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第二十四話

マーゼルの露店にてトラブル発生。そして新たな修行も開始。そんな話。

修正・加筆の可能性大です。


そして気付けばブクマが200人目前に…!

執筆を始めた頃はまさかこんな事になるとは夢にも思わず。

これからも頑張ります。


 水蓮亭の開店から一週間。

 開店初日以降は順調に客足も伸び、先日の営業では遂に一日の来客数が二百人を越えた。

 客単価が少ない分利益はそこまで出ていないが、この調子なら商業ギルドに二割の上納金を支払っても十分やっていけるだろう。それに、金に関しては冒険者として稼いだ分もある。


 そして俺は今日も早朝から西地区にあるマーゼルの店へと訪れていた。


「やあ、マーゼルおはよう」


「あ、おはようございますレンさん。今日もいいお野菜が入ってますよ」


 マーゼルが亜麻色の髪を揺らしながら、露店に並べられていたトマティを一つ手に取り俺に手渡してきた。

 瑞々しく張りのある表面に実の詰まったそのトマティは、手に持っただけでもとても良い出来だという事がわかる。


「お店順調みたいですね」


「ああ、お陰様でね。まあ使ってる食材が良いっていうのもあるかな」


「そう言ってもらえると嬉しいです。でも言ってくれれば直接レンさんのお店に届けるのに」


「マーゼルも出店の準備なんかで忙しいだろう?そこまで手間はかけさせられないよ」


「ふふ、レンさんは優しいんですね。そうやって色んな女の子を惚れさせてるんですか?」


 マーゼルはそう言うと少しだけ意地の悪そうな笑顔を俺に向けてきた。

 不意にそんな笑顔を向けられた俺はついドキッとしてしまい、その笑顔に釣られてとても不恰好な笑みをマーゼルに返してしまった。


「そ、そういえば前から聞こうと思っていたんだが、マーゼルの店の品物はどこから仕入れてるんだ?」


「うちは東地区の端っこで小さな農園をやっているんです。父も母ももう亡くなってしまったので、今は一人切り盛りしてますけど。あ、香辛料はたまに来る行商の人から仕入れてますね」


「じゃあマーゼルは一人で農作業もしながらこうして店も出しているという事か?」


「そうですよ。ほら」


 そう言うとマーゼルは俺に両手の平を見せてきた。

 するとそこには農作業で出来たと思われる豆やタコが無数に出来ていた。


「これは凄い…」


「綺麗な手とはとても言えたものではないでしょう?」


 マーゼルは今度は少し自嘲を込めた笑みを俺に向けてきた。

 それにしても一人で農園を切り盛りしながら店も出してるなんて凄いな。

 俺と歳もそう変わらないはずなのに。


「…いや、とても綺麗だと思うよ。これはとても頑張っている人の手だ」


「…レンさんは本当に優しいんですね。そんな事言ってくれる人いなかったからちょっと嬉しいです」


「いや、別に軽い気持ちで言ったつもりはないんだが…。何だかすまない」


「何で謝るんですか?ふふ、変なレンさん」


「ああ、確かにそうだな」


 俺達は目を合わせるとお互いに吹きだすようにして笑い合った。

 何気ない朝の穏やかな時間。

 だがそんな穏やかな時間を邪魔するかのように、後方から良くない気配を持った人間がこちらに近付いてくるのがわかった。


「よう、マーゼル。朝っぱらから何いちゃついてやがるんだ?」

 

「…ッ!」


 突如として現れた大男は後ろに数人の部下を引き連れ、マーゼルに対して高圧的な態度でそう言い放った。

 どいつもこいつも身なりからして明らかに一般の人間ではない。

 どこのゴロツキどもだこいつらは。


「まあいい。それでマーゼル、例の件の返事を聞かせてもらおうか」


「…申し訳ありませんがお断りします」


「…ほう。お前はあの人の誘いを断るっていうのか」


 大男はそう言うとおもむろに露店に近付き、並べられていたトマティを一つ手に取って、有ろう事かそのトマティを握りつぶした。


「…ッ!な、何するんですか!」


「おっとすまない。思ったより柔らかかったもんでな。それにしてもこんなに簡単に潰れるなんて、腐ってやがるんじゃねぇのか?なあ、お前ら!」


「ああ、違いねえ!ぎゃはは!」


 後ろにいた連中もその大男に釣られるようにして品の無い笑い声を上げた。

 そしてマーゼルの方に目を向けてみると、地面に投げ捨てられたトマティを見つめながら目に涙を溜めていた。


「酷い…。何でこんな事を…」 


「お前が素直に言う事を聞けば俺達だってこんな手荒な真似はしない。さあ、もう一度答えを聞こうか」


「わ、私は…」


「…チッ!いいからさっさとはいって言えよ!俺が手伝ってやろうか!」


 痺れを切らした大男は声を荒げ、マーゼルに掴み掛かろうとした。

 一部始終を見ていた俺は、この連中がマーゼルに害をなす者だと確信し、大男の腕を掴み制止させた。


「…ああ?何だテメェは。ただの客じゃねぇのか?」


「ああ、客で間違いない。それとマーゼルの友人でもある」


「ほう、マーゼルの友人ねぇ。だがこれはお前には関係の無い話だ。痛い目を見たくなかったらこの手を離しやがれ」


「そういう訳にはいかない。友人が泣いている」


「…はッ!格好付けやがってこの野郎!」


「レ、レンさん!!」


 大男は俺をギロリと睨み付けたかと思うと、次の瞬間もう片方の腕を大きく振りかぶって俺に殴打を放ってきた。

 だが俺は避ける事無く、その殴打を片手で軽々と受け止めた。


「な、何ィ!?」


「おいお前、マーゼルに謝れ」


「な、何で謝らなくちゃいけね…イデデデデ!!」


 俺が大男の手を軽く握ると、大男は苦悶の表情を浮かべ俺から手を引き離そうとした。

 だが俺は力を緩める事なく大男の拳をギリギリと締め上げていく。

 大男は痛みに耐え切れなくなったのか、片膝を付き俺の束縛から何とか逃れようともがき始めた。


「いいから謝れ。このまま手の骨を粉々にされたくなかったらな」


「…ぐ、ぐああッ!テ、テメェ一体何者だ!は、離しやがれ!」


「この野郎!離せって言ってんだ!」


 俺が大男を片手で制止していると、後ろで見ていた部下達が俺に殴る蹴る等の暴行を加えてきた。

 だが今の俺は一般人と大して変わらないゴロツキ程度の攻撃ではダメージを受ける事は一切無い。


「な、何だコイツ!全く効いてねぇぞ!」


「おい、さすがにこれ以上はマズい!衛兵が来るぞ!」


 騒ぎが大きくなり、衛兵が来る事を恐れたゴロツキ達は足並みを崩した。

 確かに衛兵がくるとちょっと面倒だな。


「…衛兵に来られたら俺も面倒だ。今日は見逃してやるからさっさと失せろ」


 俺が大男の手を離すと、大男は即座に立ち上がり後退りしながら俺と距離を取った。

 

「チッ…!行くぞお前ら!」


「お、覚えてろよこの野郎!」 


 ゴロツキは捨て台詞を吐くと足早にその場を去っていった。

 こっそり後を付けて人気の無い路地裏で全員締め上げてやろうかとも思ったが、それよりも今はマーゼルの方が心配だ。


「レ、レンさん!大丈夫ですか!?」


「ああ、全く問題無いよ」


「で、でも、さっき棍棒のような物で思いっきり頭を殴られて…」


「俺は普通の人間よりちょっと頑丈に出来てるんだ。何も気にする事は無い。それにしても何なんだあいつらは」


「それはその…。レンさんには余計な心配を掛けたくないので…」


「…そうか。まあ無理に話す必要はないさ」


「本当にごめんなさい…」


 マーゼルは目に涙を溜めながら、道端に投げ捨てられたトマティを拾い、近くの露店の人達に頭を下げて周った。

 その光景を見ながら俺に何か出来る事は無いかと考えたが、事情がわからない以上安易に手を出すべきでは無いだろう。

 もちろんマーゼル本人に何か危害を加えようものなら俺が全力で叩き潰すけどな。



*****



「ふう、終わりかな」


 昼の営業を終えてひと息つく。

 今日はいつにも増して客足が伸び、それこそ調理の手を休める暇が無い程だった。

 見た顔も増えてきたので、どうやらリピーターもそれなりに付いてきているようだ。

 

「お疲れ様、蓮」


「ああ、お疲れ様」


「今日の昼の来客数だけど新記録更新だよ。いい感じね」


「おお、そうか。この調子でいきたいな。アイシャとリムもお疲れ様」


「うむ、もう皿洗いは完璧だ。そろそろ私も接客を手伝おうか?」


「リムも注文取るー!」


 アイシャとリムが接客に対して意欲的な姿勢を見せてきた。

 もちろん行く行くはアイシャとリムにも接客をしてもらいたい。

 だがリムはともかく、アイシャに関しては客と揉めた時に物理的解決をしてしまいそうなので、今の所はまだ様子見だ。


「…あ、ああ。もう少し忙しくなってきたらその内お願いする事もあるかもしれない。その時は宜しく頼む」


「いつでも任せておけ、レン殿」


「リムも頑張るよー!」


「はは、頼もしいな。さて、じゃあ飯を食いながら休憩して…」


 だがその時、店内から突如魔力の奔流を感じた。

 俺は咄嗟にナイフを抜き、その魔力の根源に向け身構えた。 

 すると(しばら)くして目の前に現れたのは、どこからか転移してきたミザリィだった。


「…何だミザリィか。脅かすなよ」


「あら、何だとはお言葉ね。こう見えて結構傷付き易いのよ?」


「ああ、悪かったよ。それで、今日はもう用事は済んだのか?」


「用事が済んだと言うか、貴方達に用があって戻って来たのよ。今は休憩中?」


「ああ、そうだ」


「なら丁度良いわ。ちょっと付き合ってくれる?」


 するとミザリィは突如魔力を開放しその場で転移魔法を展開し始めた。


「な…ッ!お、おい!ミザリィ何だ急に!」


「ふふ。すぐ終わるからちょっと大人しくしてて」


 ミザリィが不敵な笑みを浮かべたかと思うと、次の瞬間には転移魔法を発動させていた。

 例えようの無い浮遊感に襲われ、ただ俺はその魔力の奔流に身を任せるしかなかった。

 そのまま(しばら)く経つとやがて転移は終わり、目を開けてみるとそこは何も無いほぼ正方形の無機質な部屋の中だった。

 部屋の中を見渡してみるが、この部屋には窓やドアといった物が一切無い。

 そしてどうやらリムはこの部屋には転送されていないようだ。


「こ、ここは?」


「ふふ、驚いた?ここは亜空間よ」


「亜空間?」


「ええ。マジックボックスの中と同じ…と言えばわかり易いかしら?ちなみにこの部屋は私のお手製よ。ちょっとやそっとの衝撃じゃ傷一つ付かないわ」


「…それで、そんな物騒な部屋に俺達を連れてきてどうするつもりだ?」


「ふふ、じゃあ単刀直入に話すわね。貴方達にはここで修行をしてほしいの」


「修行?」


「ええ、そうよ」


「いや、急に修行と言われても、何のためにそんな事を…」


「それは、今のままだとちょっと困るから…かしら。貴方達、中々良い線いってるけどまだまだ弱いもの」


「いや、確かにミザリィから見たらそうかもしれないが、無理にこれ以上強くなる必要は…」


 俺がミザリィの提案に疑問を投げ掛けると、ミザリィは突如として真剣な面持ちとなった。

 その鋭い眼光に圧倒され、俺は思わずたじろいでしまう。


「…もし、以前戦ったブラックドラゴンのような魔物がこのリムドガルトを襲うとしたら?それも、一体ではなく何体も」


「…何故急にそんな話を」


「…ミザリィ、貴様何か隠しているのか?」


「ふふ、さあどうでしょうね。でも強くなって困る事はないでしょう?」


「まあそれは確かにそうだが…」


「じゃあ決まりって事で良いかしら。これから(しばら)くの間は毎日昼の営業が終わった後に修行を行うわ」


「ま、毎日!?」


「ちょっと待ってミザリィ。毎日ってそんな急に…。それに昼の営業が終わった後は夜の分の仕込みもあるのよ?」


「さっきも言ったでしょう?ここは亜空間だから外界とは時間の進み方が違うの。修行が終わった後でも夜の営業に支障は出ないわ」


「そ、そっか…」


「いや、簡単に納得するな七海…」


「四の五の言わずに腹を括りなさい。という事で、さっそく修行に取り掛かってもらうわ」


 ミザリィはそう言うと、魔力を開放させ足元に魔法陣を展開させた。

 するとその魔法陣から、まるで俺達三人を生き写しにしたかのような人間が三人現れた。


「な…ッ!これは俺達!?」


「ちょっとミザリィ!何これ!」


「ふふ、これは私が特別な素材と魔法で造りあげた人形よ」


「に、人形…?」


「ええ、でもただの人形では無いわ。この人形は貴方達の見た目とステータスをそのままコピーしてるの」


「…じゃあこの人形達は俺達とまったく同じ強さという事か?」


「そういう事。それとこの人形には学習機能が付いていて、貴方達がレベルアップすると、この人形達も同じ様に成長するの。どう、中々面白いでしょ?」


「いやいや!それじゃいつまで経っても勝負が…」


「それが面白いところじゃない。己の限界を一歩越える、中々燃える展開だと思わない?」


「何だよそのスポ根漫画みたいな展開は!」


「スポ根漫画って何?まあいいわ、それじゃ早速始めるわよ」


 そう言うとミザリィは人形に向け合図を出した。

 すると俺達そっくりの人形が無表情のまま武器を構え俺達に襲い掛かってきた。


「く…ッ!いきなりかよ!」


「持たせてる武器に刃入れはしてないけど、人形は貴方達を殺すつもりで攻撃してくるわ。一瞬でも隙を見せれば大怪我よ?」


「マ、マジかよ!と言うか七海!仏頂面でこっちに矢を放つな!」


「いや、それ私に言われても困るから!」


「さすがレン殿だ!その無表情で攻めてくる感じ、ああ、ゾクゾクする…ッ!」


「アイシャは順応するのが早過ぎるだろう!この戦闘狂め!」


「ふふ、じゃあ(しばら)くしたら迎えに来るからそれまで頑張って頂戴」


「ま、待てミザリィ!ぐッ…!畜生!」


 ミザリィは俺達を一瞥すると、転移魔法を使いその場から消えてしまった。

 そしてその後は俺達と人形の鍔迫り合いの音がただ延々と亜空間に響き渡り続けた。

 


****



 ミザリィの地獄の特訓が始まって数日後の早朝、俺は全身の痛みに耐えながらマーゼルの露店に仕入れに向かっていた。

 人形との戦いは熾烈を極め、一進一退の攻防が常に繰り広げられている状況だ。

 まあ完全に実力が拮抗しているので、必然的にそうなるのは当然の事なのだが。

 ちなみに一日六時間くらい亜空間で特訓しているので、体内時計が狂いに狂っている。

 全く、一体どこの精神と○の部屋だよ。

 

「クソ、ミザリィのせいで全身筋肉痛だ…」


 俺は荷車を引きながら、まだ人通りの少ない大通りで一人ごちた。

 そしてアーケードを潜り露店街に入ると、そこでいつもと何だか様子が違う事に気付く。

 どうやらマーゼルの露店の辺りで騒ぎが起きているようだ。

 俺は人の流れを掻き分けながら、足早にマーゼルの露店へと急いだ。


「は、離して!」


「いいからさっさと来い!」


 マーゼルの露店に着くと、先日俺が制止した大男がマーゼルの腕を掴み、どこかへ連れて行こうとしていた。

 俺は荷車をその場に置き、大男の腕を掴みギロリとひと睨みした。


「おい、何してるんだ。止めろ」


「…チッ、またお前か。だが今日は前みたいにはいかねぇぞ」


「どういう意味だ?」


 俺が大男を問い質すと、大男はマーゼルから手を離し、懐から一枚の書類を洋紙を取り出した。

 

「これだ」


「これは…この露店の出店権利証か」


「ああ、そうだ。俺達は正当な権利を持ってこの露店の立ち退きを要求しているんだ」


「…なるほど、どうやら本物のようだな」


「当たり前だ。だからもしお前がここで手を出したら罪に問われるのはお前って訳さ」


 大男が出店権利書を見せびらかしながら得意げに鼻を鳴らした。

 確かにここで手を出せば罪に問われるのは俺だ。

 だが何でコイツらがこんな物を…。


「ぷぷぷ。不思議そうな顔をしてるのよ。それなら説明は僕がするのよ」


 するとその時、ゴロツキ達の後方から何とも癪に障る甲高い声が聞こえてきた。

 俺がその方向に目を向けると、ゴロツキ達がまるでモーゼが海を割ったかのように両サイドに分かれた。

 そしてその道の先には、まるでオークのような醜悪な姿をした一人の男が立っていた。


「…誰だお前は」


「僕の名前はポポンヌと言うのよ。そこにいるマーゼルの婚約者なのよ」


「婚約者だと。それは本当かマーゼル?」


「…小さい頃の話です」


「ぷぷぷ。僕のパパが潰れそうだった農園に出資したから何とかやってこれてたものを。この露店の出店料だって、僕のパパが出したのよ」


「す、少しずつだけど毎月きちんと返してたじゃない!」


「マーゼル、借金には利子が付くものなのよ。それに、金を貸す時に利子が何割かなんて明確に決めて無かったのよ」


「そ、そんな!じゃあ私の借金は…」


「悪いけど全く減ってないのよ。むしろ増え続けてるのよ。ぷぷぷ!」


 目の前のオーク…いや、マーゼルの婚約者がゲスな笑みを浮かべた。

 つまりマーゼルは借金の形に出店権利証を持っていかれたという事か。


「さあマーゼル、一緒に行くのよ。この天才料理人であるポポンヌの妻になれるのよ。何の不満も無いはずなのよ」


「…天才料理人?お前、料理人なのか?」


「ぷぷぷ、そうなのよ。ちなみにお前の事もこいつらに調べさせてあるのよ。プロンズランクの料理人、レンイチノセ」


「…用意周到な事だな」


「ちなみに僕は栄えあるゴールドランクなのよ。お前とは格が違うのよ。ぷぷぷ!」


 ポポンヌが完全に見下したような視線を俺に向けてきた。

 それにしても天才料理人か。

 そういえば少し前にもそんな事を言ってた奴がいたような…。う、頭が…。


「まあそういう事だから、マーゼルの露店は今日でお終いなのよ。悪いけど明日から違う店で仕入れをするのよ。さあ、一緒に行くのよマーゼル」


「お、お願いだから許して…!」


「許す許さないの話じゃないのよ。お前達、抱えてでもマーゼルを連れて行くのよ」


「ウッス!」


「い、嫌…!離して…!」


 ゴロツキ達が再びマーゼルを無理やり連れて行こうとした。

 マーゼルは目に涙を浮かべ必死に抗おうとするが、マーゼルのか細い腕では到底どうする事も出来ない。

 俺はこの状況を黙って見過ごすしかないのか。

 否、そんな事出来るはずが無いだろう。


「…おい、待てこの豚野郎」


「…豚野郎って何なのよ。それ僕に言ってるのよね?」


「ああ、そうか。こっちじゃこう言うんだな。このオーク野郎」


「…なななッ!?ぼ、僕のどこがオークなのよ!そんな事言ったら許さないのよ!」


「ああ、許してもらおうなんて思ってない。なあお前、俺と料理で対決しないか?」


「りょ、料理で対決って、お前一体何を言ってるのよ!」


「俺とお前が一品ずつ料理を作って、それを複数の審査員に判定してもらうんだ。単純明快だろう?俺が勝ったらマーゼルの借金はチャラだ。もちろんお前との婚約も解消な」


「な、何勝手な事言ってるのよ!それに、マーゼルの借金幾らあると思ってるのよ!白金貨一枚なのよ!お前は一体何を賭けるって言うのよ!」


「そうか、なら俺はこれを賭けよう」


 俺はそう言って、腰から下げていた雪椿をポポンヌに手渡した。

 ポポンヌは雪椿を鞘から抜くと、驚愕の表情を浮かべその刀身に目をやった。


「な…ッ!オ、オリハルコン製のキッチンナイフなのよ…!」


「ああ、その通り。俺の命の次に大切な物だ。これなら文句は無いだろう?」


「レンさん、駄目です!そんな大切な物を!」


「いいんだマーゼル。友人を救えるならこれくらい安いもんさ」


「レ、レンさん…」


「さあ、どうするオーク野郎」


「ぐぬぬ…!」


 ポポンヌが雪椿とマーゼルを交互に見ながら激しく葛藤している様に見えた。

 以前ゴルドフからオリハルコン製の甲冑一つで豪邸が建つという話を聞いた。

 恐らくこの雪椿も白金貨一枚と同等か、それ以上の値は付くはずだ。


「…ぷぷ、ぷぷぷ!いいのよ、その勝負乗ったのよ!よく考えたらこの僕がブロンズランクの料理人如きに負けるはずが無いのよ!」


「言ったなオーク野郎。じゃあ決まりだな」


「だから僕はオークじゃないのよ!まあいいのよ、料理対決でお前のその安いプライドをズタズタにしてやるのよ!」


 ポポンヌは俺に向けてビシっと指差しながら、何とも吐き気を誘う不敵な笑みを浮かべた。

 ああ、また勝手な事をするなと七海に怒られるんだろうな。

 だが反省はしてるが後悔はしていない。

 

 こうして俺とポポンヌの料理対決が後日正式に行われる事となった。

ぷぷぷってなんなのよ。

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