仲直り大作戦
あの決闘から一週間が過ぎた。
クラスメイトとも大分打ち解けてきた頃だ。
「なあ、今日の昼飯どうする?」
栗壺が明るく訊いてくる。
「学食でいいんじゃないか? 今から行けば席も空いてるだろうし」
「じゃ、そうするかー」
背伸びをして立ち上がり、学食へ向かう。
天学は寮制度だ。
そして、栗壺が俺のルームメイトだ。
中々馬が合うので退屈しない。
茜原にはいまだに避けられてるけど。
仲直りしないといけないよな。
だけど許してくれそうな気配がしないのだ。
「はあ……」
「ん、どうした?」
心配そうに俺の目を覗き込む栗壺。
「ああ、ちょっとな」
「茜原のことか?」
「……うん」
「まあ、仕方ねえよ。お前が不意打ちしたあたりからかなり怒ってたし。お前逃げてばっかだし。それに、なあ?」
苦笑いしながら俺の肩を叩く。
「結局、委員長誰になったんだ?」
あの後、火傷の治療でその場にいなかった。
なので俺はもう一人の委員長を知らない。
「田中がやることになった」
「誰だっけ?」
「あのいつもニコニコしてる女子」
「我がクラスの男子は腰抜けばかりか」
「そう言うなって。茜原かなり気が立ってたし、みんなビビっちまってよ」
まあ、俺が言えることじゃないのだが。
「ていうか、クラス対抗戦っていつからだっけ?」
「今週末だな。ワクワクしてきたぜ」
クラス対抗戦。その名の通り、クラス対抗で模擬戦を行い勝ち負けを決める。
委員長がやられたらそのクラスの負け。
他の生徒は何度やられても治療が済んだら復帰できる。
「正直、この力じゃ俺は役に立たないからなあ」
俺の能力はアイスキューブを出す能力と降っている雨を強くする能力。
後者の方は応用が効き物体の落下速度を速めることができる。
だが、それがなんの役に立つというのか。
「まあ、気にするなよ。総合戦なんだし」
哀れみを帯びた視線を感じつつ俺は歩いた。
ちなみに栗壺の能力はエネルギー照射。
他の誰かに自分のエネルギーを分ける事だ。
剣の形状は太刀。
カッコいい。正直羨ましい。
学食に着くと、手近な席に二人並んで座る。
今日の日替わりメニューはカツカレーとビーフシチューのどちらからしい。
「どっちにすっかな」
栗壺が悩んでいる。
「俺はビーフシチューにしよう」
「じゃあ、俺はカレーだ」
栗壺も決めたので俺は立ち上がり列に並ぶことにする。
「席とっといてくれ」
栗壺に席のキープを頼み人ごみに突入する。
「あ、藤代君。お昼?」
前に岡倉がいた。
「おう、これは奇遇だな」
「うん、ここのご飯、美味しい」
にっこり微笑みながら話す岡倉。
「そう言えば藤代君、茜原さんとは仲直りした?」
「あー、まだしてない」
「それはダメ。ご飯食べたら仲直りしにいこう」
少し咎めるような口調の岡倉。
確かに後に延ばしてても良いことはない。
「そうだな、茜原と話してくるよ」
俺が言うと、再び岡倉は微笑む。
「うん、それがいいと思う」
「なあ、藤代、お前じゃがいも食える?」
カレーもそもそ食っていた栗壺が急に訊いてきた。
「……食えるけど、それがどうかしたか?」
「俺のカレーの食ってくれない?」
見ると、カレーの皿にはじゃがいもが端っこに固められていた。
「お前は小学生かっ!」
「頼むっ!」
本気で懇願してくる栗壺。
「まあ、別にいいけど」
じゃがいもをすくって俺は口に運ぶ。
「助かるぜ」
栗壺はホッとしたように言いそのままお盆を持ち返しにいった。
昼休み残り十五分。
俺は茜原を探していた。
だが中々赤い髪のおチビさんは見つからない。少し休憩しようとテラスに出る。
そこにお目当ての茜原がいた。今日もポニーテールがしっかりと結ばれている。
こちらに背を向けているので表情はわからない。
「……おっす」
俺が声を掛けると振り向き目が合う。
軽く手を挙げて挨拶するも、目を伏せられてしまう。何とも言えない距離だ。
「ああ……」
そっけない返事が返ってきた。
うーん、どうしますかね。
「あーっとさ、なんつうのかな、悪かった」
歯切れが悪いながらも謝罪する。
「何がだ?」
「いや、先週のこと」
「うむ、大変不快な思いをした」
険しい表情の茜原はやはり簡単には許してくれない。
「その、だな。悪気は無かったんだ。不幸な事故が重なって……」
「お前がわたしに不埒な行為をしたのは確かに事故だ。だが、お前は最初に卑怯な手を使った。それがわたしには許せない」
「それは、その、手段を選ばないというか」
「そんな形で手にした勝利などなんの価値もない!」
「……」
茜原の気迫に押される。彼女は本気で俺に対して怒っている様だった。
「わたしはここに、自分を磨きにきた。今よりも高みに登れるように。父や母にわたしの生き方を反対されもした。お前は女だと。剣を取る必要などないと。だが、わたしは証明したいのだ。わたしが戦えることを!」
「そうか……」
「お前はなぜここに来た! どのような目的で剣を取るのだ!」
「俺は……」
答える事ができなかった。
情けない。何も言えない自分が悔しい。
「結局お前はその程度なのだ。あまりにも中途半端な男だ」
吐き捨てるように言う。
「そろそろ、午後の授業が始まる。遅れるなよ」
そう言い残して茜原は去っていった。
「俺の、ここにいる理由」
なぜだろうか、本心をさらけ出したら終わりな気がした。外を見ると、雨が降り始めていた。
「今日は天気が悪いな」