雑談
「お前の部屋のこのポスター、流石にやばいと思うんだが……」
強引に帆人を自分の部屋へ連れ込んだことを、奏汰は後悔するようなことはなかった。何しろ、目の前に居る奴は『男』である。それに、イケメンである。
幼なじみや義理の姉妹を持ち、更に成績も優秀な方に位置しているのだから、奏汰は捻くれていたのだ。彼から罵倒されようと、何を言われようと動じない……みたいなことを思って。
「ああ、別にそれ凛音のポスターじゃん。別に兄が妹のポスター貼っても、異常じゃないだろ。つか、この部屋普通に妹出入りしたりするし。だからエロ本とかは置いてないぜ」
「夜の嗜み、しないとダメだぞ。思春期なんだから……」
「うっせえよ! お前、人のそういうところばっか聞き出すなよ!」
「奏汰さん、ツッコミおつかれっす」
「はっ、こまけえこたあいいんだよ。俺はただ、自分のやりたいようにしているだけだ」
「か、奏汰さん……っ! やっぱ、やっぱり奏汰さんって、マジぱねえっす!」
何なのだろうか、と奏汰は思った。これが遊びの一部なのだろうか、と。ただただ、ネットスラングやらからネタを引っ張り、それを現実世界で言って痛い思いをしているのを、自分たちで笑っているだけ。これが遊びなのだろうか。
「で、奏汰。本題へ移りたいんだが――」
「なんだ。ああ、お前のことだから凛音のポスターをどうたらこうたら……」
「な、何故だッ! 何故、何故俺が思ったことがバレているんだッ!」
そうだったのか……と、自分の予想があたったことに何の喜びを感じることもなかった奏汰は、ポスターを貰いたいがゆえに興奮しだした目の前の男を、白い目で見る。
「だって、そのポスターは凛音様の『アイドル活動一周年記念イベント』の時の記念ポスターだし、それにポスター以外にも、凛音様のスク水写真が大量に撮られた写真集とかさ、それこそ、凛音様の特別サイン入りCDディスクとかさ、お前、ふざけんなよっ!」
「いやだってほら、俺、『お兄ちゃん』だし……」
「……アイドルから『お兄ちゃん』と呼ばれているとか、マジでもう……イライラするわ」
「いや、そんなこと言われてもだって、俺と凛音は血の繋がった……」
奏汰と凛音は年齢が一つ離れているが、それほど離れているわけではない。確かに、奏汰と凛音の誕生日には一一ヶ月の差がある。四月の十五日に産まれたのが奏汰で、二月の十五日に産まれたのが凛音である。どちらも、母子共に健康で生まれたが、若干凛音の方が体重が軽かった。対して、奏汰は結構大きな体格をしていた。
「そうなんだよなあ。まあ、でも俺は羨ましいんだよ。そういう、アイドルの妹を思ったワケありの兄とかさ、凄い憧れる。痺れちゃう」
「痺れちゃうとか、憧れるとか、ジョ○ョネタを使うのはやめてくれよ……」
「あれだろ? ジョジ○第X巻まで全部読み終えてからどうたらこうたら……とか言うんだろう? でも、俺にそんな話は通用しない。俺は、もうジョジ○を読破している!」
「悪いかよ。俺だって、金さえあれば……」
だが、奏汰は思った。『金だけで人は作れない』と。金以外にも、人を構成する要素は数多く存在するんだということを。だから、『金だけで人は作れない』と奏汰は思った。
「御免、今の撤回。金さえあれば何でもできるわけじゃないから……」
「ああ、そうだ。金と心で人は出来てるから」
「能力もな」
「ああ、御免。忘れていた」
そんな会話を、奏汰は帆人とした。入学式の際に、前の学年委員会の顧問の先生から扱き使わされたことなど、この時の奏汰にも、帆人にも、そんなの忘れてしまうくらいのものになっていた。二人ともテンションが上がってきたのである。
二人は、そんな風にテンションをマックスとまではいかなかったが、結構上げた上で奏汰の部屋に有った据置型のゲーム機等で遊んだ。