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第十七話

試作品用の食材を買いに市場へ行く話。


修正・加筆の可能性大です。


そして遂にブックマークが100人越えしました!皆様本当にありがとうございます!

ブックマーク100人は自分の中で一つの目標だったので、達成出来てとても嬉しいです!

執筆暦三ヶ月ちょいのド素人ですが、今後も頑張っていきます!

「よし、行くか!」


「おー!」


 俺の出発の合図にリムが右手を上げ元気良く反応した。

 

 あの後水蓮亭(すいれんてい)に連れ戻された俺は、七海とアイシャから小一時間ほど説教を喰らった。

 骨の一本くらいは覚悟していたのだが、初犯という事で何とか厳重注意だけで事無きを得た。

 というか犯罪でも無いのに初犯って…まあ一歩間違えれば犯罪か。

 

 説教が終わる頃には太陽の位置も中天に差し掛かっていたので、その後俺達は市場へ向かう為の準備を急ピッチで進めた。

 仕入れの際にとりわけ必要となる物といえば、やはり仕入れ用の荷車だ。

 そこで俺は、マジックボックスの中から森で狩りをしていた時に伐採しておいた丸太を取り出し、練成術を使って直系2メートル程の木製の荷車を作った。

 練成術は素材を利用してイメージした物を具現化できるスキルだが、荷車に関しては複雑な構造までは知識として知り得ていなかったので、出来上がったのは比較的簡素な造りの物だ。

 まあ街中で使用する分にはこれで十分だろう。


 ちなみに先日エネットから詳しく聞いておいたのだが、改めて説明するとこの街は中央広場を中心として北地区、西地区、東地区、南地区と大きく分けて四つの地区に区分されている。

 北地区は主に上流階級の人間及び貴族の住居区であり、最北に位置する場所には国王が住む王宮があるという。

 次に南地区だが、南地区は主に中流階級の人間の住居区で比較的治安も安定しているそうだ。

 それとは対照的に、東地区は低所得者や身元不明の者、更には冒険者崩れのならず者も数多く存在し、犯罪件数も断トツで高いらしい。娼館、賭博場といった娯楽施設も東地区に集中している。

 そして最後に西地区だが、西地区には様々な商業施設が集中しており、冒険者ギルドや商業ギルドといった施設もここに存在する。エネットから教えてもらった市場はこの西地区の一角にあるらしい。

 もちろん市場や各商業施設が西地区にしか存在しないわけではなく、あくまでその地区にそういった施設が多いというだけの話だ。


「それにしても異世界の市場か。何だかワクワクしてくるな」


「ワクワクするのは良いけど、羽目を外しすぎないでね?蓮は目を離すとすぐに女の子引っ掛けるんだから」


「確か娼館の前でレン殿が逢引をしていた女も市場で出店しているのだったな。レン殿がもしその女に色目など使ったら、次こそは手元が狂ってしまうかもわからんな」


「…き、気を付けます。というか逢引じゃないって…」


「?あいびきってなーに?」


「…リムは知らなくて宜しい」


 リムがきょとんとした表情で俺に逢引の言葉の意味を聞いてきたので、誤魔化すようにして頭を撫でてやった。リムは嬉しそうに尻尾をパタパタとさせ、ご満悦の様子だ。

 

「それで蓮、今日はどれくらいの量を仕入れする予定なの?」


「今日は試作品を作るのに必要な分だけ仕入れる予定だ。まあ食材を仕入れるにしても、どんな食材が売ってるか実際に市場を見てみない事にはわからないしな」


「それもそうね」


 個人的には、米に代わる物がこの世界に存在するかどうかが気になるところだ。

 地球にいた頃は定食メニューも多く出していたので、やはり要となるのは主食である米だと考えている。

 だがもし米に代わる物が売ってないとしたら、定食やご飯物とは別の路線でメニューを考えないといけなくなるな。

 店を出た俺達は中央広場を抜け西地区へと入り、そのまま大通り沿いを(しばら)く進んだ。

 するとやがて、前方左手の路地の入り口に布で作られたアーケードの様な物が見えてきた。さながらそれは商店街の入り口の様な感じだ。

 エネットに教えてもらった場所と一致するので、あそこの路地が市場の通りで間違いないだろう。

 俺は意気揚々とその路地へと歩を進めた。

 

 大通りを左手に曲がり一歩その路地へと足を踏み入れると、目の前の雰囲気が一瞬にして変わった。

 そこには所狭しと露店が(ひし)めき合っており、其処彼処(そこかしこ)で威勢の良い掛け声が飛び交っていた。

 一見すると布で作られた簡易な露店ばかりだが、それがまた良い雰囲気を醸し出している。


「おお…ッ!これは凄い!」


「本当ね!わぁ、食材もたくさん!」


 立ち並ぶ露店の数に七海も驚嘆の声を上げた。

 肉や野菜に果物を販売している露店、さらには飲食物を売っている屋台なども出ていて、その数と店の種類はまさに選り取り見取りといった感じだ。

 俺が初めて来た異世界の市場に圧倒されていると、串焼きを販売している屋台の店主から声をかけられた。


「よう、兄ちゃん!クック鳥の串焼き一本どうだ?安くしとくぜ!」


「おお、これは美味しそうな串焼きですね。おいくらですか?」


「一本銅貨一枚だ!後ろのべっぴんさん達の分もいるか?」


「では四本お願いします」


「おうよ!」


 俺は四人分の串焼きを注文し腰袋から銀貨を一枚取り出し店主に手渡した。

 すると店主は余熱で保温していた串焼きを網の上に乗せ、軽く焼き直し始めた。そしてタレを丁寧に塗り、更に表面を軽く炙ったところで網から上げ、その熱々の串焼きを俺達に差し出してきた。


「ほいよ、串焼き四本お待ち!それとお釣りの銅貨六枚な。熱いうちに食えよ!」


「うわぁ、美味しそう!早速いただきまーす!」


 七海が我慢できないといった様子で、串焼きに齧り付いた。

 俺も一口その串焼きを頬張ってみるが、炭火で丁寧に焼かれた鳥肉のジューシーな歯応えとコッテリとしたタレの味が何とも絶妙だ。

 高級店の味とまでは言わないが、やはりこのB級グルメ感が露店の醍醐味だな。


「うん、美味い!」


「うむ、美味いな」


「おいしいー!」


 どうやら女性陣にも串焼きは大好評のようだ。

 リムに関しては、美味しさのあまりか尻尾をブンブンと左右に大きく振っている。

 

 そして気付けば全員ペロっと串焼きを平らげていた。


「どうだ美味かっただろう。よかったら串はこっちで始末しておくぞ」


「ご馳走様でした、美味しかったです。それでちょっとお伺いしたいのですが、この市場でコメとかライスっていう名前に似た食材が売ってたりはしませんか?こう…小指の爪を一回り小さくしたような形の白い穀物なのですが…」


 以前森でラズベリアの実という木の実を採取した事があったが、俺はそこで地球の食材とファリスフィリアの食材の名前には類似性があると仮説を立てていたのだ。


「コメにライスか…。うーん、悪いが聞いた事が無いな」


「そうですか…。わかりました、ありがとうございます」


「おう!また来てくれよな!」


 そして俺達は串焼き露店の店主に別れを告げ、更に市場の奥の方へと歩を進めた。

 そのまま暫く進むと目の前に青果を売っている露店を見つけた。

 店前に並べられた木箱の中には様々な野菜や果物が並べられている。

 俺は試しに、箱の中に並べられたどこからどう見てもトマトの様な果実に鑑定をかけてみた。


-----------------------------------------


トマティ レアリティ:C


種類:果実


説明:多年生植物に生る果実の一種。


-----------------------------------------


 ふむ、となるとこっちの玉ねぎの様な物は…。


-----------------------------------------


オニオル レアリティ:C


種類:葉菜類


説明:食用の多年草。


-----------------------------------------


 なるほどな。では、こっちの見た事が無い野菜は…。


-----------------------------------------


タパパ草 レアリティ:C


種類:葉菜類


説明:食用の双子葉植物。


-----------------------------------------


 ふむ、これはタパパ草というのか。

 恐らくだが地球にはタパパ草に似た名前の野菜は存在しなかったと思う。

 となると、これは異世界特有の野菜という事になるのだろうか。


「ちょっとお兄さん!店の前でぼーっとしないでおくれ!」


「おおっと、済みませんでした」


「それで、何か買うのかい?」


「えっと、このトマティを一つ下さい」


「あいよ。トマティ一つなら半銅貨一枚だね。そのままでいいかい?」


「ええ、構いません」


 俺は露店の店主に半銅貨を一枚手渡し、トマティを一つ購入した。

 俺はそのトマティを袖で軽く拭い、そのまま皮ごと頬張る。

 …うん、これは完全にトマトだ。

 となると、やはり俺の立てた仮説は正しかった事になるな。

 

 そして青果露店の店主にも米に似た名前の穀物について聞いてみたが、やはりここの店主もそういった物は知らないらしい。

 やはりこの世界には米に代わる穀物は存在しないのだろうか。


「米が無いとなるとなぁ…。さてどうしたものか」


 当然の事だが、米が無ければ定食やご飯物は出せない。

 となると、やはり方向性を変える必要があるか。

 ご飯物が出せないとなると、セカンドチョイスとして思い付くのはやはりパンだな。

 

「パンか…。となると大衆食堂というよりかはファーストフード店的な…」


 俺が思考を巡らせながらブツブツと独り言を呟いていると、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「あれ、もしかしてレンさん?やっぱりレンさんだ!」


「ん?おお、マーゼルか。ここで店を出してたんだな」


「はい!まさか本当に会えるとは思ってなかったから嬉しいです!」


 マーゼルが亜麻色の髪を(なび)かせながら満面の笑顔で俺にそう言ってきた。

 だがそれと同時に、後方からとてつもない殺気が巻き起こったのを感じた。


「…えっと、後ろの方達は?」 


「ああ、こいつらは俺の連れだ」


「そ、そうでしたか。随分と怖い顔をしてますけど、何かあったんですか?」


「いや、気にしないでくれ…」


「は、はあ…」


 マーゼルが七海たちの様子を見て困惑の表情を浮かべている。

 まあ確かに、マーゼルからしてみれば何の事だかさっぱりだよな…。


 俺は気を取り直してマーゼルの露店で売っている食材に目を通してみた。

 さっきの青果露店で見たトマティやオニオルを始め、様々な野菜や果物が並べられている。

 そして一通り露店に目を通すと、端っこの方に色の付いた粉のような物が置いてあるのが見えた。


「この香りは…香辛料か」


「ええ、そうです。南方の砂漠地帯で採れた香辛料を細かくすり潰した物ですよ」


「やはりそうか。ちなみにこの香辛料は一般的にどんな料理に使われるんだ?」


「うーん、そうですね。例えばですけど、スープにちょっと風味を足したい時に少量入れたりするのが一般的ですね」


「なるほどな」


 マーゼルの露店に置いてあった香辛料は、地球で言うところのクミンやナツメグといったインド原産の香辛料に似た物だ。黒胡椒や白胡椒なんかは汎用的に使えるので是非買っておきたいところだ。

 そして俺は香辛料を眺めながら、一番に気になった事をマーゼルに聞いてみた。


「ちなみに、香辛料を何種類か混ぜて作るスープの様な食べ物ってあったりするか?」


「香辛料を何種類も混ぜて作るスープ…ですか。そういった料理は聞いた事が無いですね。香辛料は風味が強い物ばかりなので、何種類も混ぜたりすると味が喧嘩しちゃうと思いますよ」


「ふむ…」


 マーゼルから話を聞く限り、少なくともこの国では香辛料はあくまで風味を出すための調味料として使われているらしい。となると、俺が今イメージしている料理は恐らくこの国には存在しないだろう。


「…よし、この線でいくか」


「…なるほどね。面白いんじゃないかな?」


 横にいた七海も俺の考えを察したのか、俺の言葉に対して相槌を打つ。

 そして俺は七海と手分けして、使えそうな食材と香辛料を選別していった。


「よし、大体こんなもんかな。全部でいくらになる?」


「ありがとうございます!えっと、ひいふうみいで…全部で銀貨六枚と銅貨四枚ですね」


「じゃあ小金貨一枚で。釣りは情報料として取っておいてくれ。一応今日は試作品の材料を買いに来ただけなんだが、もし正式にメニューが決まったら今後もこの店を利用させてもらうよ」


「ほ、本当ですか?ありがとうございます!最近は競合店が多くて売り上げも落ちていたところだったので、そう言ってもらえると凄く嬉しいです!」


 マーゼルが嬉しそうにそう言うと俺の手を取り力強くぎゅっと握ってきた。

 だがそれと同時に、女性陣から再度殺気が放たれたのを感じた。

 ここはアイシャが狂人化しない内に引き上げるか…。


 そしてマーゼルに別れを告げた俺達は市場を後にし、試作品作りの為に水蓮亭へと戻る事にした。



****



 水蓮亭に戻った俺達は手分けして荷車から材料を店内に運び入れた。

 俺は試作品作りの為に七海と共に厨房に入り、アイシャにはリムの相手をしてもらう事にした。


「さて、どうするかな。本格的な香辛料の調合はさすがにやった事が無いからな」


「あ、私少しならわかるよ。前に学校の授業で習った事があるから」


「おお、そうなのか。じゃあ香辛料の方は任せてもいいか?俺は他の材料の下準備をしておくから」


「オッケー、任せといて!」


 話し合いの末、俺が肉や野菜の下準備担当、そして七海が香辛料の調合担当となった。

 俺はまずマジックボックスの中から使えそうな魔物の肉を探した。

 今から作る料理は本場では鶏肉を使うのが基本だ。

 リストをスクロールさせながら代用できそうな肉を探していると、とある魔物の肉が目に留まった。


「…グリフォンか」


 俺が目を付けたのは、セレオール山脈で狩りまくったグリフォンの肉だ。

 グリフォンは上半身が鳥、そして下半身が獣の体を持った魔物だ。

 山篭りしていた時にそのまま焼いて食べた事はあるが、確かに鶏肉に近い味ではあった。


「よし、試しに使ってみるか」


 俺はマジックボックスの中から、予めブロックに切り分けておいたグリフォンの上半身部分の肉を取り出した。

 グリフォンの肉をまな板の上に乗せ、食べやすい大きさに切り分け、塩と黒胡椒で下味を付ける。

 続いてマーゼルの露店で買ったオニオルとガーリクを丁寧にみじん切りにしていく。

 試作品として作ろうとしているのは至ってベーシックな物なので、下準備はこれで完了だ。

 

 俺はマジックコンロに火を付け、油を引いたフライパンにみじん切りにしたガーリクを投入した。

 そしてガーリクに軽く焼き色が付いたところでオニオルを投入し、そのまま10分程中火でじっくりと黄金色になるまで炒める。

 オニオルにしっかりと焼き色が付いたところで、水と潰したトマティを加え、グツグツと煮込んでいく。


「七海、スパイスの方はどうだ?」


「ちょうど出来たところだよ。もう入れて大丈夫?」


「ああ、頼む」


 俺が合図を出すと、七海が調合したスパイスを鍋の中に投入した。

 すると程なくして、フライパンからスパイス特有のとても香ばしい匂いが漂ってきた。


「良い香りだな。スパイスは何を使ったんだ?」


「今日は最初だし、ベーシックな物を選んでみたわ。クミンにナツメグにターメリック、後はガラムマサラかな。ああ、こっちだと呼び名が違うんだっけ」


 七海が選んだスパイスは、この料理の基本となる至ってシンプルな物だ。

 その他にも香辛料は色々と買っておいたのだが、この辺の堅実さは何とも七海らしい。

 まあ料理は応用よりもまずは基礎を固める事が重要だからな。

 この事は親父からも耳にタコが出来るくらい聞かされたっけ…。


 調合したスパイスを投入後、塩で味を調え、最後にグリフォンの肉を入れて程よく水気が飛ぶまで炒め煮すれば完成だ。

 名付けて異世界風チキンカレーといったところかな。


「…ねえ蓮、グリフォンってチキンなの?」


「…まあ一応、鳥だから…?」


 七海からごもっともな指摘が飛んでくる。

 まああれだ、鶏でもグリフォンでも美味ければ良いんだ美味ければ。

 俺は自分にそう言い聞かせながら、四つの器を用意し、配膳の準備に取り掛かった。



****  



「出来たぞー」


「わぁ、いい匂いー!」


 ホールで料理の完成を待っていたリムが両手を上げて喜びをアピールしている。


「確かに、何と言うか物凄く食欲をそそる香りだな。これは何という料理なんだ?」


「これはカレーという料理だ。今日作ったのは至ってシンプルな物だが、スパイスの調合次第で千差万別な味となる奥深い料理だ」


「ほう、それは興味深いな。ではさっそく頂くとしよう」


 そう言うとアイシャは備え付けてあったスプーンを手に取り、カレーを掬おうとした。


「ちょっと待ったアイシャ。カレーにはきちんとした食べ方があるんだ。」


「むう、このまま食べる物ではないのか。ではどうすればいいのだ?」


「パンを千切って、カレーにつけて食べてみてくれ」


「なるほど、パンを浸して食べるのか」


 俺の説明を聞いたアイシャはパンを手に取り、適度な大きさに千切ってからカレーに浸け口の中へと入れた。

 リムもそれを見て、見よう見真似でカレーに浸したパンを一口頬張った。

 ちなみに付け合せのパンは、帰り際に適当にカレーに合いそうな物を選んで買っておいた。


「おお、これは…。中々刺激が強いが美味いな。後を引く味だ」


「か、からーい!でも凄くおいしい!」


 二人からの反応は上々だった。

 俺も一口食べてみたが、初めて作った割りには中々美味く出来たと思う。

 もちろん試作段階なので、改良の余地はまだまだあるけどな。


 そして四人で試食を兼ねた食事をしていると、入り口の扉を誰かが叩く音が聞こえてきた。

 もう辺りはすっかり陽も暮れているが、こんな時間に一体誰だろう。

 俺は入り口の引き戸を開け、来訪者を視界に捉える。

 するとそこには、メイド服を身に(まと)ったエネットの姿があった。


「おお、エネットか。こんな時間にどうしたんだ?」


「こんばんはレンさん!いえ、近くを通りがかったら明かりが付いていたのでちょっと気になって」


「そうだったのか。そうだ、今試作品を試食しているところなんだが、エネットも良かったらどうだ?」


「え!いいんですか!?じゃあ折角だしお呼ばれしちゃおうかな」


 エネットが嬉しそうに俺に笑顔を向けてきた。

 その笑顔を見て俺は一瞬ドキっとしてしまったが、エネットは男だという事を自分に言い聞かせ我を取り戻した。

 それにしてもメイド服とは…。これもエネットの親父さんの趣味なのか。まあよく似合ってはいるんだけどな。


 そして俺はエネットを中へ招き入れ、もう一食分カレーを用意した。


「わぁ、美味しそう!ではさっそく頂きますね!」


 だがそこでエネットもアイシャと同じくスプーンでカレーを掬おうとしたので、さっきと同じ様にパンを浸して食べる物だと説明した。

 

「ふむふむ、こうですか?」


 そしてエネットがカレーに浸したパンを一口頬張る。

 すると次の瞬間、エネットが驚愕の表情を浮かべた。


「な…な…何ですかこの料理!凄く美味しいです!こんなのゴールドランクのお店でも食べた事無いですよ!?」


「そうか、気に入ってもらえたみたいで良かった」


 どうやらエネットはカレーの味を甚く気に入ったようだ。

 見る見る内に器の中のカレーは減っていき、あっという間に一杯のカレーを完食してみせた。


「ふう、ご馳走様でした!本当に美味しかったです!これだったら繁盛間違い無しですよ!」


「そうか。でもまだ試作段階だからな。これからもっと美味くなるぞ」


「こ、これより美味しくなるんですか!?ちなみに、どれくらいの値段で考えてるんですか?」


「そうだな、これにドリンクを付けて半銀貨一枚で考えてる」


「こ、これに飲み物が付いて半銀貨一枚!?通います!僕絶対に通います!」


 値段を聞いたエネットが物凄い食い付きぶりを見せてきた。

 ちなみに半銀貨一枚だと銅貨五枚分、地球の貨幣価値で例えるなら500円前後といったところだ。

 半銀貨一枚という価格設定は、俗に言うワンコインセットにならって考えている。

 肉はマジックボックスの中に大量に残っているし、光熱費に関しても魔法で全て代用出来るからタダみたいなものだ。なので半銀貨一枚でも回転率次第で利益は十分に出ると予測している。


「それは嬉しいな。というかエネットが良ければうちで働いてみるか?最初は給料はそんなに出せないかもしれないが、賄いでカレーもつけるぞ?」


「…ッ!」


 俺は冗談っぽくエネットにそう言ってみた。

 他意は無かったのだが、俺のこの軽口に対してエネットは予想外の反応を見せてきた。


「なんてな。まあ冗談だから気にしな…」


「やります!」


 まさかのエネットの返答に、俺は一瞬言葉を失ってしまった。

 

「い、いや…。気持ちは嬉しいんだが、不動産屋の方はどうするんだ?」


「家の仕事はあくまで手伝いだったので!きっとお父さんが馬車馬の様に働いてくれるから大丈夫です!」


「そ、そうか…」


 いずれ店が軌道に乗ったらホール担当は雇うつもりでいたので、知り合いであるエネットがうちで働いてくれるならこちらとしても大歓迎だ。まあエネットの親父さんが少し気の毒ではあるが…。


 こうして初日の試食会は上々の成果を残す事が出来た。

 だがまだカレーの味に改良の余地があるし、市場を散策してもう少しカレーに合うパンも探してみたい。

 

 まだまだやる事は山積みだが、俺達は開店に向けて確かな一歩を踏み出した。 


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