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第六話

アイシャさんと戦ったり料理を作ったりするお話。

修正・加筆の可能性大です。


それと、第一話から第五話までの間でとんでもないミスがいくつかあったので修正しました。

 俺はアイシャを正眼に見据え、素早く次の動作に移れるようリラックスした状態でナイフを構える。

 しばらく膠着(こうちゃく)状態が続いたが、まず先手を取ったのはアイシャの方だ。

 アイシャは地面を蹴ると直線的な鋭い動きで俺との距離を縮めながら槍を突き出してくる。俺はその突きを半身で避けながら、すれ違い様に手刀を首筋に打ち込もうとする。するとアイシャは振り向き様に横なぎに槍を振るい牽制してくる。俺はそれをバックステップでかわしながら一度距離を取る。さすがに少し甘かったか。


「せやッ!」


 アイシャは間髪入れずに再度俺との距離を縮め一撃二撃と突きを放ってくる。俺は最小限の動きでその攻撃避ける。今まで魔物とばかり戦ってきたせいか、アイシャの型に(はま)った素直な槍の軌道は至極読みやすかった。

しばらくするとアイシャは手詰まりと感じたのか一度俺と距離を取った。


「…くッ!ちょこまかと!」


 アイシャが槍を中段から上段に構え直し再び突進してくる。すると俺の目の前で地面に槍を突き立てると槍の柄を支点にしたまま体を縦に回転させ、空中から踵落としを放ってきた。俺は頭上で腕をクロスさせ、アイシャの蹴りを受け止める。蹴りの勢いを完全に殺した俺はナイフでアイシャを牽制しながら後方へ下がる。


「どうした!何故攻めてこない!」


「俺は君と戦う理由が無い。今からでも槍を引いてくれないか?」


「戯言を!戦うつもりが無いのなら意地でもその気にさせてやるぞ!」


 するとアイシャはブツブツと呪文の詠唱の様なものを始めた。そして彼女が最後に「強化」と口にすると、アイシャの体の回りに淡く光る白い(もや)のような物が現れた。名前から察するに、恐らくは身体能力を底上げする魔法だろうな。

 俺がアイシャの変化を考察していると、アイシャは俺の周りを細かくステップするように動き撹乱(かくらん)してきた。なるほど、さっきとは比べ物にならない速さだ。


「どうだ!いくらお前でもこの動きには付いてこれまい!」


 アイシャの動きは更に鋭さを増していき、次第にその空間に残像を生み出していく。確かにこれは凄いな。もし初日に出会っていたら恐らくやられていただろう。だが…


「もらっ「見えてるよ」」


 残像の中からアイシャが高速の突きを放ってきたが、俺はそれを体半分ほど横にずらして避ける。そして槍の柄を腕と胴体の間でがっちりと挟みアイシャの動きを封じた。どんなに速くてもこうやって無理矢理動きを止めてしまえば脅威ではない。


「は…放せ!」


「放すのはそっちだよ」


 俺は槍の柄を持ったまま体を捻り、槍ごと一本背負いでアイシャをブン投げた。


「なぁッ!?」


 アイシャが素っ頓狂な声を上げたかと思うと、そのまま地面を何回かバウンドして仰向けになって倒れた。俺は槍を投げ捨てアイシャとの距離を一瞬で縮め、そのままマウントポジションを取り首筋にナイフを突きつける。


「チェックメイト。降参するか?」


「ぐッ…。こ、殺すなら殺せ…!」


「いやいや、殺さないよ。さっきも言っただろう?俺は野盗じゃないし、君と戦う理由も殺す理由も無い」


「な、何を持ってそれを証明する!」


「しょ、証明?うーん…」


 恐らくこのままアイシャを放してもまたすぐに襲い掛かってくるだろう。もし仮に逃げたとしても、後日仲間を集めて再び襲ってくるかもしれない。それならやはり今ここできちんと誤解を解いておくのがベストだな。それなら…


「じゃあ俺の飯を食ってみないか?」


「…は?飯だと?」


「俺はこう見えても料理人なんだ。だから俺の料理でそれを証明するよ」


「お、お前が料理人?そんな出鱈目(でたらめ)な強さで料理人な訳が無いだろう!」


「もし口に合わなければその場で俺を突き殺してもいいぞ。まあ俺も抵抗はするけどな」


「な、何を言って…!」


 俺の提案にアイシャは口篭るが、しばらくすると諦めた様な口調で俺に声を掛けてきた。


「…わかった。どの道今の私に選択肢は無さそうだからな」


「よっし。じゃあ決まりだな」


「だ、だが!もしその言葉偽りと感じたら、私は容赦なくお前を突き殺すからな!」


「へいへい」


 俺は立ち上がりナイフを鞘に納め、アイシャに手を差し伸べる。

 するとアイシャは俺が差し出した手をパンと弾き、自力ですっと立ち上がった。

 …お客さん第一号は猛獣みたいな奴だな。



****



「これは…確かに料理屋の様だな」


「だから何回もそう言ってるだろう。まあとりあえず適当に座ってくれ」


 店内をキョロキョロと見回しながら落ち着かない様子のアイシャを一先ず席に座らせた。七海には対面に座ってもらって、アイシャが変な行動を起さないように見ていてもらおう。


「何か食いたい物はあるか?好きな物とかあれば教えてくれ」


「…肉だ」


「肉ね…。ちなみにアイシャの村にはどんな肉料理があるんだ?」


「特に無い。肉なんて焼いて塩をかけて食べるだけで十分だろう」


「そうっすか…」


 …まあ想定の範囲内だけどな。アイシャの見た目からして、ギルカ族というのは恐らく狩猟民族か何かだろう。地球でもそうだったが狩猟民族というのは伝統を重んじる部族だったよな。それならばあまり食べ慣れてない料理を出すよりも、その伝統に沿った料理を出した方が良いかもしれないな。


「よし、それなら…」


 そして俺はある一つの料理を思い浮かべ、サロンを腰に巻きながら厨房へと足を踏み入れた。


 厨房に入った俺はマジックボックスの中から予め部位ごとに切り分けていたビッグボアのあばらの骨付き肉を取り出す。

 取り出したあばらの肉を厚さ5センチ程に切り分け、筋と肉の部分に丁寧に包丁の刃を入れていく。そして十分に刃を通した所で塩コショウで軽く下味を付ける。

 次にマジックボックスからニンニクを取り出し、1かけだけもいで丁寧にみじん切りにしていく。

 下準備が終わった俺はマジックコンロに火を付けフライパンに熱を通す。十分に熱が通ったところで油を引き、みじん切りにしたニンニクを投入し弱火でじっくりと炒める。徐々にニンニクの芳ばしい香りが厨房に広がっていく。

 ニンニクに十分に火が通った所で火を強火にし、下味を付けた骨付き肉をフライパンの上に乗せる。そして表面に少し焼き色が付いた所で所で料理酒と醤油を適量入れ、弱火に戻しフライパンに蓋を落とす。表面に焼き色を付けてから蒸し焼きにするのは、表面から肉汁を逃さない為だ。


 ふと厨房から店内を見てみると、七海が気を使ってかアイシャに話しかけていた。だがアイシャの方はまだ完全に警戒を解いていないのか酷く無愛想だ。七海が俺の視線に気づくと、目で助けてと合図を送ってきた。俺が首を横に振ると七海は涙目になりながら再びアイシャに何か話しかけた。悪いな七海、何とか場を繋いでおいてくれ…。


 フライパンに蓋を落としてから5分程経った所で肉を引っ繰り返し再び蓋を落とす。俺はもう一台のマジックコンロに火をつけ、マジックボックスの中からラズベリアの実で作ったジャムを取り出す。そして鍋に火が通った所でラズベリアのジャムを投入。徐々にとろみがついてきたら酢と塩を入れ味を調えていく。そのまま十分にとろみが出るまで弱火でじっくりと煮込めば、お手軽ラズベリアソースの完成だ。


 ソースが完成したところで俺は骨付き肉に箸を刺し、その箸を唇に当て温度を確認する。よし、こっちもOKだな。

 最後に火を強火にして表面をカリカリに焼いていく。

 少し焦げ目が付いたらフライパンを火から下ろし、肉を皿に移して上からラズベリアソースをかければ完成だ。


「これでよし…っと」


 名付けるなら異世界風スペアリブのグリルといったところかな。アイシャの口に合うといいんだけど。


 俺は完成した料理を手に持ち、七海とアイシャが待つテーブルへと足を進めた。



****



「れ、蓮~」


 厨房から戻ると七海が心から安堵したような表情を浮かべていた。あれからもちょくちょく様子は伺っていたが、七海が殆ど一方的に話しかけていただけだったからな…。


「待たせたな。ほら出来たぞ」


「…フン!」


 別に待ってなどいないと言わんばかりにアイシャが悪態をつく。ギルカ族というのは皆こんなに気難しい人達ばかりなのだろうか。個人的には友好関係を築きたいんだけどな…。

 そんな事を思いながら、俺は料理の皿をテーブルの上に置いた。


「わぁ!スペアリブだ!美味しそう~!」


「…スペアリブ?」


「ああ。俺達の国に伝わる肉料理だよ」


「ねえねえ!早く食べようよ!私もうお腹ペコペコ!」


「…」


「毒なんて入ってないから安心して食べなよ。俺達も食うんだし」


 俺はそう言ってスペアリブを一つ手に取って食べてみせた。七海は既にぱくぱくと美味しそうに食べている。しばらくするとアイシャが意を決したかのようにスペアリブを手に取り、そして恐る恐る口に運んでいく。すると…


「……なっ!?」


 スペアリブを一口食べたアイシャが驚愕の表情を浮かべている。そして次の瞬間、(たが)が外れたように勢い良くスペアリブに(かぶ)り付き始めた。


「こ…こんなに美味い肉は食べた事がない…。これは一体何の肉なんだ?」


「ん?ビッグボアの肉だよ」


「ビ、ビッグボアだと!?ビッグボアの肉はもっと固くて筋張っているはずだ!」


「それはきっと調理方法が悪いだけだよ。同じ食材でも作り方を工夫すればいくらでも美味しくなる」


「…な、何という事だ…」


 その後アイシャは言葉少なに一心不乱にスペアリブを食べ続ける。どうやら気に入ってもらえたみたいだな。

 そしてものの数分もしない内にアイシャの皿に用意してあったスペアリブは骨を残して綺麗に無くなっていた。どうやら俺はアイシャの食欲を少し舐めていたみたいだ。というかアイシャの分だけで500グラムくらい作ったんだぞ。ギルカ族の胃袋恐ろしや…。



****



「ふう、ごちそう様」


「蓮ごちそう様!私お茶煎れてくるね!」


「ああ、頼む」


 七海が空いた皿を持って厨房へ向かった。アイシャの方を見てみるとテーブルの上辺りの虚空を虚ろな目で見つめている。すると俺の視線に気付いたのか、はっとした様子で俺の顔を見てきた。そして目を泳がせながら何かを言おうとしている。


「…すっ」


「す?」


 すると次の瞬間、アイシャが驚くような行動に出た。


「…済まなかった!」


 アイシャは凄い勢いで俺の足元に膝を付きこうべ)を垂れて来た。見事な土下座である。お茶を煎れて戻ってきた七海もその光景を見て驚いている。


「おいおい…」


「私は生まれて生まれてこの方、こんなに美味い飯を食べた事は無い。そなたのような腕の良い料理人を私は野盗と勘違いし殺すところだった…。もはや申し開きも無い」


「別に気にしちゃいないさ。だからもう頭を上げてくれ」


「だ、だがそれでは私の気が収まらん!」


 額を床にガンガンと叩きつけながら(こうべ)を垂れ続けるアイシャ。もういい止めてくれ、というか店の床にヒビが入る…。


「わかった。それなら一度ギルカ族の村に招待してくれないか?」


「ギルカ族の村だと?一体それはどういう理由で…」


「俺達は国を渡り歩きながら料理の修業の旅をしているんだ。もしよければギルカ族の人達にも俺達の料理を振る舞いたい。アイシャはその橋渡し役をしてくれないか?」


 まあ旅はをするのは今後の予定なんだけどな。それにここでルクレティアの話をする訳にもいかないし、話をしたところできっと信じてはもらえないだろう。水蓮亭の事もあるし、マジックボックスの説明だけは後でしておくか。


「そ、そんな事でいいのか?そなたが望むならこの首を差し出しても良いのだが…」


「いやいや!そんな物騒な事しなくていいから!それで、お願い出来るかな?」


「…わかった。それならば私も村に戻ったら歓迎の宴を開かせてもらおう」


「よし、交渉成立だな」


「ああ。村の者達もそなたの料理を食べたらきっと喜ぶであろう」


「そういえば自己紹介がまだだったな。俺は一之瀬蓮。ああ、こっちの方だとレン イチノセになるのかな。レンって呼んでくれ」


「私はナナミ スズハラ!ナナミって呼んでね!」


「では私も改めて名乗ろう。私はギルカ族族長の孫アイシャだ。レン殿とナナミ殿、これから宜しく頼む」


 俺達は自己紹介を終えると固く握手を結んだ。

 この三ヶ月で俺と七海は二人だけでも最低限生きていけるくらいは強くなったつもりだ。だがこうして人との繋がりを作る事は、今後この世界で生きていく上では大きなアドバンテージとなるだろう。


 そして気付けばもう辺りはすっかり日が暮れて夜になっていた。

 アイシャには今夜はうち泊まってもらい、明日三人でギルカ族の村に向かう事になった。


 アイシャが申し訳ないから床で寝ると言い始めたので、引っ張るようにして二階に連れて行った。ああ、そういえば風呂とトイレの説明もしないといけないな。まあその辺は七海に任せるか。俺が下手に手を出したら七海に蹴り殺されそうだしな…。


 少し急な展開だったが、何はともあれ明日が楽しみだ。

 まだ見ぬギルカ族の村に思いを馳せながら、俺はその日眠りに付いた。


おまけ 彼Tシャツ?


「レン殿。風呂とは良いものだな」


「アイシャの村には無かったのか?」


「ああ。村では近くの川で水浴びするくらいだな」


「そうか」


「そ、それにしても…。この服はその…胸の辺りが若干きついのだが…」


「…」


「…れーんー?何見とれてるのかなー?」


(…は、般若だ!般若がいる!)


「蓮、ちょっとこっち来ようか」


「…はい」


「…?一体どうしたというのだ。レン殿とナナミ殿は」


続く…のか?

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