距離開く時には
ビシッと俺を指名する茜原。
その表情は自信に満ち溢れている。
ていうか、なんで俺を指名するんだよ。
「いや、他に適任がいるだろ!」
「お前はきっといい委員長になる」
「話を聴けよ!」
抗議するが茜原は不敵に笑う。
「なんだ? 修介はやりたくないのか!」
「ああ、やりたくないね」
「うぬぬ、なぜなのだ?」
「なぜって……厄介ごとは引き受けないに限る」
「なぜ厄介ごとと決めつけるのだ!」
「とにかく!やりたくないんだよ」
険悪な空気が流れる。
俺が悪いのか?
「じゃあ、決闘できめよう!」
先生が手を叩きながら言う。
「決闘って本気ですか」
「あら、勝ったら委員長やらなくてすむんだよー」
それはそうだが……
勝てる気がしないんだよなあ。
「勝負になるんですかね」
「わたしは別にいいぞ。受けて立つ」
茜原はやる気のようだ。
「わかりましった。やりますよ」
俺もしぶしぶうなずいた。
「本気で来い、修介!」
気合入った口調で話す茜原。
本気でいっても足元にも及ばない気がする。
だが、これでも俺は男だ。
男には負けるとわかっていても戦わねばならない時がある。
「手加減しないぜ?」
俺はニヒルに笑った。
決闘はスタジアムで行われる。
この学園はだだっ広い施設が嫌という程あるがそのうちの一つだ。
軽やかに歩いて行く茜原と違って重い足取りの俺。
「しっかし、お前も運がねえよなあ」
クラスメイトの栗壺裕夜がケラケラと笑う。
「他人事だと思って……マジで憂鬱なんだけど」
栗壺はさっき知り合った明るく元気な印象の男子生徒だ。
金髪の髪が人の良さそうな目元と合っていない。
「まあ、頑張ってくれよ!」
俺の背をはたくとまた笑う。
スタジアムに向かう途中で他の人たちからもからかい半分、応援半分を受ける。
「藤代君、大丈夫?」
岡倉が俺のことを心配してくれている。
保護欲を掻き立てる眼差しにハートがキュンキュンだ。
「やってみるさ、適当にな」
「相手はかなりの強者。油断は禁物」
「わかってる。つーか、油断なんかしていないぞ。恐怖に震え上がっている」
「その割には飄々としている様に見える」
「これはあれだ。自分を保つための秘訣だ」
「そう……変なの。藤代君は不思議」
岡倉には言われたくない。
なんだかんだでスタジアムに着いた。
「修介、わたしが勝てば委員長になれ!」
「俺が勝ったら委員長は断った上に付き合ってくれ!」
「たたっ! つ、付き合う⁉ 何を言っているのだ!」
俺の揺さぶりに引っかかったな。
茜原は動揺を隠せていない。
「しゃあっ! 隙ありぃ!」
狙いをボディに定める。
「なっ⁉」
目論見はうまくいくかと思われたがさすがは戦闘スキルBランクの茜原。
俺の攻撃を簡単に受け流す。
「くそっ、惜しい!」
「お前 卑怯だぞ!」
「卑怯もラッキョウもないぜ?」
「そんなことをする奴だとは思わなかった……正々堂々戦え!」
茜原が叫ぶと同時に炎が巻き起こる。
「やべえ!」
間一髪でかわし、受け身をとる。
茜原は涙を浮かべながら炎を周囲に這わせている。
「まさか……お前が、卑怯者だったとは、ぐすっ、ひっく」
えー、なんで泣いてるのよ。
「たまらなく、悲しい!」
「俺にどんなイメージ持ってたんだよ⁉」
燃え上がる俺の周り。
逃げ場が封じられていく。
茜原はゆらゆら揺れながら俺の方に近づいてくる。
「叩き割ってやる!」
茜原が剣を取り出す。
形成されたその武器はまさに炎の大剣。
あの一撃をくらったらそのまま天国のじいちゃんと再会できそうだ。
「なら、こっちも」
俺も剣を形成する。
ひのきのぼうだけど。
「弱そうだなー」
固唾を飲んでいたギャラリーが失礼な事を口にする。
「それがお前の剣か。かかって来い!」
周りは炎で囲まれている。
空いているのは茜原へと続く道のみ。
行くしかないか。
「らっしゃああっ!」
棒を振り上げ立ち向かう。
「はあっ!」
茜原の鋭い一太刀が俺の剣を砕く。
「早っ! 脆すぎだよ⁉」
退却ー!
背を向けてスタコラ逃げる俺に炎が立ちふさがる。
「うわっ!」
前から茜原、後ろには炎の壁。
絶体絶命っ!
「はっ、こんな時は……」
俺にはまだ能力があるのだ諦めるな。
「出でよ、アイスキューブ!」
手のひらからアイスキューブを射出する。
出た瞬間溶けた……
「なんて温度だ……!」
「あいつはばかなのか?」
固唾を飲んでいたギャラリーから失礼な声が聞こえた。
「終わりだな、そこに直れ、問答無用!あの世で悔い改めろ!」
「行け、アイスキューブ!」
俺は再びアイスキューブを発射した。
さっきとは違いかなりのエネルギーを溜め込み放出したのですぐには溶けない。
「おわっ⁉ 冷たい!」
茜原はいきなり顔に水がかかったので驚いている。
「まだだ!」
アイスキューブを天井に向けて発射する。
そして、もう一つの能力、雨を強くする能力を応用し、アイスキューブの落下速度をあげる。そりゃもう、かなり速く。
「痛いっ!」
Bランクといえど普通の女の子。
剣が防御に回る。
「おらあっ!」
折れた棒を投擲する。
うまい具合に手に当たり剣を取り落とした。
隙ができるのを見逃さない。
チャンスを逃さず間を詰める。
「修介ぇぇぇ!」
「茜原ぁぁぁ!」
俺たちはぶつかり合った。
だが、そこはさすがに男女の差。
俺が押し勝つ。
そのまま倒れこみ押し倒す形となった。
「いててっ……!」
「くうっ……!」
ん? 手が何か温かく柔らかいものに触れているな。
これはあれだろうか、おっぱいというやつだろうか。
「し、修介ぇ……」
茜原が色っぽい声を出す。
ああっ、神よ。これがおっぱいなのですね。
俺の手が指の関節運動を加速させる。
夢心地で揉みまくる。
「あっ……んぅ、あんっ、ま、待てっ、やめ、ろ!」
「ぐはっ!」
物凄く重たいパンチが俺の頬に入る。
「な、ななにを、するんだぁお前はぁ!!」
「な、待て! 不可抗力だ、わざとでは」
「黙れぇー!」
その後は、地獄を見たね。
「わたしの見込み違いだった。委員長はやらなくていい」
泣きじゃくりながら俺に告げた茜原は目も合わせず歩き去って行った。
とんでもない罪悪感が遠慮なくのしかかる。
俺はまた、やらかしちまったようだ。
それ以来茜原は俺と口をきかなくなった。それどころか俺に会うとすぐにその場を去る。簡単に言って避けられていた。距離をおかれていた。なんだか、切なかった。