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第一話

とりあえず投稿。

修正・加筆の可能性大です。

「日替わり定食一丁お待ち!」


 威勢の良い声が店内に響く。


 ここは大衆食堂「水蓮亭(すいれんてい)

 昼時という事もあって三十席程の店内は満席に近い状態だ。

 厨房では二十歳にも満たないような一人の青年が包丁を振るっていた。


 彼の名前は一之瀬 蓮。

 身長は170センチ程と平均的だが、黒髪の短髪に比較的整った顔立ちで体も良く引き締まっている。


 蓮は高校を卒業後、春から料理学校に通う予定だったが、時を同じくして男手一つで店を切り盛りしていた父親が事故死。母親は蓮が小さい頃に既に他界しているので、蓮は若くして天涯孤独の身となってしまった。

 小さい頃から慣れ親しんだ店を潰したくなかった蓮は進学を取り止め、水蓮亭で料理人として生きる道を選んだのだった。


「ふう、まだまだ親父のように上手くは出来ないか」


 汗を拭いながら蓮はそう呟く。


 蓮は小さい頃から父親に料理の基礎を徹底的に叩き込まれた。

 元々才能のあった蓮は見る見ると腕を上げ、いつしか大人顔負けの技術を身に付けていった。

 暇があれば和洋中の様々な料理本を読み漁り、料理をマスターしていった。記憶しているレシピの数だけでもざっと1000種類にも及ぶ程だ。

 だがそれでもまだまだ父親には遠く及ばない、蓮はそう感じていた。


「親父、天国で見てろよ。いつか親父みたいな立派な料理人になってみせるからな」


 そして蓮は次のオーダーに目を通し一心不乱に包丁を振るうのであった。



****



「まいど!」


 俺は最後の客を見送ると、外に出て店の暖簾を下ろした。

 初夏という事もあり日中は汗ばむような陽気だが、夜になると気温も下がり、頬を撫でる夜風がとても心地よい。


「蓮お疲れ様!今日も大繁盛だったね!」


「おう。いつもありがとうな七海」


「もう、水臭い事言わないでよ蓮。幼馴染なんだからこれくらい当然よ!」

 

 店の中に戻ると一人の少女が笑顔で俺に語りかけてくる。

 

 彼女の名前は鈴原 七海。

 俺と同い歳の七海はこの春から俺が進学する予定だった料理学校に通っている。同じ料理学校に通う事を楽しみにしてくれていた彼女だが、俺が進学を取り止めた事を知った時はとても残念そうにしていた。

 だがその後一人で店を切り盛りしている俺を見かねてか、学校が休みの日はこうやって店の手伝いをしてくれるようになったのだ。


「少し待っててくれな。今賄い作るから」


「あ、じゃあ私も手伝うよ!」


 そう言うと七海は嬉しそうに俺の近くにパタパタと歩み寄ってくる。

 七海は贔屓目に見てもかなり可愛い部類に入ると思う。くりっとした目にセミロングの綺麗な黒髪で、髪はいつも大体ポニーテールにしている。身長は160センチ程だが、細身のせいかスタイルはかなり良く見える。

 実際高校時代はかなりの数の男から告白されたようだが、七海はそれを全て断っていたようだ。

 俺は小さい頃から一緒だったせいか、異性というよりも妹の様な存在として七海を見ている。だがもし今後七海に彼氏でも出来ようものなら俺に挨拶に来いと言うつもりだ。いや、割と真剣に。


「それにしても蓮の料理の腕前って本当に凄いわよね。うちの学校の先輩にもそんなに腕の良い人はいないわよ?」


「そうなのか?それなら七海も頑張ればすぐにトップになれそうだな」


「そんな簡単に言わないでよー!蓮はちょっと規格外過ぎるんだってば!」


「規格外ってそんな大げさな。…よっし、後はソースを掛けて…と。オーケー出来たぞ!」

 

 七海と談笑を交えながら、俺は料理を仕上げた。

 今日の賄いは余ったキャベツの葉と牛肉で作ったロールキャベツだ。うん、余り物でこれだけの物が出来れば上出来だろう。


「わー!美味しそうな匂い!ね、早く食べよう!」


「ははッ。料理は逃げないから慌てるなって」


「料理は出来立てが一番美味しいんだよー!あ、私配膳は私がするから蓮は座ってゆっくりしててね!」


 そう言うと七海はテキパキと配膳を始めた。

 きっと将来は良い奥さんになるんだろうな。

 だがもし結婚相手が七海を悲しませるような奴だったら、その時は俺が一発ぶっ飛ばしてやるけどな。…って、さすがにちょっと過保護過ぎるか。



****



 食事も終わり、俺達は店内のテーブル席に向き合って座り話に花を咲かせていた。

 大体いつも七海が一方的に学校であった出来事を話すだけなのだが、一日中店で料理をしている俺からしてみれば、そんな七海の他愛ない話もとても面白く感じた。

 それと同時にちょっとした羨ましさを感じたりもするが、それは七海には黙っておこう。 


「あ、そろそろ帰らないと」


「もうこんな時間か。途中まで送ろうか?」


「大丈夫だよ近所だし。蓮も疲れてるでしょ?」


「もうさすがに慣れたよ。こうやって七海も手伝ってくれてるしな。本当にいつも感謝してるよ」


「か、感謝してるなんてそんな…」


 俺が七海に感謝の気持ちを伝えると、七海は顔を赤くして顔を伏せてしまった。…俺なんか変な事言ったかな?


 そのまましばらくお互いに沈黙が続いたが、静寂を破るように七海がそっと口を開いた。


「…あのさ、蓮」


「ん?」


「私が料理学校を卒業したら、私も蓮と一緒に…」


「─ミツケタ…」


 その刹那、七海の言葉を遮るように聞き覚えの無い声が店内に響き渡った。


「え!?」


「な、何だ今の声!」


「─ショクノミチヲココロザスモノヨ、ワガモトヘ…」


 すると次の瞬間、俺達の目の前に光り輝くゲートの様な物が現れた。

 突如目の前に現れたゲートのような物は、強力な引力を発しながら俺達を引きずり込もうとしてくる。


「な…なんだこれ!おい、七海!逃げろ!」


「い、嫌!蓮が吸い込まれちゃう!」


「馬鹿やろう!俺の事はいいから早く…!」


 そうこうしている内に、気付ば店内全体が歪み始めていた。どうやらこのゲートのような物は俺達だけではなく、この店を丸ごと吸い込もうとしているみたいだ。


「七海…!」 


「れ…蓮…!」


 薄れゆく意識の中で俺は必死に七海の手を取るが、次の瞬間俺は七海と共にゲートの中に吸い込まれ、そのまま完全に意識を手放したのだった。



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