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第二十一話

謎の美女の正体とは一体、の話。

修正・加筆の可能性大です。

 ブラックドラゴンとの戦闘の後、突如現れた美女に俺は唇を奪われた。

 体の痛みで頭がまともに働かず、目の前で起きている事態を俺は理解出来ずにいた。

 だが謎の美女に唇を蹂躙されている内に、体を支配していた痛みは嘘の様に消えていった。


「…ふう、もう大丈夫よ。可哀想に、酷い目にあったわね」


「い、痛みが消えた…。貴女は一体…うぷっ!」


 目の前の美女に話しかけるや否や、その美女は俺の頭にそっと優しく手を回し、自らの胸元へと引き寄せた。

 その瞬間、まるでマシュマロに触れたかのような柔らかな感触が俺の顔全体に広がった。

 

「細かい事はいいの。命があっただけ良しとしないと」 


「…ぜ、全然良くなーい!と言うか、回復するのにキスまでする必要あったわけ!?」


「特に無いわね。坊やの唇が美味しそうだったから…つい?」


「つい…だと?私だって…私だってまだなんだぞ!」

 

「キスくらいで何をそんなに怒ってるの?もしかして、この坊やの恋人か何かかしら?」


「べ、別にそんな訳じゃ…!と、とにかく離れて!」


「そ、そうだ!細かい事はいいからレン殿を離せ!」


「…ふふ、素直じゃないお年頃かしら。わかったわ。ちょっとごめんね、坊や」


 謎の美女はそう言うと俺から離れ、ブツブツと呪文のようなものを詠唱し始めた。

 そしてその体からポウと光が放たれた次の瞬間、突如俺の視界がぐにゃりと歪んだ。

 その後一瞬意識がブラックアウトしたような感覚に陥ったが、気付けば目の前には先程と変わらぬ森の風景が広がっていた。


「はい、おしまい」


「…今何が起きたの?」


「き、貴様!私達に一体何をした!」


「うん?まあ色々あって少しだけ時間を巻き戻したってとこかしら」


「じ、時間を巻き戻した…?うぐ…ッ!」


「あらあら、時間を巻き戻したから傷も元に戻っちゃったわね」


 謎の美女はそういうと俺に向けて手をかざしてきた。

 そしてその手から物凄い魔力の奔流を感じ取った次の瞬間、俺の体の傷は一瞬にして消え去った。


「はい、これでもう平気よ。ふふ、それに今の坊やはまだピュアな状態よ。安心してね」


 謎の美女はそう言うと俺に優しく微笑みかけてきた。

 輝く様なブロンドのロングヘアーに、翡翠の如く透き通った瞳。

 その瞳にじっと見つめられると、まるで自分の全てを見透かされているような、そんな気にすらさせられる。

 そしてよく見てみると、彼女の耳は人間のそれとは違い先端がツンと尖っていた。

 

「…あら、エルフを見るのは初めて?」


「…はい。それにしても時間を巻き戻したって…」


「ふふ、体に悪い影響は何も無いから大丈夫よ。まあさすがに私も遡及の魔法はそう何度も使えないけどね」


 彼女はそう言うと、まるで取るに足らない事だと言わんばかりの表情を浮かべた。

 遡及の魔法…時を戻すなんてそんな事が可能なのだろうか。

 だがもし本当にそんな事が出来るのなら、それを可能とするこの女性は一体何者なのだろうか。

 俺は様々な疑念を抱きつつ、目の前の美女に鑑定をかけてみた。

 


******************************


ミザリィ 218歳 女 レベル:268


職業:マスターウィザード 魔法適正:全属性


HP:8271(+1300)

MP:26718(+1300)


筋力:2583(+1100)

体力:2191(+1100)

器用:2781(+1100)

敏捷:2018(+1100)

魔力:29821(+1100)

耐性:18430(+1100)


スキル


・火属性魔法LV26・水属性魔法LV25・風属性魔法LV24・土属性魔法LV23・無属性魔法LV25・光属性魔法LV24・闇属性魔法LV24・召喚魔法LV23・錬金術LV18・練成術LV20


サブスキル


・鑑定LV10・隠蔽LV10・生活魔法LV10・気配察知LV10・隠密LV10・サバイバルLV10


ユニークスキル


・マジックボックス・成長速度上昇・成長率増加・MP使用効率上昇・MP回復速度上昇・無詠唱・魔力ブースト・トリプルスペル・魔法融合・千里眼・古代言語


加護


・全能神の加護・魔法神の加護


******************************


  

「…なッ!」


 俺はそのステータスを見て愕然とした。

 ブラックドラゴンを一瞬にして絶命させたあの圧倒的な力。

 それを裏付ける規格外な能力値。

 逆立ちしたところで、戦いになれば万に一つも俺達に勝ち目は無いだろう。 

 

「…あら、いけない子。坊や、今鑑定を使ったわね?」


「…ッ!な、何故それが…」


「ふふ、女の勘ってやつかしら。でも初対面の女性に無断で鑑定を使うのはあまり関心しないわね」


「す、すみません。それにしても、貴女はこんな所で一体何を…?」


「リムドガルトに向かう途中にたまたま通りがかっただけよ」


「リムドガルトに?」


「ええ、そうよ。あの街の冒険者ギルドのマスターにちょっと話があって…と、これ以上は内緒。ふふ」


「は、はぁ…」


 謎の美女(もと)い、ミザリィが人差し指を口に当てながらおどけて笑った。

 それにしてもこの見た目で二百歳を越えてるのか。

 どう見ても二十代くらいの女性にしか見えないが…。

 そう言えばファンタジー物の話に出てくるエルフは大抵長命だったな。


「…坊や、今物凄く失礼な事を考えてなかったかしら?」


「…ッ!?い、いや!決してそんな事は…」 


「そう?それならいいんだけど。さて、こんな所で話すのもなんだから街に行きましょう。もう陽も暮れるわ」


「そ、そうですね」


「ブラックドラゴンの死体は坊や達にあげるわ。ギルドで買い取ってもらえば、それなりのお金になると思うわ」


「え、でもこれは貴女が…」


「細かい事はいいの。さ、早くしまって頂戴。坊やもマジックボックス持ちでしょう?」


「わ、わかりました…」


 俺はミザリィに言われるがまま、ブラックドラゴンの死体をマジックボックスの中へと収納した。

 と言うかこの人、初対面の人間に鑑定を使うなと言っておきながらちゃっかり自分も鑑定を使ってたんだな…。


「さ、じゃあ行くわよ。皆、私達の近くに寄って」


 ミザリィに促され、俺達はミザリィの近くへと歩み寄った。

 すると次の瞬間、足元に突如として光り輝く魔法陣が姿を現した。


「これは…?」


「ふふ、大丈夫よ。すぐに終わるわ」


 ミザリィがそう言うと、魔法陣の光がより一層強くなる。

 そして急に視界が歪んだかと思うと、それとほぼ同時に体がふわりと宙に浮くような感覚を覚えた。

 圧倒的な魔力の奔流にそのまま身を委ねていると、次の瞬間、目の前の風景が一瞬にしてガラリと変わった。


「はい、到着」


「…は?」


 何が起こったのか俺は一瞬理解が出来なかった。

 だが視界に広がるのは、間違いなくリムドガルドの風景そのものだった。


「…こ、ここは冒険者ギルド!?」


「な、何だと!私達は森にいたはずじゃ…」


「あら、テレポートは初めて?無属性魔法をある程度極めれば使えるようになるわよ。さ、今はそんな話はいいから早く中に入りましょう」


 ミザリィはそう言うと、冒険者ギルドの入り口のスウィングドアを押し開けた。

 俺達もミザリィに続いて中に入るが、冒険者ギルドの中はまるで水を打ったように静まり返っていた。

 そして中に居た冒険者達は、ほぼ全員がミザリィの姿を見て固まっている。


「お、おい…あれはまさか…」


「ああ、間違いねぇ…。でも何であのルーキー達と一緒にいやがるんだ…」


 冒険者達の間からそのような会話が聞こえてきた。

 どうやらミザリィは冒険者達の間でも相当な有名人らしい。 

 本当に一体何者なんだこの人は…。


「こんばんはメル。相変わらずちんちくりんね」


「…ッ!ミ、ミザリィさん!?」


「ガイラムはいるかしら?ちょっと話があるの」


「は、はい!マスターなら奥の部屋に!どどど、どうぞこちらへ!」


 メルがミザリィの姿を見て異常なまでに動揺している。

 ギルド職員であるメルがその存在を知っているという事は、やはりミザリィはギルドの関係者なのだろうか。


「メルさんはミザリィさんと知り合いなんですか?」


「き、君達は知らないのかい!?…って、そうか。君達はまだ冒険者になりたてだから知らないのも無理は無いか…。と言うか、何で君達がミザリィさんと一緒にいるのさ!」


「さ、さあ。成り行きというか何というか…」


「冒険者登録の時に、世界に5人しかいないSSランクの冒険者の話をしたよね?ミザリィさんはその内の一人、通称マジックマスターと呼ばれている物凄い人なんだよ!」


 メルが鼻息を荒くしながらミザリィについて熱弁を始めた。

 なるほど、メルや他の冒険者達が異様なまでの反応を見せたのはそういう事か。

 それにしてもSSランクか。

 確かに目の前で見せ付けられた規格外の力、それを考えれば今更ミザリィがSSランクと言われてもさほど驚きでは無い。


「Sランクの冒険者が束になってもSSランクの冒険者には敵わない、SSランクの冒険者と言うのはそれ程の実力者であって…」


「…ちょっとメル、何で貴女がそんなに熱くなってるのよ。坊や達ちょっと引いてるじゃない」


「…はッ!ご、ごめんなさい!興奮してつい…」


「ふふ、まあいいわ。じゃあちょっとガイラムと話をしてくるから、その間に坊や達はブラックドラゴンの査定でもしてもらうといいわ」


「わかりました」


 ミザリィは俺達にそう言残すと、ガイラムがいる執務室の方へと姿を消した。

 その後俺はメルに事情を説明し、ブラックドラゴンの査定を行ってもらう事にした。

 メルの話では、ブラックドラゴンの筋肉は通常のドラゴンよりも数倍は硬く、食用には向かないらしい。

 料理に使えるならその分の肉は確保しようと思っていたが、食べられないのなら素材は全部買い取ってもらうしかないか。


 とりあえず、俺達は査定の結果を待つためラウンジで一息付く事にした。

 すると一刻も経たない内に、メルが大量の皮袋を持ってカウンターまで戻ってきた。


「お待たせルーキー君達!査定が終わったよ!」


「思ったより早かったですね」


「前回のアホみたいな数の査定に比べればこれくらいちょちょいのちょいさ!それで査定の結果だけど、皮膚は黒焦げになって使い物にならないけど、ブラックドラゴンの牙と骨は高値で取引されるから、それを踏まえて金貨八百枚ってところかな!それとヒルヒル草百束の報酬が半金貨一枚だね!」


「ほ、骨と牙だけでそんなに高いんですか?と言うか、体の中までどうやって調べたんですか?」


「ふっふっふ、それは企業秘密さ!それと今回の査定でギルドポイントが規定の数値に達したから、君達は三人とも今日からBランクだよ!おめでとう!」


「え、いや、倒したのは俺達じゃないんですけど…」


「ミザリィさんが権利を君達に譲渡したんだから、ルール上は何の問題も無いよ!まあ色々と面倒臭いから、ここは素直に受けておいていいんじゃないかな?うん、そうしよう!お姉さんも早く帰りたいし!」


 メルはそう言うと、金貨の入った皮袋を俺達にグイと押し付けてきた。

 それにしても金貨八百枚ってまたとんでもない金額だな…。

 地球の貨幣価値に換算するといくらだ?

 う…何だか頭が痛くなってきた…。


「お待たせ坊や達。査定は終わったみたいね」


「もう話は済んだんですか?」


「ええ、もう用は済んだわ。さ、行きましょう」


 ミザリィはそう言うと、何故か俺の腕を組んでギルドの外へ出るように促してきた。

 そのたわわな胸をミザリィは惜しげもなく俺の腕に当ててくる。

 だがそれと同時に七海とアイシャから物凄い殺気が飛んできたので、何とか理性を保つ事が出来た。


「行くってどこにですか?」


「どこにって決まってるじゃない。坊や達の家よ。ガイラムから聞いたけど、坊やは東地区にお店を構えてるんでしょう?」


「ま、まさかうちに泊まるつもりですか?」


「ふふ、そのまさかよ。何なら泊まってる間、私が坊やの情婦になってあげてもいいわよ?」


「い、いやいや!と言うかミザリィさん、SSランクならお金たくさん持ってるでしょう?わざわざうちに来なくても…」


「あら、もしかして駄目なの?坊やがそんな薄情な子だったなんて、お姉さん悲しいわ…」


 ミザリィがおいおいと、わざとらしい泣き真似をし始めた。

 そんなミザリィの様子を見てか、メルや周りにいた冒険者達から冷ややかな視線が飛んでくる。

 なるほど、ここで断れば完全に俺が悪者扱いだな…。


「わ、わかりましたよ…。では一緒に行きましょう」


「ちょっと蓮!」


「まあミザリィさんには助けてもらったし、数日泊めるくらいならいいだろう」


「そ、それはそうだけど…」


「ふふ、じゃあ決まりね。さあ、行きましょう」


 俺がミザリィの同行を容認した途端、泣き真似をしていたミザリィがけろっとした様子で俺に笑顔を向けてきた。

 その笑顔を見た瞬間、まるでミザリィの掌の上で遊ばされているような気持ちになったが、今となっては後の祭りだ。

 俺はそのままミザリィに引き摺られるようにして、冒険者ギルドを後にした。



****


 

 それから二日後、俺と七海は朝から厨房に立っていた。

 今日は知り合いを呼んで店をプレオープンさせる予定だ。

 

 ちなみにあの後、ミザリィにどの部屋を使ってもらうかという話になったのだが、ミザリィが俺と同じ部屋で良いと言い出したものだから話し合いは荒れに荒れた。

 結局ミザリィには俺の部屋を使ってもらう事になったのだが、その結果ミザリィが滞在する間は俺が物置で寝る羽目になってしまったのだ。


「か、体が痛い…」


「蓮がミザリィを泊めて良いって言ったんだから、それくらい我慢しなさい」


 七海が自業自得だと言わんばかりに、俺に辛辣な言葉を浴びせてくる。

 ちなみに今は全員がミザリィの事を呼び捨てで呼んでいる。

 二百歳近く年上のミザリィを呼び捨てにするのはさすがに気が引けたが、ミザリィ本人がそうしてほしいと言ってきたので渋々俺達も了承した形だ。


「レン殿、ホールの掃除は終わったぞ」


「ああ、ありがとうアイシャ」 


「レンお兄ちゃん、リムも手伝ったよ!褒めて褒めて!」


「リムもありがとう。リムはちゃんとお手伝いが出来て偉いな」


「えへへー」


 リムがおねだりするような顔で俺を見てきたので、頭を撫でてやったらとても嬉しそうに尻尾を靡かせた。

 ああ、リムは今日も可愛いな。


「そういえばミザリィは?」


「ミザリィならさっき出かけて行ったぞ」


 アイシャ曰く、ミザリィは既にどこかへ出かけて行ったようだ。

 そういえばうちに来てから毎朝の様にふらっと出かけて行くな。

 まあSSランクの冒険者ともなると色々とあるのだろう。


「そうか。まあミザリィは客人だし、居たところで店の手伝いをさせる訳にもいかないからな」


「それもそうね。さあ蓮、こっちも仕上げちゃいましょう」


「ああ、そうだな」


 七海に促され、俺は再び調理台へと向かった。

 ちなみにプレオープンの件は先日の内に知り合い全員に告知しておいてある。

 プレオープンと言っても、今日に関しては料金は取らないつもりなので、どちらかと言うと知り合いを集めたパーティと言った方が表現が正しいかもしれない。

 無料だと伝えたら、中でもハンス率いる衛兵団の反応はすこぶる上々だった。

 まあ働き盛りの男達がタダで飯を食えるとなればそうなるのも当たり前か。

 だが期待してくれている分、こちらも下手な料理を出す訳にはいかないな。


「…どうしたの蓮?何だか嬉しそうだけど」


「ん?いや、楽しみだなと思ってな」


「楽しみ…か。ふふ、そういうところは蓮らしいね。私なんて起きてからずっと緊張しっ放しなのに」


「いつも通りやれば大丈夫だろ。七海だって最近はメキメキと腕を上げてきてるんだから、もっと自信を持って良いと思うぞ」


「そ、そう?蓮にそう言ってもらえると嬉しいな」


 七海が鍋を掻き回しながら、照れ臭そうに笑った。

 だが事実、最近の七海は俺の目を見張る程に料理の腕前が上がったように思える。

 七海がこれからどんな料理人へと成長していくのか、俺も楽しみだ。


「まあ、まだまだ七海には負けるつもりは無いけどな」

 

「あ、そういう事言う!いつか蓮にだって負けない料理人になってみせるんだからね!」


「はは、楽しみにしてるよ」


「もう、蓮のイジワル」


 七海が焼いた餅の様に頬を膨らました。 

 だが冗談抜きに、俺も頑張らないといつか本当に追い抜かされてしまいそうだ。

 まあ七海に追い抜かされるのなら、それはそれで悪い気はしないんだろうけどな。 


 その後俺達は他愛の無い会話を挟みながら、料理を仕上げる為に急ピッチで作業を進めた。

 そして料理が仕上がる頃には、プレオープンの時間まで残り一刻と迫っていたのであった。

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