第四話
異世界での生活基盤を整えたりするお話。
修正・加筆の可能性大です。
初戦闘を終えた俺と七海は水蓮亭の中へと入り一息ついていた。
召喚の影響で水蓮亭の中がとんでもない事になってないか少し心配だったが、特に荒れている様子も無かったので一安心だ。
ちなみに先程倒した猪はマジックボックスの中に回収済みだ。猪の死体を鑑定してみると「ビッグボアの死体」と出てきたので、どうやらあの猪の名前はビッグボアという魔物らしい。
「それにしてもこんなに早く魔物と遭遇するとは思わなかったよ」
「森の近くだから魔物も多いのかもしれないな。これからは気をつけよう」
「そうね。でも神様がくれた力って凄いのね。ちょっと驚いちゃった」
「俺も生き物が地面と平行に飛ぶのなんて始めて見たよ。万有引力完全に無視だもんな」
「やだ私、何か怪力女になったみたいじゃない。でもこれでもし蓮が何か悪さをしをたらきつーいお仕置きが出来るわね」
七海が舌を出して冗談っぽくそう言ったが俺はその言葉を聞いてリアルに身の危険を感じた。うん、今後は七海に下手な事を言うのは止めよう。マジで死ぬ。
「とりあえず私お茶入れてくるね」
「すまないな、頼む」
七海がパタパタと音を立てながら厨房に向かう。
とりあえずお茶でも飲みながら二人で今後の事を考えよう。しばらくは森の中で食材を集めながら戦闘経験を積むのもいいかもしれないな。幸い鑑定のスキルもあるし、森での食材の選別には困らないだろう。店にもまだ食材は残ってるしな。
俺が今後の展望を考えていると、キッチンの方から七海の声がした。
「蓮大変!水が出ないよ!」
「…あ」
完全に失念していた。ここは異世界だ。地球でのライフラインが供給されているはずも無い。
10秒程の思考停止から回復した俺だったが、召喚や初戦闘での疲労もあったせいか良い考えが思い浮かばない。外を見てみるとまだ完全に陽は落ちきっていなかったが、今日は早めに寝る事にして諸々の対策はまた明日にでも考える事にしよう。
ちなみに水蓮亭は一階が店舗、二階が住居スペースになっている。七海には昔母親が使っていた部屋を使ってもらう事にした。
俺と一緒の部屋でもいいみたいな事を言っていた気がしないでもないが、それは特に気にしないでおこう。
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カーテンの隙間から差し込む眩しい陽の光で俺は目を覚ました。
窓を開けて外を見てみると木々に囲まれた綺麗な湖の姿が目に飛び込んでくる。
陽の高さから見てまだ昼前といった所だろうか。目覚まし時計を見てみると時計の針は10時過ぎを指している。まだ確証は無いが、恐らく一日の長さは地球とほぼ変わらないのであろう。
温度計を見てみると気温は20度くらいだった。今いる場所がこの世界のどの辺りに位置しているかはわからないが、日本人の俺としてはこれくらいの気候は丁度良く感じる。
下に降りてみると七海がテーブル席でリストを見ながらうんうんと唸っていた。
「よう七海、早かったんだな。って何してるんだ?」
「あ、おはよう蓮!ほら、電気とか水道が使えないじゃない?マジックボックスの中に何か使えそうなアイテムがないかなって思ってさ」
「なるほどな。じゃあ俺も一緒に探してみるか」
俺は七海の対面に腰を下ろしリストを開く。二人して無言でリストをスクロールしている姿は、何だかマンネリカップルの喫茶店での一齣みたいでシュールだ。
暫くリストを検索してみると、使えそうなアイテムがいくつか見つかった。
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マジックカンテラ レアリティ:UC
種類:照明器具
説明:魔力を動力源とする照明器具。
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リストの中に百個程数があったので、その内の十個を取り出してみる。明るさは弱・中・強と調整が可能だ。照明に関してはこれを色んな場所に置いておけば大丈夫かな。ちなみに魔力の残量は側面にメーターがあったのでそこで確認出来る。今はフルで充電されている状態だ。補足説明を見てみるとMP10程度でフルに充電出来るみたいだ。強で付けっ放しにしても一ヶ月は持つらしい。何という低燃費。でも充電の事を考えると一ヶ月以内に魔力の操作はマスターしないといけないな。一先ずこれで明かりは確保だ。
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マジックコンロ:R
種類:調理器具
説明:魔力を動力源とする調理器具。
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見た目はほぼ地球のコンロと同じだ。だが地球のそれと大きく異なるのは中心に小さな発炎の魔石がセットされているという事だ。これもマジックカンテラと同様で弱火・中火・強火と調整が可能だ。魔力の残量と充電に関しても同じかな。これも強火で付けっ放しにしても一ヶ月持つらしい。これも二台取り出しておこう。
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冷却の魔石:R
種類:魔石
説明:強力な冷気を放つ魔石。
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これは冷蔵庫に使えそうだな。大きさによって放つ冷気の強さが違うみたいなので、小さめの魔石は冷蔵室、大き目の魔石は冷凍室に置いておこう。
室内の設備に関してはとりあえずこれで何とかなりそうだ。
だが一番の問題は水だ。湖の水を利用する事も考えたが、飲用水として利用できるか疑問だったので一先ず却下だ。何より一々水を汲みに行くのはあまり効率的ではない。
ぐるぐると思考を巡らせていると、ふとスキルの中に生活魔法というものがあった事を思い出す。
そこで生活魔法に鑑定をかけてみると、「発火」・「水球」・「浄化」の三つの魔法が使える事がわかった。
俺はその中の水球の魔法に目をつけた。
「七海。ちょっと試したい事があるから外に出よう」
「うん?わかった」
俺は七海と一緒に外に出ると、店から少し離れた場所で意識を集中し「水球」と念じてみた。
すると体の中から何かを吸い取られるような感覚を覚えるが、次の瞬間目の前に直径1メートル程の巨大な水の球がふよふよと浮いていた。おお、本当に出来たよ。
「何これ!凄い!」
いきなり出現した巨大な水球を目の当たりにして七海も驚いている。
俺はその水球に向けて鑑定をかけてみると、どうやら不純物の一切無い綺麗な浄水だという事がわかった。これなら飲料水として使えるし、トイレに利用する事も出来そうだな。
ちなみにレベルが高いほど緻密なコントロールが出来るようになり、LV10ともなると温水や熱湯まで作れるみたいだ。感覚を覚えるのに少し練習が必要そうだが、マスターすれば暖かい風呂にも入れそうだ。
MPの消費量が気になったのでステータスボードを見てみると、MPが1だけ減っていた。やはり先程感じた脱力感は魔力を消費したという意味か。でもこれだけ大きな水球を作ってMPの消費が1って凄いな。MP使用効率上昇のお陰かな。
目の前の水球に意識を集中し徐々に地面に下ろしていく。すると地面に触れた瞬間バシャっと音を立てて水球が弾け、地面に水溜りを作った。
その後しばらく七海と二人で練習をしたら、水球の大きさと温度はある程度調整が出来るようになった。
よし、これで異世界でのライフラインは確保したぞ。
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気付けば太陽も中天の位置にあったので、俺達は店の中に戻り昼食の準備をする事にした。
店の食材は昨日寝る前に全てマジックボックスの中に入れておいた。
冷却の魔石は既に冷蔵庫にセット済みなので、使用頻度が高そうな物は冷蔵庫の中に戻しておく。倉庫の中にも米が100キロ程残っていたが、こちらは冷凍保存が出来ないのでマジックボックスの中で保管しておこう。
そして俺は仕事用のサロンを腰に撒き昼食作りに入る。昨日倒したビッグボアの肉を調理してみたかったのだが、解体もまだ出来てないので一先ず置いておこう。
俺は冷蔵庫から卵を四つ取り出しそれをボウルに割る。砂糖とみりんを少々、そして出汁と醤油を1:1の割合で少量入れる。専用のフライパンに中火で熱を入れ油を引き、その中に丁寧にかき混ぜた卵を三分の一ほど落とす。ジュワーという良い音と共に、出汁の香りが鼻腔を擽る。
表面が半熟になった所で腕を上手く使いながら卵をひっくり返していく。そして空いたスペースに残りの卵を落とし、これを全部で三回繰り返す。卵はふわふわな食感が命なので、焦げ目を作る前に手際良く巻いていくのがポイントだ。
全ての工程を終えるとフライパンの上には黄金色に輝く出汁巻き卵が出来上がっていた。うむ、我ながら上出来だ。
次にマジックボックスの中から炊飯器と昨日の残りの味噌汁が入った鍋を取り出す。
炊飯器を開けてみると温かい蒸気が目の前に立ち込めた。マジックボックスの中は時間が止まっているので、取り出したご飯もちゃんと温かいままだった。凄いよマジックボックス。
おにぎりを四つ程握り、味噌汁に弱火で火を入れ直したら完成だ。昼食というより朝食っぽいけどまあそこは気にしないでおくか。
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「はぁぁ、幸せー」
七海が出汁巻き卵を頬張りながら満面の笑みを浮かべている。
「まさか異世界で出汁巻き卵が食べれるとは思わなかったよー」
「そうだな。でも食材のストックにも限りがあるし、いずれはこっちの食材についても色々勉強して調達していかないとな」
「うんうん。でも異世界の食材って何だかワクワクするね!」
「それでちょっと提案なんだけど、明日から少しずつ森の中に入ってみないか?」
「も、森かぁ…。でも森の中って昨日みたいな魔物がたくさんいるんでしょ?」
「多分いるだろうな。でも最初の内は奥の方まで行くつもりはないよ。それにこの世界で生活する以上、ある程度は戦い方を学んだほうがいいと思うんだ」
「そ、そうだよね…」
七海が不安そうな声を出す。
確かに地球で普通の生活をしていた女の子がいきなり戦い方を学ぼうなんて言われても、はいそうですねとはならないよな。
「もちろん無理にとは言わないよ。七海が嫌なら無理強いはさせたくないしさ。それならせめて俺だけでも最低限、自分と七海を守れるように強くなるつもりだよ」
それにせっかくの異世界なんだし、やっぱり男としては強くなっていろんな所に冒険に行ってみたいって思うしな。まあこれは個人的な感情なので七海には伝えず心の中に留めておこう。
「れ、蓮が頑張るなら私も頑張る!」
「ど、どうした急に」
「蓮が私の為に頑張ってくれるのは嬉しいけど…でも私は蓮の足手纏いにはなりたくないの」
「…そうか。でも本当にいいのか?」
「本当はちょっと不安だけど…でも蓮と一緒ならきっと頑張れるよ」
「…わかった。じゃあ一緒に頑張ろう。でも絶対に無理だけはするなよ」
「うん!」
そう言うと七海は勢い良くおにぎりにかぶりついた。頬に米粒が付いていたので取ってやったら顔を茹蛸みたいに真っ赤にしていた。
こうして俺達は明日から森の中に入る事を決めた。ビッグボア程度の敵だったら何とかなるだろう。もちろんドラゴンなんて出てきたら七海を抱えて全力で逃げるけどな。
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食事を終え、洗い物をしようとした所で新たな問題に直面する。生活排水をどうするかだ。
うちは料理屋なのでただでさえ洗い物の量が多い。今は二人だからまだいいが、今後店を開く事を考えたら避けて通れない問題だ。外に垂れ流しにしてしまったら、たちまち異臭騒ぎが起きるだろう。
そこで俺はリストを開き何か使えそうな物がないかチェックする。するとアイテムの中から興味深い書籍が見つかった。
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異世界人でもわかる錬金術 レアリティ:SR
種類:魔導書籍
説明:錬金術の初歩から応用まで記されている教本
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異世界人でもわかる練成術 レアリティ:SR
種類:魔導書籍
説明:練成術の初歩から応用まで記されている教本
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…完全に俺達向けの書籍だな。というか名前に異世界人って入ってるし。
それともう一つ役に立ちそうな物がこれだ。
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浄化の魔石 レアリティ:R
種類:魔石
説明:物質の不純物を取り除く事が出来る魔石
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これらのアイテムを眺めながら俺は一つの案を思いつく。
錬金術で鉄を作り、練成術で鉄をパイプの形に練成。練成した鉄パイプを家の排水溝と繋げ湖まで伸ばす。そして練成したパイプの中に浄化の魔石をセットして生活排水を浄水に濾過し湖に排水する。これで上手くいけば湖を汚すこと無く生活排水の処理が可能になる筈だ。ちなみに魔石は砕けたりしない限り効果が持続するのでそこは問題無いと思う。
もしこれが成功したら、いずれは貯水槽を作って蛇口から水を使えるようにするのもいいかもしれないな。
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一通り教本を読み終えた俺は早速錬金術を試してみる。
大切なのは作りたい物質のイメージと書いてあったが、そもそも俺の中で鉄というのは金属で堅い物というイメージしかない。
そこで俺はキッチンから鉄鍋を持ってきて、鉄鍋に触れながら鉄のイメージを頭の中で深めていく。そして錬金と頭の中で念じた瞬間、ドゴン!という音と共に巨大な鉄の塊が目の前に現れた。よし、成功だ。というか何かもう錬金術だけで一財産築けそうだな。
邪な雑念を振り払い、俺は次に鉄パイプの練成に入る。鉄パイプの形は頭の中ですんなりとイメージ出来たので、そのイメージを持ったまま鉄の塊に触れて練成と念じる。すると巨大な鉄の塊が長さ10メートル程の鉄パイプに変化した。凄いよ、もう何でもありだよ異世界。
そして俺は倉庫から持ってきたスコップで家の前の地面を掘る。
「確かマンホールがこの辺にあったから…お、あったあった」
数メートル掘った所で配水管の先端が見つかった。俺は練成した鉄パイプを更に練成で微調整しながら家の配水管と繋げ湖まで伸ばす。よし、上手くいったぞ。能力の底上げのせいか、10メートルの鉄パイプを難なく持ち上げられた時は少し焦ったけどな。
そして鉄パイプ内側に練成で窪みを作りそこに浄化の魔石をはめ込む。水で流れてしまわないように魔石の周りを鉄で固定したら完成だ。
「七海ー!出来たぞー!試しに洗い物をしてみてくれ!」
「オッケー!」
水蓮亭の中から七海の返事が聞こえる。そしてしばらくすると鉄パイプの先端からチョロチョロと水が流れ出てきた。俺はその水をコップですくって鑑定をかけてみる。
結果は大成功だった。鉄パイプから流れ出てくる水は間違いなく浄水だ。やばい、俺天才かもしれない。
これでこの場所での生活基盤は全て整った。
気付けばもう夕暮れ時だったので俺は水蓮亭の中に戻った。中で待っていた七海に成功だと伝えると七海もとても嬉しそうにしてくれた。頑張った甲斐があったな。
だが慣れない作業をしたせいか妙に体が重い。錬金術と練成術で大量にMPを使ったせいかもしれないな。
七海には悪いが夕食はあり合わせの物で済ませて、今日は早めに休む事にしよう。
明日からは森の探索だ。よし、頑張るぞ。
次回は戦闘回です。多分。
ちなみにレアリティですが
C UC R SR SSR
です。
能力がインフレしてきたら後々もっと増やすかもです。




