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人神  作者: あけぷぅ
1/9

森の神

頻繁に投稿できないと思われますが、この話しは暴力的な表現が含まれてくると思われます。文才がないのでもしかしたらぬるいかも知れませんがお気をつけ下さい。予定では、首とか腕とか。

 日照りが二十日ほど続いた。とは言え村近くの森は青々と茂り、森の中にある滝水は枯れてはいない。暑さも苛立ちが募るほどのではなく、気づけば汗を掻いていた程度だった。

 けれど村の年長者は違ったのだろう。森の入り口に立ててある祠の前に、村一番年老いた老婆が背中を丸め座っている。時々もごもごと何か呟いているが聞き取れやしない。拝む暇があったら森から水を運んで生活の足しにした方が健全だ。老婆の丸まった背中を睨み、ヒエンは水瓶を背負いなおす。やっとの思いで水汲みから帰ってきたというのに、入り口で神頼みをされていては面白くない。

 居もしない神様に手を合わせたって雨も降らなければ、腹の足しにもならない。水瓶を置いたら、兎か鳥を狩りに行こう。いつもなら老婆の背を通り、村の貯水場に瓶を置きに行くが、今日は何故か祠の前で足が止まった。

 祠は草木の影の下に佇んで、日照りを遮った場所はちょうど老婆の背中まで覆っている。今日は祠の後ろに女が居た。祠の屋根に寄りかかり、蹲る老婆を眺めている。村人であれ都人であれ、胴を覆う服を着るが、胸元と腰に布を巻いているだけだ。異様だ。肌をそれだけ出しているのに、日に焼けていない。幽霊か化生か、老婆を見下ろす眼は何も感情を宿していないように見えた。

「だれだ、おまえ」

老婆の肩が小さく揺れ、ゆっくりと振り返る。

「何を言っている」

 皺枯れた声を聞いてから、女は少しだけ目を開く。

― ほう。我が視えるか ―

得心したように口元が動いたと思うと、老婆を指差した。

― なら、この者に伝えよ。我は水を司る者ではない。我に水を求めるなら対価を払え ―

「対価って……」

 今度は老婆が堰切ってヒエンに縋り叫んだ。

「なら、ワシの命をくれてやる!止めねばならん!止めねばならん!」

― 合い分かった ―

 気づけば老婆の横に立ち、下から掬うように女は手の平を持ち上げる。背筋が一瞬だけ震えた。

「やめろっ!」

叫ぶと同時に女は手の平を天に掲げ、老婆の身体はゆっくりと傾いて乾いた土の上に伏した。手の平の上に淡く光る玉が浮かぶと、白い腕にうねる蛇が絡みつく様に水色の模様が浮かび、すぐ消えていった。光の玉も手の平からゆっくりと消えていく。

 呆けている顔に水滴が落ちる。雲ひとつ無い空から、一つ、また一つと水が落ちてくる。

― 三日降り続ける。後はまた自然に降る。 ―

 女が天を指差しても、ヒエンは上を見上げることはしなかった。雨音を聞いて家々から人々が飛び出し歓喜を上げている中で、老婆の頬に降り落ちた雫が零れるのをただ眺めていた。


 女の言うとおり、しっとりとした雨が三日降り続く。ヒエンは何度か祠の前に佇んだ。見慣れない女は祠の上に寝そべるように浮いている。浮いているのだから、人ではない。

― 恨み言ならいくらでも聞くぞ ―

「ねぇよ」

 女は片眉を上げ、少し意外だという目を向けた。

― ないのか ―

「ばばぁが望んだことだろ、なら俺に何が言えるんだよ」

― 確かに。だが血族でなくとも親しき者であったなら、 ―

「ねぇよ」

女はまた同じしぐさをする。微々たるしぐさでも、人のように見えてしまう。

「おまえは何なんだ?」

― なんだ、そんなことか ―

「誰も。誰も、目に入るはずのお前に対して、疑問をもたない」

― 本来なら視えはしない ―

女は地面から少しだけ浮き、ヒエンより少し上から見下ろしていた。姿は人そのもの、しぐさも、ましてや言葉すらヒエンと大差はない。髪の色や目の色、服装を比べなければ、人と認識してしまいそうになる。

女は胸元に片手を沿え、ヒエンに向かい合って口を開ける。

― バケモノだ ―


興味を持っていただき有難うございます。

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