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マジック・デッド・サーヴァント  作者: 浅咲夏茶
第一章 召使と獣
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自宅案内

 大体六時半……いや、七時ぐらいだった。奏汰は、時刻を正式に覚えてはいなかったが、帆人と家の玄関で別れた。


 土日明けの六日、月曜日に白山駅前で会う約束をして、奏汰は帆人が新津駅の方向へ歩いて行くのを見送った。本来であれば、新津駅まで見送ってあげたかったのは山々だったが、家の中に居る居候娘が何をしでかすか分からなかったため、なかなか奏汰は行動に移れなかったのだ。


「あ、奏汰様……。い、今更なんですが、さっきのあの男の人の名前って何ですか?」

「あいつは『帆人』だよ。典型的なリア充。義理の姉妹に二人の幼なじみだぞ。一体、今の二年生のどれくらいが嫉妬していると思っている? 俺も嫉妬している中の一人だ」

「そ、そうなんですか……。で、ですが、奏汰様には一応私だって居るわけですし……」

「そうだな。確かに、唯依は可愛いと思うぞ。金髪ロングで蒼眼でさ。勿論、俺は唯依を女の子としてみているつもりだぞ。だから、さっきキスされた時、相当ドキッとした」

「そ、そうだったんですか。……て、照れますね。へへ。……か、奏汰様?」


 目の前にいたのが女神だと思ったのだろう。奏汰は、その女の子をじっと見てしまった。特に何も考えていなかったのに、そちらをじっと見てしまった。そして、その女の子が可愛いと、奏汰は何度も心を締め付けられるくらいに思った。


「ところでその、奏汰様。と、トイレは一体何処に……」


 奏汰は「そういえば!」と、今更ながら唯依にトイレの場所などを説明していなかったことに気づいた。


 しかし、奏汰の中の煩悩が大きくなろうとしていた。

 その為、奏汰は思った。「唯依の弱っているところを見てみたい」と、おもいっきり我慢させれば、敬語を使っている今とは全然違うような、タメ口の唯依が見れるんではないか、と。


「あ、あの、奏汰様、で、出来ればお早めにお願いしたいのですが……」

「ああ、すまない。それじゃあ、まずは風呂場から案内するよ。ああ、別に風呂場にトイレはないが、後々の事を考えれば、やはり風呂から説明した方がいいと思ってさ」


「そ、そう……です……か……」


 身体を震え上がらす唯依に、奏汰は不吉な笑みを浮かべた。いや、ニヤけているとでも言ったほうがいいかもしれないが、奏汰が笑みを浮かべたのは間違いではない。


 説明をしながら奏汰は風呂場に案内した。しかし、風呂場の近辺にトイレはない。


「あ、あの、奏汰様。ところでトイレは……」


 涙目になりつつあった唯依を振り切り、笑顔を見せて奏汰は二階へ通ずる階段を上り、唯依を自分の部屋へ案内した。ただ、自分の部屋の近辺にトイレが有るため、そこへ唯依を向かわせないように気をつけながらだったが、唯依は奏汰の部屋、それに二階に来るのは初めてであるため、トイレの場所には気づくはずもなかった。


「よかった……」


 奏汰は、唯依を見て笑みを浮かべた後、安堵の表情を見せた。


「あ、あの、奏汰様? 今度はトイレに……。本当、もう我慢の限界が来ちゃ……」


 うっすらと、彼女はタメ口へ近づいてきているのがわかった。しかし、まだまだタメ口になっているわけではないし、震え上がって最後の方の台詞を言えなかったからそう聞こえるだけなのかもしれない。


 奏汰は、震え上がっている彼女を落ち着かせようと、彼女の肩に手をおいた。


「ひゃっ!」


 しかし、奏汰の取った行動の本来の意味はそれではなかった。タメ口の唯依が見たい故にとった行動なのだ。だから、奏汰に『落ち着かせようと』なんていう思いは皆無だった。


「――先に夕飯、食べようか」


 奏汰はまた笑みを浮かばせて唯依の方向を見た。あれだけ時間が有ったのだから、気が利いている召使であれば、料理の一つや二つくらい作っていてくれるだろうと思ったのだ。


 しかし、その甘い考えは、奏汰の前から一瞬で姿を消した。唯依に連れられてリビングに向かうと、テーブルの上に料理などなかったのだ。


「なん……だと……!」


 驚愕した表情。

 唖然とした表情。


 奏汰を多くの思いが襲った。勿論、奏汰は弱っている唯依に手を出すなど、そんな真似はしなかった。確かに、自分から唯依をいじめようとして始めたことだったのだが、流石にそれを注意するのもどうかと思ったのである。


「ゆ、夕飯の準備はこれからのつもりだったんです。勝手に家の器具を壊したらダメだと思ったから、私は奏汰様が来るまで待っていて、それから手料理を振る舞おうと思って」


 弱っている唯依が必死に奏汰に訴えたのは、夕飯のことに関してだった。

 唯依は、奏汰を気遣ったのだ。帆人が主人の部屋に遊びに行っていることを考え、自分は姿を薄くし、出来る限り見えないようにしようと。いや、見えていたとしても、存在感を薄くしようと。 


 唯依は、そう思っていたせいか、リビングを出られなかった。勿論、トイレへ行くなんて、そんなの論外だ。リビングを出られなかったのだから、トイレに行けるはずがない。

 奏汰は、ふと思ったことを口にした。


「トイレ、行って来い」

「えっ……」


 奏汰の中の心が、先程までとは別人かに見えるほどに変化した。奏汰は、唯依がトイレへと向うことを許可した。


 当初、奏汰は唯依のタメ口が見れるかと思っていたが、正直そんなことはどうでも良くなっていた。唯依の奏汰に対する忠誠心が伝わった形だった。


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