶりを見せた。特にシンに至っては、身体強化無しのアイシャに匹敵する程の成長を見せた。いずれは歴代屈指の戦士になれるかもしれないと、アイシャもシンには期待を寄せている。


 きっとギルカ族の村はこれからもっと繁栄していく事になるだろう。出来ればそれを見届けたかったが、俺達はいつまでもここに留まり続けるわけにはいかない。俺と七海は一つの決意を胸に秘め、その日アイシャの元へ訪れた。


「レン殿にナナミ殿か。よく来たな」


「よう、アイシャ」


「やっほー。ん、何か作ってたの?」


「ああ。以前レン殿に教えてもらったワーラビの胡麻和えを作っていたのだ。大婆様もこれをいたく気に入っててな」


「そうか。それは良かった」


「それで今日は私に何か用か?大婆様は今用事で出かけているのだが」


「ああ、実はな…そろそろ拠点をここから王都へ変えようと思っていてな。今日はそれを伝えに来た」


「…そ、そうか。それは寂しくなるな」


 そう、俺と七海は話し合いの末に拠点をここから王都へ移す事に決めていた。料理屋を開くならやはり人が多い場所に越した事はない。それに森で狩った魔物の数もとんでもない事になってきたので、素材として売れるなら一度整理をしておきたかったのだ。


「でももう二度とここに来れなくなるというわけじゃないし、たまには顔を出すさ。山を通れば割りとすぐの距離なんだろう?」


「そ、それはそうだがあの山には森とは比べ物にならない強さの魔物が大勢いるんだぞ。まあレン殿達にはいらぬ心配なのかもしれないが…」


「危なくなったら全力で逃げるから大丈夫さ。だから心配するな」


「そうそう!身体強化を覚えたお陰で、逃げ足も凄く速くなったからさ!」


 七海が空気を読んで冗談っぽくそう言うが、アイシャは難しい表情を崩さないままでいた。すると何かを迷っているような様子で俺に話しかけてきた。

 

「…なあレン殿」


「ん、何だ?」


「その…私もレン殿達と一緒に…」


「おや、レン殿とナナミ殿じゃないか。よく来たね」


「…ッ!」


 アイシャが何かを言いかけた時、出かけていたアイディールがテントに戻ってきた。アイシャが一瞬焦ったような表情を見せたが、そのまま何事も無かったかのようにそそくさと調理に戻ってしまった。


「こんにちはアイディールさん。お邪魔しています」


「今日はまた何か新しい料理を教えに来てくれたのかい?」


「実は拠点を王都に移す事になったので、それで今日は皆さんにお別れを言いに来ました」


「おや…そうだったのかい。それは寂しくなるねぇ」


「たまには顔を出すつもりなので、また新しい料理を何か考えておきますね」


「そうかい。それは楽しみにしているよ」


「それでアイシャ、さっきは何を言おうとしてたんだ?」


「…え?ああ、いや何でもないんだ。気にしないでくれ…」


「…?そうか、わかった」


 そして俺達は軽く談笑をした後、二人に挨拶を済ませテントを後にした。



****



 その後、村の人達にも一通り挨拶を済ませ水蓮亭に戻ろうと入り口に向かうと、一人の少年の姿がそこにあった。


「よう、シン。見送りに来てくれたのか」


「…たまたまここにいただけだ」


「そうか。もうどこかで聞いたかもしれないが、俺達はこれから王都へ行く。短い間だったが世話になったな」 


「…」


 するとシンは俺の前まで来ると、俺の胸元に拳を当てそっぽを向きながら照れ臭そうに話しかけてきた。


「…また来い。俺はまだお前に一撃も入れてないからな」


「…ああ、また必ず来るよ」


「…フン」


 シンは最後に小さく悪態をつくと村の中へと戻って行った。シンとの出会いは正直最悪だったが、この一ヶ月でだいぶ距離を縮める事が出来たかな。それにシンの成長速度には目を見張るものがあったし、冗談抜きで次に会う時には一撃良いのをもらってしまうかもしれない。俺もうかうかしてられないな。


「何だか青春だね」


「スポコンはあまり柄じゃないんだけどな」


「またまた。蓮も満更じゃない感じだったよ?」


「…もう行くぞ七海」


「ふふ、はいはい」


 こうしてギルカ族の村を後にした俺達は、出発の準備を整えるため水蓮亭へと歩を進めた。


 だがこの時、ギルカ族の村に脅威が迫っている事など、今の俺達は知る由も無かったのだ。

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