第五話
森の中を探索したり戦ったり強くなったりするお話。
修正・加筆の可能性大です。
そしてブックマークがいつの間にか14人になってました。感謝感激です。
※2015/7/14 キャラのステータスを少し変更
※2015/7/14 一部誤字を修正
「よっし、行くか!」
水蓮亭を出た俺は軽く背伸びをする。天気は晴天、絶好の探索日和だ。
「おはよー蓮」
一足遅れて七海も店から出てくる。緊張しているのか少し表情が硬い。
「おはよう七海。大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫だよ」
「まあ今日はそこまで奥に行く予定じゃないしさ。危ないと思ったらすぐに逃げよう」
「うん。わかった」
ちなみに今日は森の入り口から半径300メートルくらいを探索する予定だ。
森に入る前に俺達はリストを開き装備品の選択をする。
防具はレベル1でも装備出来そうな革製の防具を選んだ。武器は最後まで悩んだが、最初にビッグボアを仕留めた青銅製のナイフを選んだ。やはりファンタージならば剣と言いたいところだったのだが、普段から包丁を使い慣れてる俺は刃渡りが短い方が手に持ってしっくりときたのだ。
七海の方は俺と同じく皮製の防具を選び、武器は弓にするらしい。高校の体育の選択授業で弓道を何回かやった事があるらしく、基本的な弓の扱いは理解出来ているようだ。
そして装備を整えた俺達はついに森の中へ足を踏み入れた。
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森の中に入ると視界一面に獣道が広がる。サバイバルの経験なんて殆ど無い俺達は微かな葉擦れの音がするだけでも過敏に反応してしまう。
道に迷わないように大き目の木を見つけたらナイフでマーキングしておく。いくら短い距離と言えども、一度方向感覚を失ってしまえば直ぐにでも遭難してしまうだろう。
木にマーキングしながら歩いていると、とある木の麓にエノキダケの様な形をしたキノコが生えているのを見つけた。俺は試しにそのキノコに鑑定をかけてみる。
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名前:ブラウン マッシュルーム モドキ レアリティ:C
種類:キノコ(毒)
説明:ブラウン マッシュルームによく似た毒キノコ。食べると全身に痺れが出る。
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…いきなりかよ!これは鑑定が無かったら速攻で詰んでたな…。とりあえず今のは見なかった事にして先に進もう。七海の方を見てみると嬉しそうにそのキノコを採ろうとしていたので、毒キノコだと伝えると顔を真っ青にしていた。七海さん、採る前にちゃんと鑑定しようね…。
そのまましばらく歩いていると少し開けた場所に出た。すると目の前の草むらの陰からひょこっと白い何かが顔を出した。
「ねえねえ蓮見て!ウサギだよ!可愛いー!」
「…なあ七海。ウサギって角生えてたっけ」
よく見てみるとそのウサギは額から先端が鋭く尖った一本の角を生やし、愛嬌のある前歯の代わりに獰猛そうな牙を口から覗かせていた。まあほぼ確定なんだろうけど一応調べておくか。
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名前:ホーンラビット レベル:3
種類:魔物
説明:鋭利な角と牙を持つ獰猛なウサギ。集団で行動する事が多い。
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…ですよね。というか集団で行動する事が多いという事は…。
俺の嫌な予感は当たり、次の瞬間十匹程のホーンラビットが次々と草むらから姿を現した。
「七海!戦闘だ!俺が前衛を受け持つから七海は後方支援を頼む!」
「え!?わ、わかった!」
七海を後ろに下がらせ、俺は鞘からナイフを抜き身構える。するとホーンラビットの群れも戦闘態勢に入ったのか、鋭そうな牙を剥き出しにしながらじりじりと距離を縮めてきた。
俺とホーンラビットの距離が5メートル程に縮まった瞬間、群れの中から三匹のホーンラビットが飛び掛ってきた。思ったより素早いがこの程度なら全く問題無い。
戦闘に関する技術が無い俺は身体能力のみでホーンラビットの攻撃を避けていく。
そしてひらひらとホーンラビットの噛み付き攻撃を避けていると、痺れを切らしたのかその中の一匹が真正面から馬鹿正直に突っ込んできた。
「隙あり!」
俺はホーンラビットの攻撃をかわすとそのまま背後へ回り背中にナイフを突き立てる。すると残りの二匹が俺の背後から同時に襲ってきた。
「キュラァァァ!」
「シッ!」
俺は振り向き様にナイフを横に一閃。二匹のホーンラビットはほぼ同時に真っ二つとなりそのまま地面に落ちた。集団で襲ってくるのは少し厄介だが、単体の能力は大した事は無いな。
「七海!こいつら単体ならそんなに強くない!一匹ずつ減らしていくぞ!」
その後は落ち着いてホーンラビットの攻撃をかわしつつ、一匹ずつ確実に狩っていく。七海も後方から矢を放ち三匹程仕留めていた。
「ふう…。何とかなったな」
俺は骸となったホーンラビットをマジックボックスで回収していく。七海の方を見ると半泣きになりながら自分の倒した分を回収していた。
回収を終え、ホーンラビットのいた草むらの方を見てみるとそこには表面がぶつぶつとしたラズベリーのような赤い実が生っていた。ホーンラビットの好物なのだろうか。
俺はその赤い実に鑑定をかけてみる。
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名前:ラズベリアの実
種類:木の実
説明:食用の木の実。甘酸っぱい味が特徴。
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…そのまんまだな。俺はラズベリアの実を一つもぎ取って口に運んでみる。甘酸っぱい風味が口の中に広がり爽やかな清涼感を残しつつ喉元を通っていく。おお、美味いな。これならジャムとかソースに使えそうだ。
俺と七海はその場にあったラズベリアの実を回収する。よし、大量大量。
一通り回収し終えた俺達はそこから再び探索を再開する。すると少し進んだ先の崖の麓に一つの大きな穴を見つけた。どうやら洞窟の入り口の様だが、入り口の両サイドに身長1メートル程の緑色の肌をした生き物が武器を持って見張りをしていた。あれってもしかして…
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名前:ゴブリン レベル:2
種類:魔物
説明:亜人族。単体での戦闘能力は低いが性格は極めて凶暴。
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きたこれ!やっぱりファンタジーと言えばゴブリンだよな。となるとあの穴はゴブリンの巣って事か。二匹くらいなら問題無さそうだが中にどれだけの数がいるのかが問題だな。まあ初日でそこまで焦る必要も無いし、とりあえずここは一旦引こう。
木の陰から様子を伺っていた俺は横に七海に合図を出し、そのまま後ずさりしながらその場を離れようとする。だが…
パキッ
「ギギィッ!?」
…しまった。なんというお決まりの展開。まあどの道逃げてもいずれ向こうから水蓮亭を襲いに来るかもしれないしな。多少リスクはあるがここでやっておくか。
一匹のゴブリンが洞窟の中へと入っていく。恐らく仲間を呼びに行ったのだろう。俺は地面を蹴り、その場に残ったもう一匹のゴブリンとの距離を一気に縮める。
「シッ!」
「ギィ!?」
盾を身構えたゴブリンに、助走で勢いをつけたままローキック気味の蹴りを放つ。するとゴブリンは5メートル程吹き飛び岩場に鈍い音を立てながら激突した。
「ギ…ギィ…」
まだ息があるようだったので、ナイフでゴブリンの首を裂き命を刈り取る。
すると洞窟の中からザッザッと軍隊の行進の様な音が聞こえてきたので、俺は後方へ一度距離を取りナイフを身構える。
「七海はそこの岩の上から援護を頼む!近づかれたら迷わず蹴り倒せ!」
「わかった!」
臨戦態勢を整えた俺達の前に現れたのは凡そ三十匹程のゴブリンの群れだった。手には剣や槍など様々な武器を持っている。
(ちっ!思ったより数が多いな…。よし、あれを使ってみるか)
俺は予めリストの中から取り出しておいたそれをポーチの中から取り出し、ゴブリンの集団に向けて投げつける。
「七海!目を閉じろ!」
「う、うん!」
すると俺が投げたそれは地面に着弾すると同時に眩い光を放ちながら弾けた。
「ギギィッ!!?」
ゴブリンの集団は目の前に広がる強烈な光に目を潰され、パニック状態に陥っている。
俺が投げたのは閃光の魔石というアイテムだ。地球で言う所のスタングレネードだな。強い衝撃を与えると魔石が砕け散りそこから強烈な光を発生させる。モロにその光を浴びたゴブリンたちは一時的な失明状態になっているようだ。
「今だ七海!ひたすら矢を打ちまくれ!」
「オッケー!」
右サイドのゴブリンを七海に任せ、俺は左サイドからゴブリンの集団に切り込んでいく。知能が低いのか、一度パニック状態に陥ったゴブリン達はまるで統制が取れていなかった。俺は一匹ずつ確実にゴブリンを仕留めていく。
徐々に視界を取り戻していったゴブリンが武器を振り回してくるが、数を減らしたゴブリンは既に俺達の相手ではなかった。何匹かは矢を掻い潜り七海に近づいて行ったが、七海の喧嘩キックの様な前蹴りでその命を儚く散らしていった。
「これで最後だ!」
「ギィッ…!」
俺は最後の一匹にナイフを突き立てる。辺りを見回してみると累々たるゴブリンの屍の山が築かれていた。強烈な血の匂いに俺は吐き気を覚える。七海も何とか耐えてるみたいだったが顔面は蒼白だ。
さすがにゴブリンは食べる気にはならなかったが、町に行けば素材として買い取ってくれるかもしれないし、これも一応全部回収しておこう。
だがゴブリンを回収していると、穴の奥から地響きの様な大きな音が徐々にこちらに近づいて来るのがわかった。これはもしかして所謂ボス戦ってやつかな…。
回収を途中で止めた俺と七海は地響きの様な足音がする方向へ武器を身構える。すると穴の中から体長3メートル程はあろうかという、巨大な大斧を持ったゴブリンが姿を現した。俺は恐る恐るそのゴブリンに鑑定をかけてみる。
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名前:ゴブリンジェネラル レベル:20
種類:魔物
説明:亜人族。ゴブリンの将。一般のゴブリンとは比べ物にならない程の高い戦闘能力を持つ。
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そうっすか将軍様っすか…。
「グガァァァァ!!」
「…ッ!」
耳を劈くような咆哮を上げたゴブリンジェネラルは次の瞬間、その巨体からは想像も出来ないようなスピードで俺達の方へ突っ込んできた。
「七海!散開するぞ!」
「ふぁ!?ふぁい!」
ゴブリンジェネラルが上段から斧を地面に振り下ろす寸前に俺と七海はその場から離脱する。するとドォン!という音と共に、地面に直径1メートル程のクレーターが出来ていた。あれを喰らったらさすがにタダでは済まなさそうだ。
俺は細かくステップを踏みながらジグザグにゴブリンジェネラルとの距離を縮める。狙うは足。だがゴブリンジェネラルの太ももにナイフの刃を滑らせてみると、キィンという音と共にナイフが弾かれてしまった。
「硬っ!マジかよ!」
どうやら生半可な武器と技術ではコイツの体には傷一つ付けられないらしい。そう思い俺は一旦距離を取り体勢を立て直す。
その後はひたすらゴブリンジェネラルの攻撃を避け続ける。途中何度か後方から七海の援護射撃が飛ぶが、悉く大斧に叩き落とされる。明らかに形勢はこちらが不利だ。さてどうするか…。
俺はポーチから閃光の魔石を取り出し、七海に合図を出す。そして七海の放った矢にゴブリンジェネラルの意識が向いた瞬間を狙い魔石を投げつけた。
「グガァァァ!?」
そして俺はゴブリンジェネラルが一時的な失明状態に陥っている隙にリストを開く。何か使えそうなアイテムは無いか…お、これは?
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名前:必中の矢 レアリティ:R
種類:矢
説明:弓矢による攻撃の命中率を飛躍的に上げる。
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…よし、これならいけるかもしれない!
「七海。俺が合図を出したらこれを使ってアイツの目を狙ってくれ」
「え!?わ、私にそんな事出来るかな…」
「大丈夫だ。きっと七海なら出来る。というかもうこれしか方法が無い」
「…わかった、やってみる!」
七海に必中の矢を託し、俺は再度ゴブリンジェネラルとの距離を縮めていく。
「グガァァァァァ!!」
徐々に視界を取り戻していったゴブリンジェネラルは明らかに激昂している。これなら多少は七海に対する警戒力は落ちるだろう。その分俺が頑張らないといけなさそうだけど…。
ゴブリンジェネラルの猛攻を凌ぎながらその隙を探る。そしてゴブリンジェネラルが上段から振り下ろしてきた斧を俺はナイフで受け止める。…物凄い力だ。鍔迫り合いを続けているとピキッという音と共にナイフにヒビが入る。するとゴブリンジェネラルがそれを好機と捉えたのか、更に力を強めてくる。
「い…今だ七海!」
俺が合図を出すと後方からヒュンという音と共に七海の放った矢がゴブリンジェネラルの顔面目掛けて飛んできた。そして…
「グ…グガァァァァ!!」
矢は見事にゴブリンジェネラルの右目を捉えた。そしてゴブリンジェネラルが怯んだ隙を見逃さず俺はその場に屈み、足払いでゴブリンジェネラルの体勢を崩す。
「グガァ!?」
体勢を崩したゴブリンジェネラルはそのまま後ろに仰向けになって倒れ、右目を潰された痛みで翻筋斗打っている。俺はすかさずゴブリンジェネラルの胸元辺りにマウントポジションを取り、矢に手をかけ眼球ごと引き抜く。
「グガァァァァァァ!!」
ゴブリンジェネラルの必死の抵抗に振り落とされそうになるが、俺はそれに耐えながら右目の眼窩部に手を突っ込み一つの魔法を発動させる。
「発火!」
俺が使ったのは生活魔法の発火だ。ただの生活魔法なので飛ばしたりは出来ないが、それならばこうして直接体の内側で火を発生させてしまえばいい。
いくら表面が硬いコイツだって、内側から焼かれてしまえばタダでは済まないはずだ。
「グ…グ…ガ…」
暫くすると肉の焼け焦げる臭いが立ち登り、ゴブリンジェネラルの耳や口から黒い煙が出てきた。うわ、これ結構グロいな…。
しばらく発火の魔法を出し続けていると徐々にゴブリンジェネラルは抵抗する力を失い、遂にはその活動を停止させた。
「か、勝った…のか?」
恐る恐るゴブリンジェネラルの頬を突いてみるが、ピクリとも動かない。どうやら完全に絶命したみたいだ。
「蓮!大丈夫!?」
「ああ、何とかなったみたいだ。七海もナイスシュート」
「あ、あれは矢のお陰だし…私は別に何も…」
七海が俺に褒められてモジモジしてる。何だか小動物みたいで可愛いな。
そういえばゴブリンジェネラルを倒したあと、体に力が漲ってきた感覚があった。
俺はステータスボードを開いてみる。するとレベルが一気に10まで上がっていた。七海のステータスも見てみたがこちらもレベル8に上がっている。初日でこれなら中々順調な滑り出しじゃないだろうか。
死体の回収を終え、俺達はその日の探索を切り上げ水蓮亭に戻る事にした。
初日の探索は思いの外上手く行ったな。この調子で探索範囲を広げつつ徐々に戦闘経験を詰んでいこう。
そしてその後俺達は、森の中で着実に力を付けていく事となる。
****
「シッ!」
「グルァ!?」
俺は目の前の狼の首を一撃で切り裂く。
(後ろからもう二匹か…)
「グルァァ!!」
(…ここは七海に任せるか)
「ギャンッ!」
次の瞬間二本の矢が同時に狼達の命を刈り取る。
「危なかったね蓮」
「あえて七海に任せたんだよ。ブラックウルフなんかに遅れは取らないさ」
「それもそうね」
森に入り始めてから約三ヶ月。現在は森の入り口から半径約5km程が探索範囲となっている。俺と七海はあれから着実に戦闘経験を詰んでいった。もはやこの辺りで敵になるような魔物は存在しないだろう。
そして今の俺達のステータスがこれだ。
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レン イチノセ 18歳 男 レベル:31
職業:シェフ 魔法適正:全属性
HP:1524(+300)
MP:1280(+300)
筋力:617(+100)
体力:621(+100)
器用:655(+100)
敏捷:671(+100)
魔力:556(+100)
耐性:520(+100)
スキル
・料理LV6・短剣術LV5・体術LV5・錬金術LV3・練成術LV3
サブスキル
・鑑定LV10・隠蔽LV10・生活魔法LV10・気配察知LV6・隠密LV6・サバイバルLV5
ユニークスキル
・マジックボックス・異世界言語・成長速度上昇・成長率増加・MP使用効率上昇・MP回復速度上昇・無詠唱・調味料練成
加護
・食神の加護・戦神の加護・魔法神の加護
装備
ミスリルナイフ
ミスリルチェスト
ミスリルガントレット
ミスリル銀糸のブーツ
ミスリル銀糸の外套
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ナナミ スズハラ 18歳 女 レベル:30
職業:アーチャー 魔法適正:全属性
HP:1498(+300)
MP:1210(+300)
筋力:601(+100)
体力:593(+100)
器用:674(+100)
敏捷:658(+100)
魔力:531(+100)
耐性:560(+100)
スキル
・料理LV3・弓術LV5・体術LV4
サブスキル
・鑑定LV10・隠蔽LV10・生活魔法LV10・気配察知LV6・隠密LV6・サバイバルLV5
ユニークスキル
・マジックボックス・異世界言語・成長速度上昇・成長率増加・MP使用効率上昇・MP回復速度上昇・無詠唱・調味料練成
加護
・食神の加護・戦神の加護・魔法神の加護
装備
エルダートレントボウ
ミスリルチェスト
ミスリルガントレット
ミスリル銀糸のブーツ
ミスリル銀糸の外套
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俺はナイフを逆手に持ち変え、ひたすら近接格闘術を磨いた。完全に我流だが、例えるなら海外の軍隊や警察が用いるCQCという近接格闘術に近いと思う。ス○ークさんも使ってたよね確か。
七海は弓での攻撃を主体にした中・遠距離タイプだが、近距離での戦闘では主に蹴りを使う形を取っている。弓を持ったまま敵に近付かれるとどうしても拳打が使えないので、自然とこの形になったみたいだ。最初は喧嘩キックの様な前蹴りしか出来なかったが、今では足払いや回し蹴りなど、多彩な蹴り技をマスターしている。
ちなみにレベルが20になった所でマジックボックスの新たな機能が解禁された。「お気に入り」という機能だ。このお気に入りに任意のアイテムを登録すると、一々リストを開かなくても登録したアイテムをイメージする事で瞬時に展開する事が可能となった。七海はこの機能を利用し右手に矢を瞬時に展開させる事で、矢筒から矢を一本ずつ取り出すという作業を省いた。その結果、今の七海はほぼディレイ(間隔)無しで矢を放つ事が出来る。
ちなみに俺と七海も武器と防具は全てお気に入りに登録済みだ。一瞬で装備の着脱が出来るのでとても便利なのだ。
森で野営をする内に生活魔法の扱いもほぼ完璧にマスターした。発火で薪に火は起せるし、水球で飲料水も確保出来る。更には浄化で体と衣服の汚れを落とす事も出来るので、もはやサバイバルでは必要不可欠だ。
生活魔法を使っている内に自然と魔力の扱いも身に付いたので、マジックカンテラやマジックコンロの充電もバッチリだ。
ちなみに属性魔法にはまだ手を出していない。いきなり幅広く手を付けても中途半端になってしまうと考えたからだ。いずれ魔法の心得がある人と知り合ったら基礎から教えてもらうのも良いかもしれないな。
ブラックウルフの死体を回収し終えた俺は浄化で手を洗浄し、マジックボックスからおにぎりを二つ取り出し一つを七海に渡す。
「ほら、昼飯」
「ん、ありがと」
もにゅもにゅと七海が美味しそうにおにぎりを頬張る。
あれから食事は一日交代で作る事にした。七海もメキメキと料理の腕を上げて行ったが、やはり森で採れる食材だけでは作れる物が限られてくる。一度森の探索を切り上げて、大きな街に買い出しに行くのもいいかもしれないな。
「ふう、ごちそう様」
「お粗末様」
「そういえば蓮、気付いてる?」
「ああ、前方100メートル。この気配と足音は恐らくリザードマンだな」
「数は三十匹って所ね。やっとく?」
「そうだな。食後の腹ごなしといくか」
俺と七海は武器を手に取り、気配察知と隠密を駆使しながらリザードマンの群れに近付いていく。
さあ今日も蹂躙ショーの始まりだ。
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リザードマンの群れを壊滅させた俺達はその日の探索を切り上げ帰路に就く。
森を抜ける頃には美しい夕日が湖を赤く染めていた。だが森を抜けた俺達はその光景にとある違和感を覚える。
「ねえ蓮。水蓮亭の前に誰かいるよ」
「お、本当だ」
ついに第一村人ならぬ第一異世界人発見か。
俺と七海は水蓮亭に近付き、店の前で佇む人影に声を掛けた。
「こんばんは。そこは俺達の住処なんですけど、何か用ですか?」
「…」
そしてその人影がゆっくりとこちらを振り返る。
身長は180センチ程だろうか。褐色の肌に真紅色の少しウェーブがかった髪を肩の辺りで揃え、その身体はとても良く引き締まっている。羽や牙などをあしらった民族衣装風の身なりで手には長槍を持っているので、もしかしたらこの近くの部族か何かの人かもしれない。
顔の造りも七海に負けず劣らずの美女だ。この人の方が少し大人っぽいかな。それにしても凄いスタイルだな。雑誌とかテレビでしか見た事ないけど、パ○コレに出てるモデルさんみたいだ。
そんな事を思いながらその美女を観察していると、俺の左腕に激痛が走った。横を見てみると七海が焼いた餅みたいに顔を膨らませながら俺の腕を抓っている。七海さん、マジで痛いです…。
「…ふっ!」
次の瞬間、目の前の美女が手に携えていた槍で俺に向けて鋭い突きを放ってきた。俺はバックステップでそれをかわし咄嗟に鞘からナイフを抜き払う。七海の方を見てみると既に矢を右手に展開し弓の弦を引き絞っている。
「…ほう。たかが野盗風情が私の突きを避けるか」
「や、野盗?」
「とぼけるな!村の者からこの辺りで野盗を見たとの知らせを受けている!」
「い、いやいやちょっと待て!俺達野盗なんかじゃ…」
「全身から血の匂いをさせておいて何を言う!どう考えたって野盗だろう!大人しく観念しろ!」
…だ、駄目だ話にならない。これが俗に言う脳筋タイプってやつか…。そういえばリザードマンを倒した後に浄化かけるの忘れてたな。
俺は目の前の少し残念な美女に鑑定をかけてみる。
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アイシャ 20歳 女 レベル:18
職業:ランサー 魔法適正:火・無
HP:573
MP:184
筋力:181
体力:172
器用:142
敏捷:148
魔力:105
耐性:121
スキル
・槍術LV3・体術LV2・無属性魔法LV2
サブスキル
生活魔法LV4・気配察知LV3・隠密LV3・サバイバルLV3
ユニークスキル
・なし
加護
・なし
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初日の俺達より少し強いくらいか。これなら俺一人でも何とかなるか。
「七海は下がってろ。俺がやる」
「…わかったよ。でもどさくさに紛れてあの人の胸とか触ったら後でお仕置きだからね?」
七海は笑顔でそう言うが明らかに目が笑ってない。どうしよう、あっちで槍構えてる人より余程怖いんですけど。
俺は七海を後ろに下がらせ、ナイフを逆手に持ち臨戦態勢を取る。
「なんだ、お前一人でやるつもりか?随分と余裕だな」
「悪いがその通りだ。少し大人しくなってもらうぞ」
「…ッ!舐めるな!その軽口後悔させてやる!」
そしてその褐色の美女は槍を中段に構えこちらを見据えると高らかな声で名乗りを上げた。
「我はギルカ族一の槍アイシャ!いざ尋常に勝負!」
これが俺達とアイシャの初めての出会いであった。
新ヒロイン、アイシャさんの登場です。
ヒロインは全部で何人にしようかな。
脳内でのプロットはある程度出来てるけど、既に書置きが無いのです。
うん、頑張ろう…。