D-7
「みなさーん!見てください!埼玉が大気汚染で真っ暗、埼玉スカイタワーも見えません!光も殆ど見えません!大変です!日本の首都、埼玉が今、大変ですよー!」
「・・・ハァ。」
ため息をつき、体の力を抜く。
後ろから男が近づいて、こう言う。
「Hi、ジョー。またジャパンのTVかい?懲りないねえ」
ヨハンだ。ドイツ生まれ、アメリカ育ち。
俺の同期で、多分本部内で一番仲がいい。
「ヨハンか・・・見てみろよこれ。。新潟の時は10秒で終わったのにな、首都になると大騒ぎだ。」
ヨハンはハハハハ、と笑い、こう言う。
「何言ってるんだ、ジョー!お前は今アメリカにいるんだぜ?日本の心配してどうする!」
「つってもなあ、一応母国だし・・・」
そうこうしている内に、放送スピーカーから大音量で声が流れる。
紛れも無い。この本部の長の声だ。
「D-1からD-16班に告ぐ。至急各班の部屋に向かうように。班会議を始める。繰り返す。D-1からD-16班に・・・」
「おーい、D-7のジョー。会議始まるってよー。」
ヨハンが半笑いで話しかけてくる。
「お前もD-7の癖に。ほら行くぞ?」
「レッツゴー!」
ヨハンは張り切っているが、自分はあまり気が向かない。
会議というのは、いわゆる仕事内容の確認の事だ。
会議が終わった直後から、その仕事に就く事になる。
俺は別に仕事が嫌いな訳じゃない。
何しろ、地球を守りたい一心で、はるばるアメリカまで来たのだから。
だが、なんと言うか、その内容が・・・
「D-7、全員集まりました。」
一応俺は、この班の班長を務めている。
といっても大して重要役ではなく、いわゆる学校の班長のような立場だ。
「おう、よく集まった。ビールでもいくか?ガハハハハ!」
そしてこの人は班の責任者、アーロンさん。ロシア国籍。
結構豪快な人で、冗談と酒が大好き・・・らしい。
「んで、今日の仕事だが・・・さあ、何でしょう?ジョー!」
「管轄内の空気清浄機の点検と、防塵マスクの整備・・・どうせそんなもんでしょう」
「正解だ!流石だ班長!」
そう。これが俺達の今日の仕事内容だ。
何故こんな仕事かと言うと、俺らがD班だから。
今の所本部ではAからFまで、それぞれ16の班がある。
D-7と言うと、中の下ぐらいの立場だ。よって責任のある仕事は出来ない。
特に大きな仕事なんかは、Aの班に任せっぱなしだ。
「まあ、という訳で、・・・ぶっちゃけ、この仕事クソつまんねえよな?」
「アーロンさん。アーロンさんがそんな気持ちでは、どうかと思いますけど。」
今班長に物申したのは、同じ班の山宮 未央。同じ日本国籍。
物凄い真面目で要領がいいが、何故か上の班に行けないらしい。理由は分からない。
おなじく班にクロエという女の子がいるが、これまたすごい無口で殆ど何も喋らない。
「怖い事言うなよ、ミオちゃん?これから特別任務を任せてやろうと思ったのにさあ。」
「特別任務?」
嫌な予感しかしない。
アーロンさんの出す特別任務と言ったら・・・
「点検先にいるA班の奴らにケンカ売って来い!」
これだ。
「・・・おいおい、まじかよ。そりゃ色々と問題あるんでねーの?」
「知るか!インパクトが大事なんだ、インパクトが!」
今回もこの無茶っぷりである。
しかもこれ、冗談ではない。本気で言っているのだ。
前に「A班の私物を盗んで来い」と言われ無視したら、何故かすごく落ち込んでいた。
どれだけA班が嫌いなんだろうか・・・
「それじゃあ、会議終わり!仕事行くぞー!」
点検先。本部に隣接した、世界最大の空気清浄場だ。
有害物質や塵が混じりこんだ空気だ、これが無ければ大変な事になる。
この216個の清浄機の内、12個の点検がD-7の管轄内。
「なー、ケンカ売るって言ってたけど、どうするよ?」
「ダメに決まってるでしょ!本気で言ってるの!?」
「いや、だってそしたらまた落ち込むじゃん・・・俺アーロンさん結構好きなのに」
未央の反発に、愚痴気味で反論するヨハン。
そんな内に、そばから数人の偉そうに振舞う班が現れる。
A-4だ。
「おいおいD-7諸君?何をサボっているんだい?」
「全く困りますね。上官に報告です」
「うわ・・・来たよ」
これが今回の点検の監査チーム。見ての通り、偉そうだ。まあ偉いのだが。
何故かこの班だけは、毎回と言っていいほど自分達D-7に絡んでくる。
きっと、見下しやすいと思っているのだろう。
「なあ、ジョー・・・」
ヨハンが小さい声で話しかけてくる。
その口元は、面白さを隠せないのを見せるように吊りあがっている。
「・・・こいつらにケンカ売ったら、面白くね?」